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12 困り事
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どうしたらいいか分からないまま、戻って来て、ジゼルさん、シア、神官長様に挟まれたり揉まれたりしながら歩いていると、かなり遠くの方に王太子の姿が見えた。お城だからいて当然なんだけど、王太子殿下はこちらを確認すると滅茶苦茶嫌な顔をする。そして汚い物を見たようにお綺麗なお顔をぐしゃっと歪めて、ものっすごい怖い目で睨まれ……。
「痴れ者が……ッ」
小声だったけど、吐き捨てるように言われ、遠くへ去って行った。俺の取り巻き(って言いたくないがそうとしかいえない)三人も物凄い嫌な顔をしたけれど、俺はちょっと安心した。うん……こう、結婚適齢期の男性すべてが俺に過剰な感情を持っている訳じゃないって分かったからね。勇者でもない単なるオマケの俺がちやほやされて男に囲まれている状況を苦々しく思って当然だよな、あいつ何してんだって。
「良かった」
「どうかなさいましたか?」
「あっいえ、何でもないですっ」
神官長……名前はスーリア・セプトムという水色の髪に知的な青い瞳の嫋やかな美人系が声をかけてくる。スーリアも名前で呼んで欲しいというからそう呼ばせてもらうことになった。
「セプトム伯爵家の三男でした。生まれながらに神聖力がかなり高かったので、5歳の頃より神殿へあがることが決まっておりました」
「そうなんですね」
筋金入りの神官さんで、伯爵家から離れ、神殿で生活し学園も神殿から通ったらしい。
「ハルト様には身を守る術……そして勇者様をお助けする為の魔法などを伝授したいと思います」
「なるほど」
そういわれると、なんでついて来たの?! なんて言えなくなる訳で……右にジゼルさん、左にスーリア、後ろにシアのフォーメーションで動き回っている。ちなみにトイレもこのフォーメーションで行くのはちょっとどうかと思う……。あ、なんかこういう陣形で戦うゲームあったよね、あれかー? んなわけ無い!
「トイレ位一人でいけますから!」
「そういう人目がない場所が一番危ないと気が付いていらっしゃいますか!?」
なんて言われたけど、いやここお城でしょ? そんな危ないことなんか……と、思ったけれど一人でトイレに行こうと思ったらなんか後ろから息の荒い貴族っぽいおっさんがついて来たから怖くなった。
「何か御用で?」
「ひ、ひい!」
ジゼルさんが一睨みすると走って逃げて行ったから、どうやら大なり小なりの用事があったのではなかったようで……。
「一人で行動はしないで下さい! でも二人っきりにはならないように!」
「ふわぁい……」
俺なんかに付き纏っても何もいいことないだろうに……と、これからどうしようかと考えていたら、深刻そうな顔の青葉に呼び出された。
「勇者アオバと一緒ならば問題ないです……よね?」
「妹だぞ!」
ジゼルさん達には流石に席を外してもらって青葉に貸し与えられている部屋で話を聞くことになった。
「兄ちゃん……物理防御と死者蘇生のスキルが付かないんだ」
「え?」
「聖女とヤれば付くはずの死者蘇生も騎士とヤれば着くはずの物理防御もつかなかったの。聖女セシリアと3日くらいヤってみたんだけど、駄目だった。セシリアは何故か死者蘇生のスキルを持ってない……どうしよう」
「どうしようって……死者蘇生なんて凄いスキルが存在するんだ」
「そりゃゲームだもん、結構ヌルゲーなんだあるに決まってるじゃないか! でも蘇生がないと戦闘が怖いよ。私や兄ちゃんは神様が何とかしてくれるかもしれないけど、仲間として連れてったコが死んじゃったら……本当に死んじゃうんだぞ! そんな子を連れて魔王退治なんていけない……」
「それは……そうだ、な」
青葉は……あっちこっちで女の子とイチャイチャしているが、どの子も可愛がっているようだし、女の子達も青葉のことを好きで慕っているようだ。そんな子達を危ない目に合わせたいわけがないよな。
「でも魔王はやっつけないと、この世界は変わらない……。兄ちゃん、多分……いや、確実にそうだと思うんだけど、神官長が死者蘇生のスキル、持っているんじゃないか?」
「スーリエが? うーん……ある、かもしれないな」
子供の頃から凄い修行してたらしいし。神殿では一番の実力者で聖女より力が強かったって言ってた気がする。スーリエが死者蘇生持っているなら、スーリエから教えて貰えば使えるようになるのか?
