9 / 42
9 リオウ
しおりを挟む
「ぐわぁっ!」
後ろから思いっきり殴られ、気を失った。そして目を覚ますと、ベッドの上だった。
ばっと跳ね起き、辺りを見回す。
「お、俺の!俺のつがい!俺のつがいはどこだ?!」
その咆哮は招かれた王宮に響き渡った。
「本当に申し訳ございません!まさか王太子殿下を殴り倒す不届き者がおろうなど!」
「そんな事はどうでも良い!あの黒髪の、私の妻は何処だ!!」
「お、落ち着いてください、リオウ様!つがいとはどう言う事でしょうか?」
「俺は昨日この庭で俺のつがいに出会ったのだ!俺の、俺の愛しいつがい!何処だ、何処へやった!!」
虎の獣人であるリオウの本気の咆哮に、気の弱い女性は気を失ってその場に倒れる。男性も武の心得がないものは青い顔でへたり込む。それ程リオウは怒っていた。
「やっと、やっと見つけたつがいなんだ!ああ、まだあの匂いが残っている!何処だ、どこへ隠した!!」
リオウ自身を傷つけた事を詫びに現れたこの国の宰相は青い顔をさらに青くする。つがい、獣人のつがいとは国を傾けても得るべしと言われている程、大切にする存在。そんな人物がこと王宮にいるのか?と思う事と、黒髪の心当たりがある人物を思い浮かべて、寿命が一気に50年ほどすり減る思いだ。
どう伝えれば、怒る猛獣を宥めすかす事が出来るのか?ああ、無理だ。逡巡は一瞬、全て包み隠さず伝える事が最良と、それ以外方法がないと結論を出した。
「その、リオウ様がつがいとした人物ですが、間違いなく勇者と共に召喚されたカイリ様であろうかと思います。黒髪で……オメガであったでしょうか?」
「おお!カイリと言うのか!すぐに、すぐに会いたい!!ああ、あまりの嬉しさに手酷く扱ってしまった!すぐに詫びて体の不調を見てやらねば。どこに、どこにカイリはいるのだ?!」
リオウは春が来て花が開いたような喜色満面でカイリの行方を聞いてくる。宰相は死と隣り合わせの答えを答えねばならない。
「それが……カイリ様は……ヒュー様の言う事には知らない男達に連れ去られ、何処へ行ったか分からぬと……我々も全力で行方を追っているのですが未だ見つからず」
「なん、だと……?!」
「ひっ!」
あまりのリオウの怒気にその場にいた者は全て立っていられなかった。
コレは嘘をついている。半眼のリオウはイライラとソレの存在を見ていた。
「だからぁ~カイリさんの上にその人が乗ってて……カイリさんが襲われてるって思って思いっきり殴ってしまったんです、ごめんなさい」
ヒューがリオウの前に引き出された。いくら勇者のヒューでも後ろからティーゲ国王太子リオウを殴ったのは不味い話であった。
「ヒュー、その先の話を聞きたいんだ。そのあとカイリ様はどうなったんだ?」
「えーと、カイリさん、気を失ってて……起こそうと思ったらなんか覆面の人達がいっぱい来て連れてっちゃったよ、その後は知らないよぅ」
「何故止めなかった!」
「だって怖かったんだもん!」
子供っぽく口を尖らせるヒューをなんとか殴りつけないよう、リオウはぐっと力を入れて耐えた。
こいつはカイリを嫌っている。
何故かは分からない。ヒューの態度と言葉の端々に宿る感情を機敏に嗅ぎ取っって、リオウはヒューを敵と認識した。愛しいつがいの敵ならば自分の敵でもある。
しかし今は殺す時ではない。カイリを探さねば!
