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11 導く者
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時は戻り6年前、怒りそして嘆き悲しみ。屍のようになってティーゲ国に帰ったリオウを殴りつけた罪にヒューは問われなかった。
いくらつがいであったとしても、召喚された大切な人間を無理矢理犯し、同意なく噛み付いた事は王太子だとしても許される事ではなかった。
しかしそれ以上の追求は出来ない。当のカイリが行方不明なのだから。
「カ、カイリさんが襲われてるいて、僕、怖くて……」
涙ながらにヒューが言えば納得する者も多くいた、と言う事もあった。
「……カイリさんは……生きてる」
リオウが帰り、二人現れた召喚された人物の片方でも自国へ来てもらえないか?と、打診に訪れた近隣諸国の使者たちが帰って静かになった後、ヒューはつぶやいた。
「だって、僕の力戻ってないもの……」
相変わらずヒューの力はパッとしない。チートとは程遠いこの世界の人達と変わらない程度の実力。いや、最高の教師について修行してこの程度ではこの世界においても実力は中の下と言った所だ。
「カイリさんが僕の力を持って行っちゃったから……カイリさんがいなくなれば僕に帰って来るはずなんだもん。カイリさんは生きてる」
根拠なんて一つもないがヒューはそう信じている。
「カイリさんを……殺さないと」
その物騒な呟きは誰にも聞こえていないはずだった。
「……っ?!」
しかし、カイリの行方を追い続けていたティーゲ国の者達とカイリの世話をしていた侍女のメイリン達はヒューを疑っていた。
「リオウ王子のなさりようは酷いものではありました。しかしながら、かの王子は本気でカイリ様を愛したのでしょう。本来であれば頭を擦り付けて、全てをかけて許しと愛を得るべく動いた事でしょう……腑に落ちない点が多過ぎます」
どう考えても誰かがこの王宮に外部の者を手引きし、カイリを連れ去った。それは誰なのか?
ティーゲ国の者ではない。リオウ王子の憔悴は演技ではないし、ティーゲの隠密達は血眼でカイリの行方を探している。他の国の人間はカイリの顔形どころか髪の色すら伝えていないので分かるはずもないのだ。
カイリを排除したい人間は相当搾られている。そして思い当たるのだヒューの存在に。最初からカイリを格下扱いにしていたヒュー。近頃は不満も漏らしていたと言う。だからそれとなく聞き耳を立てていれば……尻尾を出した。
ヒューの呟きは侍女達の他、ティーゲの隠密達、この国の諜報員など沢山の者から報告され、王と王子は頭を抱えながらヒューを軟禁するしかなかった。
「なんで?!なんで僕がこんな所に閉じ込められるのさ!!」
「ヒューがカイリを害そうとした嫌疑がかけられているんだ。疑いが晴れるまで大人しくしているんだ」
そうため息混じりに言われたが、ヒューが大人しくしていられたのはたったの一日だけだった。
「なんで、なんで勇者の僕が閉じ込められるの?!閉じ込められるんならカイリさんでしょ?!だって僕の力を取ったのはカイリさんだ!」
「ヒュー?何を言って……」
王子自らヒューを宥めに来るもヒューは止まらない。何せ見た目は大人に近くなっているとは言え、実年齢はまだ中学生なのだ。
「カイリさんが悪いんだ!カイリさんが僕の力を半分持って行ったから僕がチートを使えないんだ!だからカイリさんがいなくなれば、カイリさんが死んじゃえば僕に力が戻ってくるんだ!!」
「ヒュー?!まさか、カイリを襲わせたのはお前なのか!!」
「あ、しまった」
そこからヒューは殆ど自由は無くなった。
「良いか、ヒュー。ティーゲのリオウ王太子がお前の首を差し出せと言ってきた。我が国はそれに応じない姿勢だが、つがいが絡んだ時の獣人は止められるものではない。絶対にリオウ王子の前に出てはいけない。素手で首を捩じ切られるぞ」
恐怖で震え上がるヒュー。
「そ、そんな事、出来るはずない、だって僕は、勇者だよ……?」
「出来る。虎の獣人はそれ程強い。リオウ殿下が本気で襲いかかってきたら我が国で止められる人間はいない。ヒュー程度の実力ではかの王子の前では紙切れも同然だ」
「うそ……助けて、怖いよ」
残念そうに首を振る王子と恐怖で部屋の中で蹲る事しか出来なくなるヒュー。
「助けて、助けて、ママ。お願い早く迎えに来て。こんな世界嫌だ、僕、ちゃんと塾行くし、勉強する。助けて、早く迎えに来てママ、ママーー」
そうしてやっと気がつくのだ。
「オマケはヒューの方ではなかったのか?」
と。本来、召喚された「導く者」はヒューではなくカイリではなかったのかと。
