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3 襲撃

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●(日遊視点)

「ヒュー!」

「うるさいうるさいうるさーい!」

 僕が勇者なのに!!なんで、何で!!!
 僕はこの世界に呼ばれて来た勇者なのに、最近何にも上手く行かない。剣もすごく重たくて手が痛くなるし、魔法も最初の簡単なのは出来たけど、そこから覚える事がどんどん増えていった。
 意味がわかんない長ったらしい詠唱を覚えないとならないって??面倒くさい!受験の過去問より面倒なんだけど??そこは無詠唱でどーんでしょ?!
 ご飯もなんだか美味しくないし、あとテーブルマナーってなに??意味分かんない。王子様はいるけど、お姫様にあったことはないし。なんか知らないけど

「貴方はアルファですからね」

 って言われてそれっきりだ。なんだよ、それ!お姫様にチヤホヤされなくてなんの勇者だよ!

「何でこんなに上手く行かないの……?あっ、もしかしてカイリさんのせい?」

 そうだ、僕と一緒にこっちの世界に来たカイリさんのせいだ。きっと僕に備わるべきチート力の半分くらいがカイリさんに流れたんだ!絶対そうだよ!

「返して貰わなきゃ!」

 カイリさんに会わせて欲しいと頼んでも王子様に断られた。カイリさんは調子が悪いって。どうやったらカイリさんから僕の力を返して貰えるの?
 早く返して貰わなきゃ僕が大変過ぎるよ!

「無理矢理、でも取り上げないと……っ」

 僕は進まない修行が嫌になっていたんだ。

「だって僕は悪くないもん。勝手に僕のそばにいて、勝手に僕の力を持って行ったカイリさんが悪い……カイリさんが悪いんだ!」

 僕の中でどんどんカイリさんが憎たらしくなってくる。

「カイリさんのせい!カイリさんさえいなかったら、僕はこんな目に合わなかった!!」

 そんな不満を口に出してしまった。

「もう一人が邪魔かい?正統な勇者よ」

「え?」

 僕は名前も知らないその人についうっかり喋ってしまった。だって悪いのはカイリさんだもの!

 僕は何も悪くない、僕が正統な勇者だもの!!

●(海里視点)

 近々、王宮を離れるとなり、少し名残惜しい気持ちになったのがいけなかったのかも知れない。

「眠れないのですか?夜の庭園も良いものですよ。ここを離れたら中々王宮のお庭を見る機会なんてないでしょうからね」

 そう言われ、それもそうかとふらりと夜の庭園へ足を延ばした。さて、そんなアドバイスをしてくれたメイドは誰だったのか?いつも気にかけてくれるメイリンさんじゃない。初めて見る人だったような?

「凄く広い……」

 見事に刈り揃えられた樹木や綺麗に植えられている花々。離れた場所にある四阿や休憩用のベンチ。通路は美しい石畳で覆われていて、常に手入れがされていることが伺える立派な庭園だった。

「……流石王宮なんだろうな」

 確かに体の調子が悪く、大半はベッドで寝て過ごしたが、王様をはじめ王子様や偉そうな人とまともに対面したことがなかった。

「……オマケならそんなもんか……帰れもしないなら、この世界で何か生きて行く術を身につけないと」

 生活は保障してくれるんだろうけれど、それじゃあ駄目だ。何か手に職をつけるとか?何かこの世界で出来ることがあれば良いんだけれど。割と手先は器用な方だからモノ作りでも始めてみようか?

「月……」

 夜の空を見上げればなんと月は3つある。ああ、ここは地球じゃないんだと深く思い知らされる。あのままトラックにひかれた俺はどうなったんだろう。実家から離れての一人暮らしだった、両親は悲しんだだろうか……。
 
 そんな哀愁に浸ってしまったのが悪かったのか、危機感と言うものが薄いのがいけなかったのだろうか。気が付いたら人に囲まれていた。

「えっ……!」

 こんな夜中の静かな庭園に、俺の周りを逃がさないように囲む5.6人の男、更に覆面をして顔も分からず、服装も黒っぽい。これは……危険を感じない訳に行かない状況だ。

「な、なんだ……お前ら……!」

「やれ」

 一人が短くそう言うと、他の奴らが飛び掛かってきた。俺はこんな多人数と喧嘩なんてしたこともない。

「う、わあああああっ!誰か……!」

 それだけ叫ぶのが精いっぱいだった。すぐに口を塞がれ、地面に転がされる。縛り上げようとしてるのが分かったから手と足をむやみに振り回す。助けてくれ!誰か、誰かーーーー!

「早くしろ!」「はいっ」

 男達の声、俺はこいつらに捕まって何をされるんだ!?

 絶望感が襲い掛かってくる、その時少し離れた場所からまた別の声がかかった。

「おい、お前達。何をしている」




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