残り香を辿って大河に行き着き、カイリはそこから川へ投げ捨てられた可能性が高いと判断された。
「あの体で、川に?!」
リオウの後悔は死ぬ程深かった。生まれた時から探し続けたつがい。あまりの嬉しさに我を忘れて本能のままに犯した。当のカイリの言葉を聞かぬまま、無理矢理噛みついてつがいにしてしまった。
「俺の、俺が……っ!」
まともな体でもあの大河に投げ捨てられたら無事でないかもしれない。それなのにあんな怪我を負わせて……。そうでなくても人族のカイリでは獣人のリオウを受け入れる事は辛かっただろうと後悔が怒涛のように襲い掛かる。
「カイリ、無事でいてくれ……!」
リオウの願いは天に届いていたが、リオウがそれを知る事は出来なかった。
後ろから思いっきり殴られ、気を失った。そして目を覚ますと、ベッドの上だった。
ばっと跳ね起き、辺りを見回す。
「お、俺の!俺のつがい!俺のつがいはどこだ?!」
その咆哮は招かれた王宮に響き渡った。
「本当に申し訳ございません!まさか王太子殿下を殴り倒す不届き者がおろうなど!」
「そんな事はどうでも良い!あの黒髪の、私の妻は何処だ!!」
「お、落ち着いてください、リオウ様!つがいとはどう言う事でしょうか?」
「俺は昨日この庭で俺のつがいに出会ったのだ!俺の、俺の愛しいつがい!何処だ、何処へやった!!」
虎の獣人であるリオウの本気の咆哮に、気の弱い女性は気を失ってその場に倒れる。男性も武の心得がないものは青い顔でへたり込む。それ程リオウは怒っていた。
「やっと、やっと見つけたつがいなんだ!ああ、まだあの匂いが残っている!何処だ、どこへ隠した!!」
リオウ自身を傷つけた事を詫びに現れたこの国の宰相は青い顔をさらに青くする。つがい、獣人のつがいとは国を傾けても得るべしと言われている程、大切にする存在。そんな人物がこと王宮にいるのか?と思う事と、黒髪の心当たりがある人物を思い浮かべて、寿命が一気に50年ほどすり減る思いだ。
どう伝えれば、怒る猛獣を宥めすかす事が出来るのか?ああ、無理だ。逡巡は一瞬、全て包み隠さず伝える事が最良と、それ以外方法がないと結論を出した。
「その、リオウ様がつがいとした人物ですが、間違いなく勇者と共に召喚されたカイリ様であろうかと思います。黒髪で……オメガであったでしょうか?」
「おお!カイリと言うのか!すぐに、すぐに会いたい!!ああ、あまりの嬉しさに手酷く扱ってしまった!すぐに詫びて体の不調を見てやらねば。どこに、どこにカイリはいるのだ?!」
リオウは春が来て花が開いたような喜色満面でカイリの行方を聞いてくる。宰相は死と隣り合わせの答えを答えねばならない。
「それが……カイリ様は……ヒュー様の言う事には知らない男達に連れ去られ、何処へ行ったか分からぬと……我々も全力で行方を追っているのですが未だ見つからず」
「なん、だと……?!」
「ひっ!」
あまりのリオウの怒気にその場にいた者は全て立っていられなかった。
コレは嘘をついている。半眼のリオウはイライラとソレの存在を見ていた。
「だからぁ~カイリさんの上にその人が乗ってて……カイリさんが襲われてるって思って思いっきり殴ってしまったんです、ごめんなさい」
ヒューがリオウの前に引き出された。いくら勇者のヒューでも後ろからティーゲ国王太子リオウを殴ったのは不味い話であった。
「ヒュー、その先の話を聞きたいんだ。そのあとカイリ様はどうなったんだ?」
「えーと、カイリさん、気を失ってて……起こそうと思ったらなんか覆面の人達がいっぱい来て連れてっちゃったよ、その後は知らないよぅ」
「何故止めなかった!」
「だって怖かったんだもん!」
子供っぽく口を尖らせるヒューをなんとか殴りつけないよう、リオウはぐっと力を入れて耐えた。
こいつはカイリを嫌っている。
何故かは分からない。ヒューの態度と言葉の端々に宿る感情を機敏に嗅ぎ取っって、リオウはヒューを敵と認識した。愛しいつがいの敵ならば自分の敵でもある。
しかし今は殺す時ではない。カイリを探さねば!
