【完結】廃品を直して売る俺は娼婦の息子の奴隷商。聖女でも王子でもないからほっといてくれ!

鏑木 うりこ

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「すまんがちぃとこの道は通行止めじゃ」

「うっ!皇帝陛下の御前と知っての狼藉か!!騎士団、前へ!」

「足止めせよ、重歩兵!道を固めよ!」

「はっ!リグレイ団長!……のそっくりさん!」

 巨大な盾を構えた10人が一斉に飛び出し、皇帝のパレードの列を止めた。その前に壮年のおじさん、リグレイ団長……の、そっくりさんだ。
 リグレイ団長は戦いの後、ザサードに捕まり、拷問の末死んだから、そこにいるのはそっくりさんなんだと。

「リグさん。俺たちも混ぜろや」

「皇帝の騎士団に恨みはありませんが、役に立たねば治して貰うのが遅くなりそうですからね」

 リグレイ団長のそっくりさんの横に大剣を担いだ元死神傭兵団の団長、大剣のジグと副団長の鞭使いジザ兄弟のそっくりさんが現れる。
 死神傭兵団も皇帝に負けた国を支援していて潰される。幹部達はやはり酷い拷問の上に殺された。

「女神と聖女のお達しだから?命ばかりは取らんでやるよ、たーだ怪我の保証はしてやれん!それでも良けりゃかかって来なぁ!まとめて相手になってやるぜぇ!」

 ジグ、のそっくりさんの雄叫びに合わせてうおおお!という男達の叫び声ウォー・クライが上がった。どこにいたのか知らないが、どうやら死神傭兵団の生き残り達が駆けつけていた様だ。

 なんで?まあ良い。

「後も通行止めだ!」

「それ以上、近づけば命の保証はせん、その先、我が間合いなり」

 皇帝が乗っている馬車を挟み込む様に後もフローラ傭兵団が立ち塞がる。あの人たちはなんだっけな、とにかくまあ強いらしい。よく分からないが。

「魔導士!陛下を守れ!結界を張るのだ!」

「こちらも行くぞ!アンチ・スペルだ!」

 皇帝の魔導士達が結界を張れば、こちらからその結界を無効化する魔法が飛ぶ。

「どっかーん!と派手にやっちゃいたいけど、今回はそうは行かないからねぇ!」

「作戦に失敗して色々失ったままじゃいたくないしね?ちんことか」

「あっはー!そうだな!」

 張られる結界をバチンバチンと壊して行く。合間に弓兵が帝国の魔導士に向けて矢を放ち、呪文を妨害したり無効化したりする。アンチ・スペルなんて物を使うのもどこかの戦闘魔導士とかだったけど、覚えていない。
 弓を撃っているのはあの時のジョルジュって奴か。働いているから許してやるか……エッチはしないけどな!!

 そして無理矢理停止した皇帝の馬車に横合いからゆっくり近づいて行く飾りはほとんどない実用的な馬車。
 引かせた馬の鼻が皇帝の馬車につくたつかないかという所で停止した。

「お手を」

「ええ」

 恭しく馬車の扉は開かれ母さんが身を屈めて、馬車のドアから顔を出す。手を借り、地上へ降りると小さく息を吸い込んでから、あまり大きくはないが良く通る声で話しかけた。

「そちらの馬車にはカリウス・ランドバード侯爵令息が乗っておいでではないのでしょうか?」

 母さんの声は俺にも聞こえた。だから馬車にいるであろう皇帝にも聞こえているはずだ。

 しん、一瞬全てが静かになる。母さんが発した言葉は、それ自体に何か力が有る様に辺りに響き、喧騒を打ち消す。

「……エル……?」

 声がした、馬車の中から。母さんは微笑み、その声に応える。

「ええ、カリウス様。エルフローラですわ」

 バキン!と蝶番が吹き飛んで、皇帝の馬車の扉が遥か遠くに飛んで行った。

「うわ、すげぇ」

 俺は飛んで行く扉の行方を窓から目で追ったが、近くの家の屋根に突き刺さった。中で人が怪我してなきゃいいな。

「エル!エル!!エルフローラ!あ、会いたかった!会いたかった!!」

「わたくしもですわ、カリウス様」

 母さんと同じ歳くらいのおっさんが小さい母さんに縋り付いて泣いていた。

「エル!本当にエルなんだね?!これはまた私の夢ではないんだね??」

「ええ、もし夢ならわたくし、もっと若くて貴方とお別れをした頃の少女で現れますわ。見て?もう結構おばさんなのよ?」

「エルは相変わらず可愛らしいよ。おばさん?嘘だろう?まだ少女のようだ。ああ!エルだ!エルフローラだ!私の、私の愛しいつがい、私の全て。私の命、エルフローラ!もう二度と離さないよ、エル!愛してる!」

「まあ、会わない間に随分お口が上手になったのね、カリウス様。それより皇帝ってどう言う事なのかしら?ランドバード侯爵家はどうしたの?」

「エル、家なんてどうでも良い!君が居てくれれば、私は私は……!」

 良い大人が号泣して母さんにしがみついている。その場にいる全員がぽかんと口を開けていた。
 新皇帝は恐ろしい人、それが小さななんの力もなさそうな女性にしがみついているんだから当然か。

「しっかりしなさい!カリウス様!」

 母さんは自分にしがみつく皇帝を引き離して、バチン!と平手打ちした。 

「ひっ!!」

 辺りから悲鳴が上がる。陛下に手を挙げたんだ。烈火の如く怒るに違いないと。
 皇帝は叩かれた左頬を左手でほおけた顔のままニ、三度撫でてから嬉しそうに笑った。

「ああ、痛い。痛いよ、エルフローラ。君がいなくなってから、私は痛みを忘れてしまっていたんだ。そうだ、痛みだ。あは、あはは、やっぱり夢じゃないんだね」

「当たり前でしょう!もう、カリウス様は夢中になるとお食事も抜きますしね!良くありませんわ!ってどうして皇帝なんてやっておられるのです?戦争なんて良くありませんわ、やめましょう?」

「話せば長くなるんだが……君をはめた王女を誅殺してしまって……気が付いたら皇帝になっていたんだ。戦争はもうしないよ、君がそう言うなら」

「あら?そうなの?カリウス様は思い詰めると何でもしちゃうから良くないわ」

 母さんは一言で戦争を締結させたようだ。もう何を言って良いか分からない。ま、良かったんじゃない?平和が一番だよ。

 カリウス皇帝は、どうやら母さんに物凄く執着しているみたいだな。そして母さんもその執着を当然と受け止めている。

 うん、良い夫婦になるよ、間違いなく。皇帝なら母さんを飢えさせる事もないだろうし、あのちょっと狂気が見えるくらいの偏愛っぷりは不安ではあるが、まあ母さんならあの人と幸せになるだろう。
 母さんみたいな突拍子もないことを言う人が帝国の王妃になるのは少し不安だけど、なんとかなる。そうだよな?

 良し、俺たちはスッと引き上げて行こう。後で全員のちんこを治して、俺は一人でどこかの街の片隅で生きていく。
 なあにこの力をちょこっとだけ使えば医者の真似事くらい簡単だ。自分が生きていけるだけの金を得て、自由に暮らし、一人で死んで行く。

 それが理想だ。
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