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1 オマケで連れて来られたようだ

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 社会と会社の仕組みに感づいて、この世に希望が薄いと気が付き始めた26の夜。俺、新井海里カイリは、コンビニから一人分の夕飯を購入して出ようとした瞬間、眩しさに驚いた。

「うわっ!」
「えっ」

 入口目掛けて突っ込んで来たトラックに俺と隣にいた少年は巻き込まれ……黒い穴の中に吸い込まれた。


「召喚に成功しました! し、しかし」
「な、何と言う事だ……! 二人とは」

 俺達は見知らぬ魔法陣の上に寝かされていた。

「俺は笠原かさはら日遊ひゆう!14歳!」

 とても元気な少年が隣で目を輝かせている。

「これ! これって異世界転移だろ? 俺、めっちゃ憧れてて、超嬉しい!」

 笠原君は物凄くハイテンションだ。こんな知らない所に召喚されたと言うのに、何も不安を感じないのだろうか? これが若さと言うものか。子供のように飛び跳ねる笠原君は俺に話しかけてきた

「ねえ、君は? 年は同じくらいなんでしょ?!」

「え?俺はそんなに若くないよ。もう会社員だったし……君も14歳には見えないな。高校生くらいに見える」

 日遊君は、えっ?!と驚いて自分の掌を見て……。

「僕は少し歳を取ってて、お兄さんは若返ってると思う!」

「え?そ、そうなのか」

 俺達は少し見た目が変わっている様だ。俺は20歳頃だろうか? 俺達はとりあえず自分達の現状について騒つく周りの人間に話を聞くことにした。


「はい!僕、僕が勇者!!」

 日遊君……こちら側で呼び易いように「ヒュー」と呼んで欲しいと本人から申告があったのでそうすることにした。
 ヒュー君は14歳の高校受験を控えた男の子で、あの日は遅くまで塾通い。

「ママの迎えをコンビニで待ってた」

「成程」

 ヒュー君は息抜きに読んだ小説にどっぷりハマっていて、この状況は最高らしい。

「もー勉強なんてしたくない!剣を持って無双したい!」

「はは、出来ると良いね」

「出来るよ!だって異世界だもん!神様には会えなかったけれどきっと大活躍間違いなしだって」

 受験のストレスからこう言う形でも解放されて、元気いっぱいなんだろう。

「僕は勇者だけど、新井さんはどうかなぁ?きっと僕の巻き込まれでしょ?」

「そう、なのかも」

 ヒュー君曰く、異世界に連れて来たい人間の傍にいた人間、この場合連れて来たかったヒュー君の傍にいた俺はオマケでこの世界に送られてしまった、そう言うことがあるそうだ。
 俺はそう言う話を全く知らなかったが、妙に納得した。俺なんかが何か力があって知らない世界を救える筈はない。

「帰るにはどうしたら良いんだ?ヒュー君」

「知らない。僕が読んでた小説もまだ途中だったし。それはこの人達に聞いたら?」

 周りには沢山の偉そうな人達がいた。召喚とやらはとても大掛かりな魔法で大変な事らしい。

「帰りたいのですが」

 俺がとりあえず聞いてみると、偉そうなお爺さんが一歩前へ進み出て、悲しそうに首を横に振った。

「申し訳ございません。戻す儀式は伝わっておりませぬ」

「……ひどくないですか……?」

 年甲斐もなく泣きそうになった。俺だって日本での生活があったのに。

「こちらでの身分や生活は保証させていただきますので!どうか、どうかお力をお貸しください!」

 俺はとんでもない事に巻き込まれたのだった。



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