残り香を辿って大河に行き着き、カイリはそこから川へ投げ捨てられた可能性が高いと判断された。
「あの体で、川に?!」
リオウの後悔は死ぬ程深かった。生まれた時から探し続けたつがい。あまりの嬉しさに我を忘れて本能のままに犯した。当のカイリの言葉を聞かぬまま、無理矢理噛みついてつがいにしてしまった。
「俺の、俺が……っ!」
まともな体でもあの大河に投げ捨てられたら無事でないかもしれない。それなのにあんな怪我を負わせて……。そうでなくても人族のカイリでは獣人のリオウを受け入れる事は辛かっただろうと後悔が怒涛のように襲い掛かる。
「カイリ、無事でいてくれ……!」
リオウの願いは天に届いていたが、リオウがそれを知る事は出来なかった。
65
お気に入りに追加
2,743
あなたにおすすめの小説
婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》
クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。
そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。
アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。
その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。
サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。
一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。
R18は多分なるからつけました。
2020年10月18日、題名を変更しました。
『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。
前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)
だから、それは僕じゃない!〜執着イケメンから追われています〜
Shizukuru
BL
交通事故により両親と妹を失った、生き残りの青年──
柚原 叶夢(ゆずはら かなめ)大学1年生 18歳。
その事故で視力を失った叶夢が、事故の原因であるアシェルの瞳を移植された。
瞳の力により記憶を受け継ぎ、さらに魔術、錬金術の力を得てしまう。
アシェルの遺志とその力に翻弄されていく。
魔力のコントロールが上手く出来ない叶夢は、魔力暴走を度々起こす。その度に身に覚えのない別人格が現れてしまう。
アシェルの力を狙う者達から逃げる日々の中、天涯孤独の叶夢は執着系イケメンと邂逅し、愛されていく。
◇◇お知らせ◇◇
数ある作品の中、読んでいただきありがとうございます。
お気に入り登録下さった方々へ
最後まで読んでいただけるように頑張ります。
R18には※をつけます。
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中
夕日(夕日凪)
BL
レイラ・ハーネスは、しがないうさぎ獣人のオメガである。
ある日レイラが経営している花屋に気高き狼獣人の侯爵、そしてアルファであるリオネルが現れて……。
「毎日、花を届けて欲しいのだが」
そんな一言からはじまる、溺愛に満ちた恋のお話。
獣人王の想い焦がれるツガイ
モト
BL
山暮らしの“コバ”は、怪我を負い倒れている獣人を見つけ看病する。目が覚ました獣人はコバを見て何かを言ってくるが伝わらない。その時、獣人は番だと言っていた。
一人ぼっちの少年が訳も分からず惹かれた獣人は別の国の王様でした。
強く逞しく生きるコバとそんな彼を溺愛したい王のお話。
コバと獣人は運命の番。番を知らないコバと彼に焦がれる獣人。
獣人は妊娠可能の世界になっております。ムーンライトノベルズにも投稿しております。
嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?
猫桜
BL
はた迷惑な先の帝のせいで性別の差なく子が残せるそんな国で成人を前に王家から来栖 淡雪(くるす あわゆき)に縁談が届く。なんと嫁ぎ先は世間から鬼元帥とも青髭公とも言われてる西蓮寺家当主。既に3人の花嫁が行方不明となっており、次は自分が犠牲?誰が犠牲になるもんか!実家から共に西蓮寺家へとやってきた侍従と侍女と力を合わせ、速攻、円満離縁で絶対に生きて帰ってやるっ!!
異世界ではじめて奪われました
雪
BL
26歳童貞。ごく普通の会社員だ。毎日会社と家の往復。たまに飲み会。今日はその飲み会の帰り。変わり映えのない日常は突如終わりを迎えた。
異世界に行って騎士団長に溺愛される王道ストーリー。
拙い文章で読みにくいかもしれないですが読んで頂けると嬉しいです!
実はBL初挑戦です....!
ここもっとこうした方がいいとかあればご指摘ください!
※はR18です。
瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~
飛鳥えん
BL
【病弱捨てられ皇子(幼少期)と中身現代サラリーマン(外見・黒い噂のある美貌の文官青年)】
(2章~成長後)
社会人の芦屋は、何の前触れもなく購買した乙女ノベルゲーム「瀧華国寵姫譚(そうかこく ちょうきたん)~白虎の章~」の世界に取り込まれていた。そのうえ、現在の自分の身上は悪役として物語終盤に処刑される「蘇芳」その人。目の前には現在の上司であり、のちの国家反逆の咎で破滅する「江雪(こうせつ)」。
このままでは自分の命が危ないことを知った芦屋は、自分が陰湿に虐げていた後ろ盾のない第3皇子「花鶏(あとり)」を救い、何とか彼が国家反逆の旗振りとならぬよう、江雪の呪縛から守ろうとする。
しかし、今までの蘇芳の行いのせいですぐには信用してもらえない。
それでも何とか、保身のため表向きは改心した蘇芳として、花鶏に献身的に尽くしつつ機をうかがう。
やがて幼い花鶏の師として彼を養育する中で、ゲームの登場人物としてしか見てこなかった彼や周りの登場人物たちへの感情も変化していく。
花鶏もまた、頼る者がいない後宮で、過去の恨みや恐れを超えて、蘇芳への気持ちが緩やかに重く積み重なっていく。
成長するに従い、蘇芳をただ唯一の師であり家族であり味方と慕う花鶏。しかしある事件が起き「蘇芳が第3皇子に毒を常飲させていた」疑いがかけられ……?
<第1部>は幼少期です。痛そうな描写に※を付けさせていただいております。
R18 サブタイトルも同様にさせていただきます。
◆『小説家になろう』ムーンライト様にも掲載中です◆
(HOTランキング女性向け21位に入れていただきました(2024/6/12)誠にありがとうございました!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる