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4 謝罪
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「何もそこまで……」
「私はお母様の意見に賛成です」
「私もです。父上」
「わたくしも同じ意見ですわ。禍根と言うものは残せば深い」
お兄様と妹リーシュアの婚約者の家にどこまで伝えるか、その話し合いがリハルト家で行われた。
「私も当家の恥を洩らすのは……」
老執事のバスチアンはそう言うが駄目なのだこの執事は。この執事がお父様を甘やかすから、お母様が嫁いて来られるまで、リハルト家は没落寸前の貧乏子爵家だったのだ。
かくしてお母様の意見が通り、最初にお兄様の婚約者の家に頭を下げに行き、次に妹の婚約者の家に頭を下げに行った。
「手遅れになる前でよかった」
「見守っておりましたが、英断を下されたようで何よりです」
お兄様もリーシュアも婚約者とは仲も良く、順調なお付き合いを重ねている。本人達の意向もあり、婚約は継続となった。
「ありがとう、ノイシュ。ノイシュの行動の早さで私達は素晴らしき婚約者を失わずに済んだ」
「私とてお兄様やリーシュアが不幸になるところなど、見たくありませんから」
「ノイシュお兄様、ありがとうございます」
ああ、この笑顔を守れて良かった。姉ちゃんの小説を変えてしまってこの先どうなるか分からないけれど、私はリハルト家の家族を守りたいんだ。
そしてお母様と私は気を引き締める。最後に一番頭を下げなければならないランシア・ヴェルクレー公爵家に行かなければならないのだから。
子爵家の謝罪など、基本は受け付けないだろうヴェルクレー公爵家だが、お兄様とリーシュアの婚約者の家が何とか繋ぎを取ってくれた。
出かけるのはお母様と、私。絶対に失言は許されないからお父様も執事も連れては行かない。
「ノイシュ、お前が来るという事は……」
「大丈夫です。分かっています……」
頭が天気のお父様と私は違う。お兄様とリーシュアも涙で見送ってくれた。
「たかが謝罪」
そう口にするお父様に私達兄妹はお母様の子供で良かったとぐったりするのだった。謝罪だけで済むわけがないでしょう……私は間違いなくヴェルクレー家から帰ってくることはできない。そのことをお父様と老執事だけが気が付いていない。
「お兄様はリハルト家を継ぐお方。リーシュアは真っ当な花嫁として送り出したい」
なら、この家で汚れて良いのはスペアの私だから。
ヴェルクレー家に付き、公爵令嬢夫妻とランシア様とその兄弟がいる前で、私とお母様は土下座をする。
「この度はいっときでも我が家の名を名乗った者がランシア様、ヴェルクレー家にご迷惑をおかけした事、誠に申し訳ございません」
声をかけられるまでこの針の筵に微動だにせずに這いつくばり続けなければならない。
「私はお母様の意見に賛成です」
「私もです。父上」
「わたくしも同じ意見ですわ。禍根と言うものは残せば深い」
お兄様と妹リーシュアの婚約者の家にどこまで伝えるか、その話し合いがリハルト家で行われた。
「私も当家の恥を洩らすのは……」
老執事のバスチアンはそう言うが駄目なのだこの執事は。この執事がお父様を甘やかすから、お母様が嫁いて来られるまで、リハルト家は没落寸前の貧乏子爵家だったのだ。
かくしてお母様の意見が通り、最初にお兄様の婚約者の家に頭を下げに行き、次に妹の婚約者の家に頭を下げに行った。
「手遅れになる前でよかった」
「見守っておりましたが、英断を下されたようで何よりです」
お兄様もリーシュアも婚約者とは仲も良く、順調なお付き合いを重ねている。本人達の意向もあり、婚約は継続となった。
「ありがとう、ノイシュ。ノイシュの行動の早さで私達は素晴らしき婚約者を失わずに済んだ」
「私とてお兄様やリーシュアが不幸になるところなど、見たくありませんから」
「ノイシュお兄様、ありがとうございます」
ああ、この笑顔を守れて良かった。姉ちゃんの小説を変えてしまってこの先どうなるか分からないけれど、私はリハルト家の家族を守りたいんだ。
そしてお母様と私は気を引き締める。最後に一番頭を下げなければならないランシア・ヴェルクレー公爵家に行かなければならないのだから。
子爵家の謝罪など、基本は受け付けないだろうヴェルクレー公爵家だが、お兄様とリーシュアの婚約者の家が何とか繋ぎを取ってくれた。
出かけるのはお母様と、私。絶対に失言は許されないからお父様も執事も連れては行かない。
「ノイシュ、お前が来るという事は……」
「大丈夫です。分かっています……」
頭が天気のお父様と私は違う。お兄様とリーシュアも涙で見送ってくれた。
「たかが謝罪」
そう口にするお父様に私達兄妹はお母様の子供で良かったとぐったりするのだった。謝罪だけで済むわけがないでしょう……私は間違いなくヴェルクレー家から帰ってくることはできない。そのことをお父様と老執事だけが気が付いていない。
「お兄様はリハルト家を継ぐお方。リーシュアは真っ当な花嫁として送り出したい」
なら、この家で汚れて良いのはスペアの私だから。
ヴェルクレー家に付き、公爵令嬢夫妻とランシア様とその兄弟がいる前で、私とお母様は土下座をする。
「この度はいっときでも我が家の名を名乗った者がランシア様、ヴェルクレー家にご迷惑をおかけした事、誠に申し訳ございません」
声をかけられるまでこの針の筵に微動だにせずに這いつくばり続けなければならない。
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