「俺達がスーリエから教われば良いんじゃないのか?」
「兄ちゃん、この世界で普通にスキルを習得するには凄く時間がかかったり、凄く修練を積まなきゃいけないんだ。多分、神官長も10年とか修行してやっと身に着けたんだと思う……兄ちゃん、10年も魔王を倒さずにいていいと思うか?」
「それは……その間に人が死ぬんだよな。でもスキルなんて……あ」
「うん、それが一番早い。兄ちゃんが覚えれば私と兄ちゃんのスキルは共通だから私も使えるんだ」
「い、嫌だよ!? スーリエとヤれっていうんだろ!?」
「でも……うん、いや……分かってる。兄ちゃんにはこれ以上したくないことはして欲しくない。母さんが殺されてから今までずっと我慢してきたんだ。兄ちゃんには幸せになって貰いたい」
「青葉、俺は」
別に我慢してきたわけじゃない……いや、してきたのか? 妹に苦労をかけさせまいと弱音は吐かず、仕事をして金を稼ぎ……それでも足りなくなって、母さんの遺産を少し崩したり。俺は昼飯もカップ麺で済ませたり色々工夫をして……。
「もしかしたら誰か別の人からスキルを貰えるかもしれない。色々当たってみる……何せ仲良くなった女の子が多ければ多いほど、私は強くなれるしね。死者蘇生と物理防御はどうしても欲しいから探してみる。兄ちゃんもそれ系のスキルもってそうな女の子に会ったら教えてくれ。すぐナンパしにいくからな!」
「え……あ、でもほどほどに……」
「もしスキルが拾えなかったら、やっぱ私が強さマシマシになってないとだから……もう人が死ぬのなんてみたくないんだ」
「青葉……」
「話はそんだけ! ありがとね。じゃあ私はガールハントに出かける~またね、兄ちゃん!」
「青葉!」
引き留める含みを持った俺の声を無視して颯爽と青葉は出て行った。開け放たれた扉の外にはジゼルさんとスーリエ、シアが少し心配そうな顔で待っていてくれた。
「皆さん、兄ちゃんを頼みますね」
「ええ、勿論です。勇者アオバ」
「お任せください。全力でお守りします」
「誠心誠意仕えさせていただきます」
「青葉!」
もう一度、妹に呼び掛けたが、青葉は振り返らなかった。
「痴れ者が……ッ」
小声だったけど、吐き捨てるように言われ、遠くへ去って行った。俺の取り巻き(って言いたくないがそうとしかいえない)三人も物凄い嫌な顔をしたけれど、俺はちょっと安心した。うん……こう、結婚適齢期の男性すべてが俺に過剰な感情を持っている訳じゃないって分かったからね。勇者でもない単なるオマケの俺がちやほやされて男に囲まれている状況を苦々しく思って当然だよな、あいつ何してんだって。
「良かった」
「どうかなさいましたか?」
「あっいえ、何でもないですっ」
神官長……名前はスーリア・セプトムという水色の髪に知的な青い瞳の嫋やかな美人系が声をかけてくる。スーリアも名前で呼んで欲しいというからそう呼ばせてもらうことになった。
「セプトム伯爵家の三男でした。生まれながらに神聖力がかなり高かったので、5歳の頃より神殿へあがることが決まっておりました」
「そうなんですね」
筋金入りの神官さんで、伯爵家から離れ、神殿で生活し学園も神殿から通ったらしい。
「ハルト様には身を守る術……そして勇者様をお助けする為の魔法などを伝授したいと思います」
「なるほど」
そういわれると、なんでついて来たの?! なんて言えなくなる訳で……右にジゼルさん、左にスーリア、後ろにシアのフォーメーションで動き回っている。ちなみにトイレもこのフォーメーションで行くのはちょっとどうかと思う……。あ、なんかこういう陣形で戦うゲームあったよね、あれかー? んなわけ無い!