「……我らが召喚したのは、神に祈ったのは「勇者」ではない。「導く者」であった」
この世界をより良く、平和に導く為の人物を召喚する為の儀式であったのだと。
いくらつがいであったとしても、召喚された大切な人間を無理矢理犯し、同意なく噛み付いた事は王太子だとしても許される事ではなかった。
しかしそれ以上の追求は出来ない。当のカイリが行方不明なのだから。
「カ、カイリさんが襲われてるいて、僕、怖くて……」
涙ながらにヒューが言えば納得する者も多くいた、と言う事もあった。
「……カイリさんは……生きてる」
リオウが帰り、二人現れた召喚された人物の片方でも自国へ来てもらえないか?と、打診に訪れた近隣諸国の使者たちが帰って静かになった後、ヒューはつぶやいた。
「だって、僕の力戻ってないもの……」
相変わらずヒューの力はパッとしない。チートとは程遠いこの世界の人達と変わらない程度の実力。いや、最高の教師について修行してこの程度ではこの世界においても実力は中の下と言った所だ。
「カイリさんが僕の力を持って行っちゃったから……カイリさんがいなくなれば僕に帰って来るはずなんだもん。カイリさんは生きてる」
根拠なんて一つもないがヒューはそう信じている。
「カイリさんを……殺さないと」
その物騒な呟きは誰にも聞こえていないはずだった。
「……っ?!」
しかし、カイリの行方を追い続けていたティーゲ国の者達とカイリの世話をしていた侍女のメイリン達はヒューを疑っていた。
「リオウ王子のなさりようは酷いものではありました。しかしながら、かの王子は本気でカイリ様を愛したのでしょう。本来であれば頭を擦り付けて、全てをかけて許しと愛を得るべく動いた事でしょう……腑に落ちない点が多過ぎます」
どう考えても誰かがこの王宮に外部の者を手引きし、カイリを連れ去った。それは誰なのか?
ティーゲ国の者ではない。リオウ王子の憔悴は演技ではないし、ティーゲの隠密達は血眼でカイリの行方を探している。他の国の人間はカイリの顔形どころか髪の色すら伝えていないので分かるはずもないのだ。
カイリを排除したい人間は相当搾られている。そして思い当たるのだヒューの存在に。最初からカイリを格下扱いにしていたヒュー。近頃は不満も漏らしていたと言う。だからそれとなく聞き耳を立てていれば……尻尾を出した。
ヒューの呟きは侍女達の他、ティーゲの隠密達、この国の諜報員など沢山の者から報告され、王と王子は頭を抱えながらヒューを軟禁するしかなかった。
「なんで?!なんで僕がこんな所に閉じ込められるのさ!!」
「ヒューがカイリを害そうとした嫌疑がかけられているんだ。疑いが晴れるまで大人しくしているんだ」
そうため息混じりに言われたが、ヒューが大人しくしていられたのはたったの一日だけだった。
「なんで、なんで勇者の僕が閉じ込められるの?!閉じ込められるんならカイリさんでしょ?!だって僕の力を取ったのはカイリさんだ!」
「ヒュー?何を言って……」
王子自らヒューを宥めに来るもヒューは止まらない。何せ見た目は大人に近くなっているとは言え、実年齢はまだ中学生なのだ。
「カイリさんが悪いんだ!カイリさんが僕の力を半分持って行ったから僕がチートを使えないんだ!だからカイリさんがいなくなれば、カイリさんが死んじゃえば僕に力が戻ってくるんだ!!」
「ヒュー?!まさか、カイリを襲わせたのはお前なのか!!」
「あ、しまった」
そこからヒューは殆ど自由は無くなった。
「良いか、ヒュー。ティーゲのリオウ王太子がお前の首を差し出せと言ってきた。我が国はそれに応じない姿勢だが、つがいが絡んだ時の獣人は止められるものではない。絶対にリオウ王子の前に出てはいけない。素手で首を捩じ切られるぞ」
恐怖で震え上がるヒュー。
「そ、そんな事、出来るはずない、だって僕は、勇者だよ……?」
「出来る。虎の獣人はそれ程強い。リオウ殿下が本気で襲いかかってきたら我が国で止められる人間はいない。ヒュー程度の実力ではかの王子の前では紙切れも同然だ」
「うそ……助けて、怖いよ」
残念そうに首を振る王子と恐怖で部屋の中で蹲る事しか出来なくなるヒュー。
「助けて、助けて、ママ。お願い早く迎えに来て。こんな世界嫌だ、僕、ちゃんと塾行くし、勉強する。助けて、早く迎えに来てママ、ママーー」
そうしてやっと気がつくのだ。
「オマケはヒューの方ではなかったのか?」
と。本来、召喚された「導く者」はヒューではなくカイリではなかったのかと。
「……我らが召喚したのは、神に祈ったのは「勇者」ではない。「導く者」であった」
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