【完結】油揚げの動画配信サービス始めます。妖怪はwebの海を行く。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
4 / 41

4 世話の焼けるいなり寿司

しおりを挟む
 朝起きてスマホを手にツイッツーを見てみる。尻尾の生えたいなり寿司にはイイっすが17個あり、リツイッツーが10回、そしてコメントが一つ増えている。


美味そう


 ハハハ!やったな油揚げ人気だよ!なんだか呼ばれている気がして冷蔵庫を開けると

「さささささむいです……カナさん……」

 油揚げがカタカタ震えていた。心なしか顔色が悪そうだが、あのお揚げ色なのでよくわからない。青くなったいなり寿司、絶対美味しくなさそうです。

「だから冷蔵庫は寒いんだって」

「でも腐りたくないです!」

 うーん、油揚げだからなあ……。面倒なことはあとで考えよう。今日は土曜日だし、私はテレビをつけてコーヒーを入れる。

「なー油揚げ。なんか飲む?お湯とか?」

「油抜きされちゃいますからー!あ、私今いなり寿司でした。すし飯がバラバラになりそうなのでいりませんよ」

「そうだな!」

 そういえばこのいなり寿司、ちょこっと動けるようになってるぞ。

「あ!よく見たらマメみたいな足があります。歩けますよ」

 ぽてぽて、そんな擬音が似合いそうだった。

「おお!足が生えた記念だ。写真だ、アップだ!」

 カシャーと機械音が響き、私はまた写真をアップする。

「足とか生えました、っと」

 すぐに赤いハートのイイっすが何個か付き、リツイッツーしてくれた人がいる。


 何で足を作ったんだろう?


 なるほど、この人は私がこのいなり寿司を作ってアップしてると思っているんだな。普通はそう思うよな。だがうちのいなり寿司は自分で勝手にバージョンアップしているんだ。私はどうやったかなんてさっぱりわからない。

「なー油揚げ。お前の豆みたいな足は何で出来てるんだろうなー」

 振り返ると油揚げは横倒しにひっくり返って手足をぱたぱたさせながらもがいていた。

「……油揚げ。お前しゃべれるんだから、早く助けを呼びなよ。お前の手足じゃ自力で戻れないよ」

「面目ない……久しぶりに自力で歩けたのが嬉しくて、つい調子に乗りました」

 いなり寿司を箸で摘んで、少し大きなカレー皿の上に置いた。

「手で触ると雑菌が付くからなぁ」

「丁寧に扱ってくれてありがとう、カナさん」

 油揚げはごまの目を細めて、私の方を向いて尻尾を振った。

「可愛いな、動画にしてみよっかな?」

「ではこのお皿の中を歩いてみますね」

 油揚げは短い謎の手足を動かしてゆっくり皿を一周した。

「うん、良い。アップしてみよう」

「誰か見てくれますかね?なんだか知らない人に見られるなんて、少し恥ずかしいですね!」

 私と油揚げはツイッツーに歩くいなり寿司をアップした。

 ぽんぽんといつもの?いなり寿司好きがイイっすを押してくれた。


何これ?コマ撮り?おもしろーい


 コメントがぽんとついた。

「普通に撮影したなんて誰も気が付かないよね」

「そうですねー何せ今の私はいなり寿司ですから!」

食い物で遊ぶな!……だが可愛い、いなり寿司買ってくる

「油揚げ、どこかでいなり寿司が消費されてるぞ」

「わ、私は食べないでくださいね、カナさん」

「食べないよ!お前昨日カビ生えてたじゃん!そういえばカビはどうしたの?体調悪くない?」

 油揚げは首?体?を捻って自分の寸胴ボディを確認し

「消えたみたいです!神通力が消してくれたんでしょう」

 そう、嬉しそうに言った。

「じゃあ冷蔵庫に入れなくても腐らないかもしれないな!」

「やったーー!」

 ぴょんと跳ねて着地に失敗し、横倒しになった。

「カナさーん助けてー」

 世話のやけるいなり寿司だ。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中! 【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

「夢」探し

篠原愛紀
キャラ文芸
海の見える丘の上で、絵描きは幼い少女と出会う。 絵描きは優しく少女に物語を語りながら、「夢」を探して彷徨う。 少女に物語を語る形式の短編集です。

【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、 これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。

冷たい舌

菱沼あゆ
キャラ文芸
 青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。  だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。  潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。  その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。  透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。  それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。

新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
長きに渡る日本奪還の戦いも、いよいよこれで最終章。 圧倒的な力を誇る邪神軍団に、鶴と誠はどのように立ち向かうのか!?  この物語、とうとう日本を守りました!

【完結】神々の薬師

かのん
キャラ文芸
 神々の薬師は、人に顔を見せてはいけない。  何故ならば、薬師は人であって人ではない存在だから。  選ばれたものらは、自らの願いを叶えた対価として、薬師へと姿を変える。  家族や親しい人ら、そして愛しい人からも自分の記憶は消えるというのに、それでも叶えたい願いとは何だったのか。それすらも、もう遠い記憶。  これは一人の神々の薬師の少女が織りなす物語。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

処理中です...