【完結】廃品を直して売る俺は娼婦の息子の奴隷商。聖女でも王子でもないからほっといてくれ!

鏑木 うりこ

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1 俺は奴隷を買う

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 俺は貧民街に住んでいる。そこで奴隷商をやっているあまり褒められた男ではない。

「リーヤお茶が入ったわよ」

「ああ、ありがとう母さん」

 奴隷商。沢山の奴隷達を飼って、人に売り渡す後ろ暗い職業。元娼婦だった母さんから父親が誰か分からずに産まれた俺にぴったりの職業だろう。

 まあ、母さんはどうも動きに気品があるとかないとか。顔立ちも何とか公爵家の奴らに似ているとかいないとか。この貧民街に流れ着いていた時にはもう腹に俺が居たとか居なかったとか。
 母さんがどこかで仕込まれて、放逐されたのかは知らないし、知りたくもないが、寂れた店でお茶を飲み、そこそこに金も有り、暮らしていけているのだから問題は無いだろう。

 からん、とドアベルがなる。完全によろしくない雰囲気の輩が入ってきた。

「奴隷商、奴隷を売りたい」

「どれを売りに出します?」

「こいつだ」

 人を蔑むことに慣れた目のごつい男は手に持っていた縄を引っ張る。縄の先には男の子が括り付けられていた。

「ふむ、獣人、兎の獣人の子供……?ですね」

「そうだ」

「少し見させて貰います」

 俺は腰を上げ、警戒されない程度にその子供を見る。

 扱いは下の下。瞳に生気が無く、諦めた色をしている。どこかで攫われて来たのだろうか、逃げ出すという意思すら刈り取られた顔が痛々しい。左腕はだらんと下がっていて、おかしな所が盛り上がっているから、折れたまま放置されたんだろう。これは一生このままだ。
 そして1番のマイナスポイントはーー。

「耳が片一方ありませんね。安くなる事はお覚悟下さい」

「分かってる」

 兎自慢の耳が片一方、根本から千切れてしまってなくなっている。無理矢理に引っ張ったんだろうな、耳なんて繊細な物だ、すぐ傷がつく。そして治療もろくにせぬまま、傷口がギザギザでやっと肉が盛り上がって来た所だった。
 よく目立つ兎の耳を引きちぎるとは。価格が安くても誰も文句は言わない。そして食べ物も大して与えられていないのだろう、子供に見えてそこそこの歳であるようだ。痩せて痩せて、背中を丸めなるべく小さく目立たぬように生活してきたんだろう。本当に小さく見える。

「そうですね、7000ゴールドって所です」

 1ゴールド一円くらいの価値だと思って欲しい。獣人の値段が7000円だなんて嘘みたいだが、この世界の人間の価値はそれほどに低い。

「ゴミに7000ゴールドとは!太っ腹だな?助かるぜ」

 男は上機嫌で俺に縄を渡し、金を受け取る。実際、労働期待できなさそうなひょろひょろの体、しかも片耳の兎の獣人など、2000や3000でも適正価格だ。

「その代わりお願いしますよ?」

「この国にもう用事はねぇから、一生会う事ぁねえよ!」

 男は金を無造作に掴んで出て行った。
 
「ありがとうございます」

 店には俺と汚く傷だらけの無表情の子供が残る。当然俺達の間に会話なんてない。奴隷商と奴隷の関係だからね。

「金髪に碧眼。うん、良いね。母さん、リンダが欲しがってた兎が入ったから、どこまで直すか聞いてきてくれる?値段は50万からでって」

「あらあら!分かったわよ~ついでにお夕食のお買い物をしてくるから少し遅くなるわよぉ~」

「分かった」

 俺は奥にいる母さんに声をかけて、依頼先に言伝を頼む。そして、折れていない方の右手を引いて汚い兎を奥の部屋に連れて行く。流石に洗って引き渡さねば。これじゃあリンダも怒るからな。
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