1 / 23
1 晴翔と青葉
しおりを挟む
俺、柏木晴翔(はると)と柏木青葉(あおば)は兄妹だ。俺は今年で24、青葉は明日で18歳になる。子供の頃に両親は離婚し、俺と青葉は母さんについていき、母子家庭で暮らしていた。そんな母さんを2年前に事故で亡くし、今は青葉と二人暮らし。俺達は二人で協力しながら生きてきた。
「いいでしょう! 兄ちゃん」
「あー……もう、分かったよ」
「やったぜ!」
青葉は女子高生なのに少し口が悪く……ちょっと癖が強い。
「この百合エロゲマジでやりたかったんだ! 健全版じゃもう我慢できねぇ!」
「あはは……」
女の子同士がイチャイチャする、俗にいう百合が大好きなのだ……それでも俺に迷惑をかけない配慮なのか、律儀に18歳になるまでR18には絶対手を出さないでいた。
そんな青葉の誕生日は明日。明日18歳になる。だから明日パッケージを破るという約束で、今日の仕事終わりに待ち合わせ、青葉一押しの18禁ゲームを買ったのだ。
「へへへ、やったね!」
「明日はやり込みたいんだろ? この後、誕生日の前祝いで飯でも食いに行くか?」
「わお! 兄ちゃん、分かってるー! ファミレス行こう、ケーキも頼んでいいか?!」
「勿論だ。でもケーキくらいは明日の方が良いんじゃないか?」
「明日も食うけど、今日も食うんじゃい!」
大型量販店の袋をご機嫌にブンブン振り回し、青葉は歩く。母さんの遺産はあるけれど、そう多くない。何かと辛抱しながらの暮らし。今日くらいは奮発したっていいだろう。青葉もそれは分かっていて、ウチの食卓は結構物悲しい……でも文句ひとつ言わない。ついでに青葉は頑張って頑張って授業料の安い大学へしかも奨学金で進むことが決まっている。女子高生なのに友達と遊び回るのも控えめにしているのも知っている……。
「青葉、信号」
「おっ、やべぇやべぇ。ゲームするまで死ねねぇぜ!」
「ははは」
俺と青葉は交通量の多い交差点で立ち止まる。ファミレスまではもうすぐ、何を食べようか? なんて他愛もない話をしていたその時だった。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
俺達は誰かに思いっきり後ろから突き飛ばされ、道路に身を投げ出される。
「う、うわーーーーっ!」
「きゃーー!!」
運も悪かったんだろう。大型のトラックがちょうど走り込んでくるなんて。
幸いなことに、痛みは感じなかった。
「あ、あお、ば」
「にぃ……ちゃん、はは……死んでも、死にきれ、ないよぉ……」
俺達の意識は途切れ、真っ暗になった。
「うん、君らじゃなかったの」
「押した人?」
「そうなんだよ、そいつも自業自得でさ勢い余って転がり出て死んだけど、逃げられた……ごめん」
「謝られても、どうしようもないんでしょう?」
「……ごめん……」
青葉の声と、やけに響くきれいな女の人の声が聞こえる。ここは病院か? 俺らかなりやばそうな感じだったけど、何とか生き残れたのか?? 入院費どうしよう、会社は欠勤しないといけないな。クビになんなきゃいいけど……。
「あおば……無事?」
とりあえず俺の口から出たのは妹の無事を確かめる言葉だった。
「兄ちゃん、起きたか? 無事じゃないよ。見てくれ、ゲームがぐっちゃぐっちゃ。これじゃ出来ねぇんだよ」
「はは、ゲームならまた買えばいいさ。お前が無事で本当に良かった」
「兄ちゃん、もうゲームは買えないし、私らも無事じゃなかったんだよ」
目を開けて妹の姿を確認する。怪我もなくていつも通り、壊れたゲームを悲しそうに持っている。
……そう、怪我ひとつしていない。ゲームは原型がわからないくらいに酷い有様なのに。そして、体が微妙に透けて向こう側が見える……そして頭の上に漫画で見たことのある天使の輪が一つ、柔らかな光を放っていた。
「ま、まさか」
「あなた方のイメージにある天国という形を取らせていただきました。柏木晴翔、柏木青葉……死ぬ運命ではなかったあなた方を手違いで殺してしまった、許してくれとはいえない」
