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15 勇者とそのオマケ
しおりを挟む「あ、あああ……」
「兄ちゃん!」
「大丈夫です、勇者アオバ! 眼前の敵を!」
「う、お願いっ騎士団長っ」
血だ、血、しかもいっぱい、臭い、何だこれ、魔獣? 魔獣の臭い?? 怖い、やだ怖い!
「ハルト様! 失礼致しますっわたくしがおります、大丈夫です! シア、後ろを」
「ええ、神官長様」
「騎士団長、少し耐えて」
「何の問題もない! ハルト様をお守りしろ」
「はいっ」
俺はスーリエの白い神官服にしがみついてガタガタ震えるしかできなかった。
「王都の側に小型の魔獣が出現した」
「私、行く」
「行ってくれるか、勇者アオバ」
「うん。試したい」
そんな報告を聞いて青葉は立ち上がる。
「兄ちゃんは残って」
「俺だって回復くらいできる、一緒に行かせてくれ」
「……分かった」
そういって青葉に付いて王都を守る城壁を越えて外へついて来たのに。
「四足歩行の魔物です。大きな猫のように見えますが、人を襲います!」
「ネズミのような小型の物もいます!」
「分かった、私が前に出る!」
先頭に青葉が立ち、青葉を愛する女性騎士や聖女様が陣形を組む。
「ハルト様は後ろで」
「あ、うん……」
俺は情けなくもジゼルさんの後ろに隠れていたのに。
調子良く魔獣を倒してゆく青葉達。
「おお、流石勇者様ですな」
「動きはまだ荒いものの、素晴らしい剣捌き」
遠くからのほほんとみていても青葉達の動きはよく、流石だなぁと安心できた。それなのに、魔獣の数頭がこっちに向かって来たのだ。
「うわっ」
「っ?! 何故……! ハルト様っ」
「ひ」
牙の長い大きな猫っぽい奴も、真っ赤な目のネズミっぽい奴も何故か俺めがけて飛びかかって来た!
「うっ! くそっ」
「ひ」
ジゼルさんは体を張って魔獣どもを俺に近づけないでくれた。それで、猫みたいなのに思いっきり腕を引っ掻かれた。
赤い血が噴き上がり、俺はもう立っていられなかった。
「騎士団長っ!」
「勇者アオバ、助太刀感謝する」
「なんで魔獣が兄ちゃんに……もしかして狙われ易いのか?」
スーリエに抱えられながら、俺はガタガタ震えるしかできなかった。
「可能性はあります……」
「ごめんな、兄ちゃん……」
俺は何の役に立たない……役立たずだった。
「勇者アオバのように最初から戦える人間の方が少ないのです」
「新人騎士など、もっと酷いものですよ」
ジゼルさん達騎士は一生懸命俺を慰めてくれた。スーリエもシアも俺が無傷だったことを喜んでくれた。青葉も笑っている。
「兄ちゃんは勇者じゃないって分かってる。いてくれるだけで私は嬉しいしパワーアップさ!」
そう言ってくれる……。でもそうじゃない人達だって沢山いる。
「勇者アオバの兄、あれは何なのだ?」
「ただの無駄飯ぐらいではないか!」
「何故、あんな役立たずに騎士団長が護衛についておる?」
どうみても貴族っぽいおっさん達の立ち話が嫌でも耳に入る。
「こんな所で何の会議かな?」
「おおこれは王太子殿下! いえ何ね、今城内で流れている噂話なのですが……」
「ほう? 何か有用なことでも?」
「それが勇者の兄の話ですが……」
廊下の角を曲がろうとした時に聞こえて来た話。つい足を止めて聞いてしまったが、それ以上は聞きたくなくて来た道を戻り部屋に閉じこもった。
きっと王太子もあの貴族達の話に頷くだろう。俺だってそう思うもの。魔獣との戦いがあんなに恐ろしいものだって知らなかったんだ。それに怪我をしたら血が出るのは当たり前だ。でもあんなに噴き出て、すごい血なんて……怖い。
ジゼルさんの怪我は青葉が治してくれたけど、俺は何も出来なかった……。
俺がこの世界で出来ること、青葉のために出来ること……頭を抱えるしかなかった。
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