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38 鞄の中のぬいぐるみは。

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「なっ!!」

 そこまで言うと流石の香山さんも怒りを露わにした。

「友達って言ったじゃん!!!私に狐のぬいぐるみをくれるって!だから私はあなたの現れそうな場所を調べて探し回ったのに!!」

「あなたと私は初めて会いました。そして会話も今が初めてです、友達ってあなたがそう言っているだけですよね?私とあなたはともだちではないです。そんな人に大事なぬいぐるみを上げる訳がありません。それに調べて探し回るって気持ち悪いです」

「あんたっ!!」

 私に掴みかかろうとした香山さんをシラスが止めてくれた。

「あなた、カナさんの連絡先も知らないでしょう。それで友達なんて……マカ……いえ、かさねから聞いていた妄想が激しくて思い込みが強いって本当なんですね」

「シラス王子!どいて!」

 シラスがいてくれて本当に良かった……私もはっきり言ってしまったけれど、逆上するような人だったんだ……身の危険を感じた。鞄の中で油揚げがものすごく心配そうな目で見ているのがわかる。ごめんね、油揚げ。

「本当に友達じゃないです。しかも私の動画荒らしたのあなたでしょう?迷惑をかけてくるあなたを友達とはどう頑張っても思えません」

「嘘よ!だってあなたの鞄の中には私の渡すはずの狐のぬいぐるみが入ってるでしょう!私にはわかってるんだからね!!」

 確かに今、鞄の中には狐の姿になっている油揚げは入っている。

。私が持っているのは

「はぁ?何言ってんの?油揚げのぬいぐるみなんてあるわけないじゃない!貸しなさいよ!!」

「うわっ!」

 長身のシラスを押しのけ、香山さんは私の鞄を掴んで、中を漁る。

「やめてください!窃盗ですよ!!」

「うるさい!うるさい!!」

 鞄をひっくり返して、中身を全部ぶちまけられた。酷い!とはいえあまり中身が入っていない鞄だ。財布とスマホ、ハンカチにティッユそして。

「うそ……なんで本当に油揚げのぬいぐるみなんて持ってんのよ!!」

「だから言ったでしょう。私は自分でぬいぐるみを作ってるんだから、油揚げのぬいぐるみを作ってたっていいじゃない」

 ぽてり、と四角くて茶色くて……少しテリがありそうな油揚げが転がり出てくる。正真正銘油揚げのぬいぐるみだ。

「そうよ、カナさんの動画を見てたら、ぬいぐるみは全部手作りだって知ってるし、いろんなのを作ってるって知ってるはずよ。いなり寿司のぬいぐるみは凄く有名なんだから!」

 マカさんが力説してくれる。あ、マカさんはあの頃から見てくれてたんだ。なんだか嬉しいなぁ。

「そう言うわけで私は狐のぬいぐるみを持って来てはいません。だからあなたが言うように、あなたにに会うつもりでここに来たわけではないです。私はマカさん……えーと平野さん、に会うために来たんです。何度も言っている通り、あなたは友達ではありません。この中で私の友達は平野さんと白洲さんです」

 マカロンさんの事を友達と言い切っていいのかどうかわからないくらいの間柄だけど、この際いいよね。あとシラスも。友達……?なのか分からないけれど。まあシラスはいいだろ。ふわぁ~っとしていいよ~って言いそうだし。

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