俺達は死に、別の世界に移動することになった。
「いいでしょう! 兄ちゃん」
「あー……もう、分かったよ」
「やったぜ!」
青葉は女子高生なのに少し口が悪く……ちょっと癖が強い。
「この百合エロゲマジでやりたかったんだ! 健全版じゃもう我慢できねぇ!」
「あはは……」
女の子同士がイチャイチャする、俗にいう百合が大好きなのだ……それでも俺に迷惑をかけない配慮なのか、律儀に18歳になるまでR18には絶対手を出さないでいた。
そんな青葉の誕生日は明日。明日18歳になる。だから明日パッケージを破るという約束で、今日の仕事終わりに待ち合わせ、青葉一押しの18禁ゲームを買ったのだ。
「へへへ、やったね!」
「明日はやり込みたいんだろ? この後、誕生日の前祝いで飯でも食いに行くか?」
「わお! 兄ちゃん、分かってるー! ファミレス行こう、ケーキも頼んでいいか?!」
「勿論だ。でもケーキくらいは明日の方が良いんじゃないか?」
「明日も食うけど、今日も食うんじゃい!」
大型量販店の袋をご機嫌にブンブン振り回し、青葉は歩く。母さんの遺産はあるけれど、そう多くない。何かと辛抱しながらの暮らし。今日くらいは奮発したっていいだろう。青葉もそれは分かっていて、ウチの食卓は結構物悲しい……でも文句ひとつ言わない。ついでに青葉は頑張って頑張って授業料の安い大学へしかも奨学金で進むことが決まっている。女子高生なのに友達と遊び回るのも控えめにしているのも知っている……。
「青葉、信号」
「おっ、やべぇやべぇ。ゲームするまで死ねねぇぜ!」
「ははは」
俺と青葉は交通量の多い交差点で立ち止まる。ファミレスまではもうすぐ、何を食べようか? なんて他愛もない話をしていたその時だった。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
俺達は誰かに思いっきり後ろから突き飛ばされ、道路に身を投げ出される。
「う、うわーーーーっ!」
「きゃーー!!」
運も悪かったんだろう。大型のトラックがちょうど走り込んでくるなんて。
幸いなことに、痛みは感じなかった。
「あ、あお、ば」
「にぃ……ちゃん、はは……死んでも、死にきれ、ないよぉ……」
俺達の意識は途切れ、真っ暗になった。
「うん、君らじゃなかったの」
「押した人?」
「そうなんだよ、そいつも自業自得でさ勢い余って転がり出て死んだけど、逃げられた……ごめん」
「謝られても、どうしようもないんでしょう?」
「……ごめん……」
青葉の声と、やけに響くきれいな女の人の声が聞こえる。ここは病院か? 俺らかなりやばそうな感じだったけど、何とか生き残れたのか?? 入院費どうしよう、会社は欠勤しないといけないな。クビになんなきゃいいけど……。
「あおば……無事?」
とりあえず俺の口から出たのは妹の無事を確かめる言葉だった。
「兄ちゃん、起きたか? 無事じゃないよ。見てくれ、ゲームがぐっちゃぐっちゃ。これじゃ出来ねぇんだよ」
「はは、ゲームならまた買えばいいさ。お前が無事で本当に良かった」
「兄ちゃん、もうゲームは買えないし、私らも無事じゃなかったんだよ」
目を開けて妹の姿を確認する。怪我もなくていつも通り、壊れたゲームを悲しそうに持っている。
……そう、怪我ひとつしていない。ゲームは原型がわからないくらいに酷い有様なのに。そして、体が微妙に透けて向こう側が見える……そして頭の上に漫画で見たことのある天使の輪が一つ、柔らかな光を放っていた。
「ま、まさか」
「あなた方のイメージにある天国という形を取らせていただきました。柏木晴翔、柏木青葉……死ぬ運命ではなかったあなた方を手違いで殺してしまった、許してくれとはいえない」
俺達は死に、別の世界に移動することになった。
231
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる