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5 別れを惜しむ恋人のような(付き合ってすらいない)

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「ハルト様……」
「えっと……」

 なんだろう、やけにジゼルさんの距離が近い。横に張り付かれているような、あれ? 腰辺りに回されているのは腕ですか……? あの、優しくご令嬢をエスコートする紳士のような姿じゃないんですか? この感じ。

「えっとぉ……」
「あの、ありがとう……ございます。実はずっと昔の怪我の後遺症に悩まされていて……私のような者に奇跡の御手を使ってしまうような」
「いえ、そんな! 俺のせいで大切な体に怪我をさせてしまって」

 騎士団長だぞ?? 魔王が暴れているっていうのに、凄い戦力になりそうな人に怪我を負わせたなんてまずすぎるだろう!?
治ったようで一安心だし、それにこの系統は沢山使わないとレベルが上がらないだろうし……。あと後遺症って何だ? 初めて聞いたんですが、俺、何か治しちゃいましたか??

「た、大切な……体……っ」

 や、やめて! なんでここで顔が真っ赤になるんですか?! ジゼルさんっどういう意味で受け取ったんですか! 誰か、誰か説明してぇーー!

「あ、あの、騎士団長なのですよね……民を守って下さらないと……」
「も、勿論ですとも! いかなる敵からも御身をお守り致します! わが命をかけて!」

 ひえっ、どうしてそうなる! 民を守ってくれと言ったはずなのに、ジゼルさんの耳に届いた時には「民」がどっか消えてるのか!? なんか命をかけて俺を守ろうとしてくれちゃってるようにしか聞こえない! 俺は大丈夫ですからー!
 やけに近すぎる距離のまま城内を少しだけ散策して、俺が自室として使ってよいと言われている部屋にたどり着く。

「案内していただいてありがとうございます」
「……もう、お別れなのですか……」
「え、あ……ははは……」

 いや、部屋の中は案内して貰わなくても大丈夫だと思うし、しかも城の中の部屋だからお城勤めのジゼルさんとはまた明日も会うだろうし……なんか久しぶりに会った恋人が別れを惜しむような感じでいわれても困る……。

「ま、また……明日」
「名残惜しいですが……そうですね、また明日」

 そして流れるような美しい仕草で俺の右手をすっと取り、手の甲に唇をくっ付けて俺の目を見ていう。

「また……明日、必ず」

 万感を込めた熱い視線に間抜けに応え、

「あ。はい」

 しか言えなかった俺を誰が責められよう……。去ってゆく後ろ姿も美しい騎士団長を見送ってから扉を閉める。中には誰もいないが、寝る準備は整えられているようで、パジャマらしきものが置かれているし、ベッドもふかふかのものが用意されていた。
 そのいかにも高級そうなベッドにそのまま倒れ込む。ばふん、といい音がして高級な肌触りと鳥の羽毛がつまっているであろうふんわり感が少し疲労を回復してくれる……そんなんじゃ大抵足りないほど精神的に疲れ切った。

「何なんだ……あのジゼルさんの態度は……いくら勇者の兄とはいえ、同性に向ける視線じゃなくねえ……?」

 口に出して後悔し、忘れるように枕に顔を埋めた。知らん、俺は何も知らん。この世界で魔王を倒せばなんかいいことがある、それだけだったはずだ。ゲーム仕様にしてもらい楽しむのは青葉の仕事だ。俺は青葉が活躍するのをどっかの草葉の陰から見守れればいい!

 俺はしらんっ! 

 気が付くと朝になっていて、きちんとパジャマみたいなものを着てベッドで寝ていた。あれ……俺、服脱いだっけ? 転移した時に神様がこの世界に則した適当な服をくれたけど、その服はきちんとクロゼットにかかっていた。俺……着替えたっけ……まさか誰かが着替えさせてくれて、更にきちんと布団までかけてくれたんだろうか……。
 それに気が付いてちゃんと下着を穿いているかどうか確かめたのは、仕方がないことだと思う!!

ちゃんと穿いてました。良かった。

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