「トイレ位一人でいけますから!」
「そういう人目がない場所が一番危ないと気が付いていらっしゃいますか!?」
なんて言われたけど、いやここお城でしょ? そんな危ないことなんか……と、思ったけれど一人でトイレに行こうと思ったらなんか後ろから息の荒い貴族っぽいおっさんがついて来たから怖くなった。
「何か御用で?」
「ひ、ひい!」
ジゼルさんが一睨みすると走って逃げて行ったから、どうやら大なり小なりの用事があったのではなかったようで……。
「一人で行動はしないで下さい! でも二人っきりにはならないように!」
「ふわぁい……」
俺なんかに付き纏っても何もいいことないだろうに……と、これからどうしようかと考えていたら、深刻そうな顔の青葉に呼び出された。
「勇者アオバと一緒ならば問題ないです……よね?」
「妹だぞ!」
ジゼルさん達には流石に席を外してもらって青葉に貸し与えられている部屋で話を聞くことになった。
「兄ちゃん……物理防御と死者蘇生のスキルが付かないんだ」
「え?」
「聖女とヤれば付くはずの死者蘇生も騎士とヤれば着くはずの物理防御もつかなかったの。聖女セシリアと3日くらいヤってみたんだけど、駄目だった。セシリアは何故か死者蘇生のスキルを持ってない……どうしよう」
「どうしようって……死者蘇生なんて凄いスキルが存在するんだ」
「そりゃゲームだもん、結構ヌルゲーなんだあるに決まってるじゃないか! でも蘇生がないと戦闘が怖いよ。私や兄ちゃんは神様が何とかしてくれるかもしれないけど、仲間として連れてったコが死んじゃったら……本当に死んじゃうんだぞ! そんな子を連れて魔王退治なんていけない……」
「それは……そうだ、な」
青葉は……あっちこっちで女の子とイチャイチャしているが、どの子も可愛がっているようだし、女の子達も青葉のことを好きで慕っているようだ。そんな子達を危ない目に合わせたいわけがないよな。
「でも魔王はやっつけないと、この世界は変わらない……。兄ちゃん、多分……いや、確実にそうだと思うんだけど、神官長が死者蘇生のスキル、持っているんじゃないか?」
「スーリエが? うーん……ある、かもしれないな」
子供の頃から凄い修行してたらしいし。神殿では一番の実力者で聖女より力が強かったって言ってた気がする。スーリエが死者蘇生持っているなら、スーリエから教えて貰えば使えるようになるのか?
「俺達がスーリエから教われば良いんじゃないのか?」
「兄ちゃん、この世界で普通にスキルを習得するには凄く時間がかかったり、凄く修練を積まなきゃいけないんだ。多分、神官長も10年とか修行してやっと身に着けたんだと思う……兄ちゃん、10年も魔王を倒さずにいていいと思うか?」
「それは……その間に人が死ぬんだよな。でもスキルなんて……あ」
「うん、それが一番早い。兄ちゃんが覚えれば私と兄ちゃんのスキルは共通だから私も使えるんだ」
「い、嫌だよ!? スーリエとヤれっていうんだろ!?」
「でも……うん、いや……分かってる。兄ちゃんにはこれ以上したくないことはして欲しくない。母さんが殺されてから今までずっと我慢してきたんだ。兄ちゃんには幸せになって貰いたい」
「青葉、俺は」
別に我慢してきたわけじゃない……いや、してきたのか? 妹に苦労をかけさせまいと弱音は吐かず、仕事をして金を稼ぎ……それでも足りなくなって、母さんの遺産を少し崩したり。俺は昼飯もカップ麺で済ませたり色々工夫をして……。
「もしかしたら誰か別の人からスキルを貰えるかもしれない。色々当たってみる……何せ仲良くなった女の子が多ければ多いほど、私は強くなれるしね。死者蘇生と物理防御はどうしても欲しいから探してみる。兄ちゃんもそれ系のスキルもってそうな女の子に会ったら教えてくれ。すぐナンパしにいくからな!」
「え……あ、でもほどほどに……」
「もしスキルが拾えなかったら、やっぱ私が強さマシマシになってないとだから……もう人が死ぬのなんてみたくないんだ」
「青葉……」
「話はそんだけ! ありがとね。じゃあ私はガールハントに出かける~またね、兄ちゃん!」
「青葉!」
引き留める含みを持った俺の声を無視して颯爽と青葉は出て行った。開け放たれた扉の外にはジゼルさんとスーリエ、シアが少し心配そうな顔で待っていてくれた。
「皆さん、兄ちゃんを頼みますね」
「ええ、勿論です。勇者アオバ」
「お任せください。全力でお守りします」
「誠心誠意仕えさせていただきます」
「青葉!」
もう一度、妹に呼び掛けたが、青葉は振り返らなかった。
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