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10 動き出す2人の運命
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王太子リオウは素晴らしい王太子であった。それは6年前までであってそれからの6年は荒れに荒れた。
「俺の、カイリ……」
生死の分からぬつがいに焦がれ、夢と現を行き来する。
「俺のせいで……カイリ、カイリ……」
「リオウ様……見ていられません」
つがいの影を追いふらつく姿は城の者の涙を誘う。しかしリオウのつがいとされるカイリという人物の情報はあまりに少なかった。何せ手がかりがないのだ。黒髪の人間、それだけでは広い国々で探しようもなかった。
そうして6年という月日が流れ、運命は動き出す。ある日リオウに美しく磨かれた魔石が献上されたのだ。
「小さな町に素晴らしい腕の細工師がいるそうです。そのものが魔石を磨くとそのように美しいと」
その献上品を持ってきた侍従は不思議だった。この程度の輝きの魔石を王太子になど厚かましい。王太子にならばもっと美しい宝石を、と思ったのだがコレを持ってきた町の町長は深々とその場に平伏したのだと言う。
「お願いでございます。この魔石を、一つでもいいので王太子殿下に、お願いです、どうか殿下に!」
あまりに熱心に頼む事と、魔石の出来も良かった。そして予感めいた物を感じ、侍従はその箱に納められた魔石をリオウの前に差し出す事にしたのだ。
「魔石……?……!」
ここ何年も緑の瞳には霧がかかり濁ってこの世の何も映していなかったのに、みるみる輝きを取り戻した。
「貸せっ!!こ、この匂いっ!間違いないっ!」
小さな魔石を震える手で大切に持ち上げて慎重に鼻先へ翳す。
「これは、この匂いは!間違いない!カイリの匂いだ!!」
「えっ?!つがい様であらせられますか!?」
侍従も飛び上がる勢いだった。
「コレを持ってきたのは誰だっ!!」
「はっ、はい!南の小さな町の町長ですっ!」
「まだおるか!?今すぐ会う!」
「はっ!!」
その頃のカイリはのんびり旅を楽しんでいた。真っ直ぐに王都を目指さず、あちこちの町に寄ったり、安い馬車を乗り継いだり。
「ママー!僕ね、スライム倒せるの!」
「うわー!凄いぞ。中の魔石は拾うんだよ?」
「うん、ママ磨いてね!」
途中で弱い魔物を狩ったりとゆったり旅を楽しんでいた。
「ママと旅、楽しいね!」
「そうだね、キーチェ」
カイリ達は全く気が付いていなかったが、二人の出発を見送ってから、町長は王都へ高速馬車を走らせていた。そしてリオウの前でひれ伏していたのだ。
「王太子殿下が探し求めていたと思われる者を私の一存で隠しておりました。罰するならば私を」
リオウは怒鳴りつけ、締め上げたくなるのをぐっと堪える。
「何故、か。聞いて良いだろうな?」
町長は顔を上げないまま言葉を続ける。
「カイリはとても傷ついていました。そしてとても疲れていました。あのまま王都へ連れて来るのはあまりに哀れで心が癒え、整理がつくまでと待っておりました」
町長の言葉にリオウはぐうっと低くて唸るしかない。あの状況、傷ついていないはずがない。全く知らない男に何も分からず犯され……リオウの方はカイリをつがいと認識したが、人族のカイリからしたらつがいと認識する前に噛まれただろう。
そして手当もされぬまま川へ……心も体もぼろぼろで生きている事すら奇跡と言う状態。そこに加害者が現れたらカイリは絶望して死を選ぶかもしれない。
それはあまりに哀れ。
「お伝えすれば絶対に我慢出来ず会いに来てしまわれる。つがいとはそれ程恋焦がれるものと聞き及んでおります。ならば暫しカイリの為に」
「……あい分かった……」
リオウの怒りは消え、町長の前に静かに膝をついた。
「長年、我が妻を守ってくれて感謝する……何か褒美をとらせよう……」
その満願籠った言葉を聞いて、町長はやっと顔を上げる事が出来た。
「王太子殿下、それは不要でございます。私達は当のカイリの力で多くの富を得ました。カイリの力は素晴らしいんです」
