【完結】廃品を直して売る俺は娼婦の息子の奴隷商。聖女でも王子でもないからほっといてくれ!

鏑木 うりこ

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32 我慢が足りずに吹き出した

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「陛下ぁ、御前失礼するぞ?こいつが筆頭書記官。因みに書記官の全てはクロだ。あんたマジで内政を顧みなかったんだ」

 脳筋隊の1人が待ち構えていたように、デズモンド自称公爵の隣に痩せた眼鏡の男を転がした。

「ふむ、その男には見覚えがある。筆頭書記官で間違いないな」

「へ!陛下!この無礼者達に処罰を!私は陛下に忠誠を誓っております!長年陛下にお仕えしている私がこのような辱めを受けて良いはずがございません!!」

 痩せた眼鏡も必死で陛下の御威光に縋る。着ている服は高価だが、内容はとても薄い。多分、筆頭書記官の名前も覚えていない陛下は冷たく口を開く。

「では、筆頭書記官よ、お前の隣で転がっているその男は何者だ?」

 おっと!これは大事な質問だぞ?このデズモンドは完全に陛下を裏切っている。こいつを庇わず突き放し切り捨てればあるいはこの名も知らぬ書記官に生きる道もあるかもしれない……。

「へ?デズモンド・ザサード公爵閣下であらせられましょう?」

「ぶっ?!」

 フローラ傭兵団!我慢が足りない!!ほとんどの眼鏡、脳筋が堪えきれなくて吹き出した。

「ちょ、ちょっと聞いた?リーヤちゃん!聞いた?聞いた??」

「母さん……大笑いしすぎ」

 礼儀も作法もなっていないが、フローラ傭兵団に馬鹿は居ない。誰も彼もどこかの国の一騎当千なのだ。頭のてっぺんから爪先まで筋肉で出来ていても、を外す馬鹿は一人もいない。

「成程、よく分かった。城のは引き続き任せて良いかな?アシューレス殿」

「フローラ様の名にかけて」

「心強い」

 アスのおっさんはあくまでフローラ母さんの為にやってやるよと確認してきた。そして皇帝も母さんが信じる者を全て盲目に信じている。

 はあ、皆、母さん母さん。そんな俺も母さんに振り回されてるなぁ。そう考えると母さん凄いな?

「あの人何年カリウス様を騙して来たのかしら?えーと全部罪を合算するの?凄くない?一回死刑になっただけじゃ足りなくない?一族浪党捕まえちゃうの?牢屋足りるのかしら?」

 呑気な顔で指を折り曲げながら数える母さんに、筆頭書記官はまさかと震え上がった。どうやら自分が試され、失敗したことにすら気が付いていないようだ。皇帝のサインを偽造したんだぞ、極刑は当たり前じゃないか……。

「大丈夫ですよ、牢だけは沢山作られているようですから。誰かさんの趣味のお陰でね……」

 自称公爵は青い顔を土気色に変えながらさらに縮み上がったが、誰も助けてくれる筈もなかった。

 フローラ傭兵団はこのデズモンドに切り刻まれて地獄を見せられた者ばかりなんだから。

「ひっ!へ、陛下お助けくださいーー!」

 カリウス皇帝にずり寄ろうとするデズモンドの足を脳筋隊の一人が思いっきり踏みつける。
 ゴギン!と音がして、汚い叫び声が上がった。

「ぎゃーーー!痛い!痛い!足が!足が折れたァーー!」

 誰も何も言わない。

「良かったなぁ?千切れちゃいねぇよ」

 足が折れたくらいなんだ、全員が冷たく見下ろす。

「まだ生かしておく、それで良いな?陛下よ」

「ああ、その男への処罰は謂れなき暴力を受けた者達で決めよう。さて、どれほどおるのか」

 どうやら今このデズモンドが住んでいる屋敷は、フローラ傭兵団の眼鏡、アルベルト・ブロウさんのお屋敷だったらしく、隅々まで構造を知り尽くしていたらしい。
 元自分の屋敷がさ「切断公爵」の作業現場に使われているなんて、気持ちは最悪だろうな。

「吐き気を催す事に、そこのデズモンドは自分が手にかけた者達を全て記載しております。それがこの書類です……金庫に入っておりました」

 どさり、と音がするほど分厚い書類の束をアルベルトは持ってきた。

 そうか、カリウス皇帝は静かに言い

「なるべく全員に連絡を取りたい。死んでいれば家族に。金は出すが、人は今の私の下にいる者は全員信用が出来ない。アルベルト殿、お任せして良いか?」

「やり遂げて見せましょう、フローラ様の名にかけて」

 恭しく頭を下げるアルベルトさんに、カリウス皇帝は頼んだ、と声をかける。

 カリウス皇帝は偉そうじゃない。皇帝なのに、上から命令する訳でもないし、怒鳴りつける事もしない。
 隣に母さんが座っているからなのかも知れないけれど、落ち着いて自分のした事の責任を取ろうとしている。母さんにいい所を見せようとしているのかもしれないが。いや絶対そうだ、母さんに良い所を見せる為にやってんだ、間違いない。

「リーヤ」

 突然呼ばれてびっくりした!うお、失礼な事考えてたのバレたか!

「リーヤ、会ったばかりで私はまだ君を息子だと信じ切れていない……こんなに似ているのにな」

「……ああ」

 母さんが似ていると言う意味はよく分かる。カリウス皇帝は茶色の髪に青緑の瞳をしているし、俺はその髪の毛の色を母さんそっくりな金髪に変えただけ。なのに俺もこの人を「父さん」と思えずにいる。だから「カリウス皇帝」って呼んでしまっていた。

「それでも、手伝って欲しい。私の暴走が招いてしまった憎しみと怒りを少しでも和らげる為に力を貸して欲しい」

 カリウス皇帝は頭こそ下げなかったが、強要もしてこなかった。母さんも俺の判断に任せる、そんな顔だ。

「やれ」

 と、言われれば従うつもりだったし

「リーヤ、お願い!」

 と、頼まれれば引き受けるつもりだった。あー何だよ、判断は自分でしろってか。俺はのんびり生きて行きたいんだよ、こんな騒がしい所、さっさと出て行きたい。

 自分勝手に自由に。でもまあ……。

「良いよ。でも俺、男だから聖女とかいうのやめてね……父さん、母さん」

「ああ、そうだな。ありがとう我が息子リーヤ」

 
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