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19 シチューは温かい方が美味しい

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「パパぁ!」

「お帰り、キーチェ」

 ヘンリーの家からキーチェが戻ってきた。そしてすぐさまリオウに飛びつく。

「パパ、ママを泣かしてない?ママを泣かしたら僕が許さないんだからね?僕のパンチは痛いんだよ!パパ泣いちゃうかもよ?」

「そうか、キーチェのパンチは痛いのか。でもパパだって負けないよ?」

「本当?パパって僕より強い?」

「どうかなぁ?キーチェより背が高い分、強いかもしれないよ」

「えーっ!本当??」

 俺の、俺とキーチェの住むボロ家で俺達以外の人間がいて、そいつが笑っている。そしてキーチェが楽しそうにそいつにじゃれついている。

「パパすごい!」

「本気を出したらもっとすごいぞ?」

「いつ本気出すの?」

「……カイリ……ママとキーチェを守る時、かな?」

「僕も一緒に戦うよ!二人でママを守るんだ」

「そうだな、キーチェも虎の子だから本気を出したらとても強いに違いないね」

 笑っている、とても楽しそうに笑っている。それが答えなのか、俺はどうしたらいいか分からない。

「ヘンリーさんがね、お夕飯にどうぞってシチューをくれたの。ヘンリーさんの家のシチューはとっても美味しいんだよ。あーパンにつけて食べたいなあ~」

「角のパン屋か?キーチェが大好きなパン屋さんの?」

 目を丸くしてリオウに聞き返す。

「うわーーーどうして知ってるの?パパ!」

「パパは何でもお見通しって言いたいところだが、実は町長さんが教えてくれたんだ」

「そっかー!」

 何も手に付かない俺に変わってリオウはキーチェと一緒に夕食の支度を始めている。支度といってもヘンリーの家から貰って来た鍋に入ったシチューを皿に盛り付け、買って来たパンを添えているだけだ。

「ミルクも買って来たからキーチェ飲むんだぞ」

「うわーーー!贅沢だー!僕、ミルク好きだけど高いでしょう?たまにしか飲めないよ」

 リオウはキーチェの頭を撫でる。とても自然で優しい手つきだ。

「じゃあパパが買うとしよう。こう見えてもパパは結構お給料のいい仕事をしているんだ。毎日ミルクくらい買えるぞ」

「パパって王子様じゃなかったっけ?」

「王子様の給料は高いんだよ」

「パパすごーい!」

 リオウは王子様だった……あれ?俺はそんな王子様に子守りと夕食の支度をさせたのか?しかもこんなボロ屋で?夕食はお裾分けのシチューだぞ?!良いのか??

「ママーお腹すいたー」

「あ、うん……」

 テーブルには3人。俺とキーチェには専用の椅子がある。リオウはその辺の箱に座ってボロくて小さなテーブルについている。

「いただきまぁす!」

「い、いただき、ます」

「いただきます」

 リオウはなんの文句も言わなかった。欠けた皿に盛られたシチューを適当な木のスプーンで掬って躊躇いもなく口に運んでいる。王子様、なんだよな?

「おいしーでしょ?」

 口の周りいっぱいにシチューをつけたキーチェがにっこり笑いかければ

「ああ、とても美味い。とても、とても美味いよ。ここ暫く食ったものの中で一番美味い」

 そうして目頭を押さえるから、俺はどうして良いか分からない。

「熱かった??キーチェがふーふーしてあげようか?」

 心配そうにみるキーチェをまた撫でる。

「うん、熱かったんだ。俺は猫舌だからな。熱いものは苦手なんだ」

「僕もー!冷たい方が好きだけど、シチューはあったかくなくちゃね!」

「はは、そうだな」

 リオウとキーチェ。この2人を引き離せるか?俺は自問自答する。俺がうんとさえいえば、キーチェは父親を失わなくて済む。

 俺は、俺はどうするべきなんだ。最良の答えはもう用意されている。でもそれに飛び付いて良いのか?でもまた恐ろしい目に遭ったら?

 俺は、それが恐ろしい。

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