「……どういう事か?」
その時初めてリオウはカイリの力を知る事となる。
「俺の、カイリ……」
生死の分からぬつがいに焦がれ、夢と現を行き来する。
「俺のせいで……カイリ、カイリ……」
「リオウ様……見ていられません」
つがいの影を追いふらつく姿は城の者の涙を誘う。しかしリオウのつがいとされるカイリという人物の情報はあまりに少なかった。何せ手がかりがないのだ。黒髪の人間、それだけでは広い国々で探しようもなかった。
そうして6年という月日が流れ、運命は動き出す。ある日リオウに美しく磨かれた魔石が献上されたのだ。
「小さな町に素晴らしい腕の細工師がいるそうです。そのものが魔石を磨くとそのように美しいと」
その献上品を持ってきた侍従は不思議だった。この程度の輝きの魔石を王太子になど厚かましい。王太子にならばもっと美しい宝石を、と思ったのだがコレを持ってきた町の町長は深々とその場に平伏したのだと言う。
「お願いでございます。この魔石を、一つでもいいので王太子殿下に、お願いです、どうか殿下に!」
あまりに熱心に頼む事と、魔石の出来も良かった。そして予感めいた物を感じ、侍従はその箱に納められた魔石をリオウの前に差し出す事にしたのだ。
「魔石……?……!」
ここ何年も緑の瞳には霧がかかり濁ってこの世の何も映していなかったのに、みるみる輝きを取り戻した。
「貸せっ!!こ、この匂いっ!間違いないっ!」
小さな魔石を震える手で大切に持ち上げて慎重に鼻先へ翳す。
「これは、この匂いは!間違いない!カイリの匂いだ!!」
「えっ?!つがい様であらせられますか!?」
侍従も飛び上がる勢いだった。
「コレを持ってきたのは誰だっ!!」
「はっ、はい!南の小さな町の町長ですっ!」
「まだおるか!?今すぐ会う!」
「はっ!!」
その頃のカイリはのんびり旅を楽しんでいた。真っ直ぐに王都を目指さず、あちこちの町に寄ったり、安い馬車を乗り継いだり。
「ママー!僕ね、スライム倒せるの!」
「うわー!凄いぞ。中の魔石は拾うんだよ?」
「うん、ママ磨いてね!」
途中で弱い魔物を狩ったりとゆったり旅を楽しんでいた。
「ママと旅、楽しいね!」
「そうだね、キーチェ」
カイリ達は全く気が付いていなかったが、二人の出発を見送ってから、町長は王都へ高速馬車を走らせていた。そしてリオウの前でひれ伏していたのだ。
「王太子殿下が探し求めていたと思われる者を私の一存で隠しておりました。罰するならば私を」
リオウは怒鳴りつけ、締め上げたくなるのをぐっと堪える。
「何故、か。聞いて良いだろうな?」
町長は顔を上げないまま言葉を続ける。
「カイリはとても傷ついていました。そしてとても疲れていました。あのまま王都へ連れて来るのはあまりに哀れで心が癒え、整理がつくまでと待っておりました」
町長の言葉にリオウはぐうっと低くて唸るしかない。あの状況、傷ついていないはずがない。全く知らない男に何も分からず犯され……リオウの方はカイリをつがいと認識したが、人族のカイリからしたらつがいと認識する前に噛まれただろう。
そして手当もされぬまま川へ……心も体もぼろぼろで生きている事すら奇跡と言う状態。そこに加害者が現れたらカイリは絶望して死を選ぶかもしれない。
それはあまりに哀れ。
「お伝えすれば絶対に我慢出来ず会いに来てしまわれる。つがいとはそれ程恋焦がれるものと聞き及んでおります。ならば暫しカイリの為に」
「……あい分かった……」
リオウの怒りは消え、町長の前に静かに膝をついた。
「長年、我が妻を守ってくれて感謝する……何か褒美をとらせよう……」
その満願籠った言葉を聞いて、町長はやっと顔を上げる事が出来た。
「王太子殿下、それは不要でございます。私達は当のカイリの力で多くの富を得ました。カイリの力は素晴らしいんです」
「……どういう事か?」
その時初めてリオウはカイリの力を知る事となる。
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