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いいえ、メイドです

15 知らぬ、存ぜぬですか

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 シーランの海を挟んだ国、ヘイルズは混乱の最中にいた。

 それはシーランから届いた一通の公式書状。

「300年前、貴国の勇者が討ち漏らし、厚顔にも我が領海内に捨て放置した魔王の封印箱の件、謝罪と損害賠償。ひいては引き上げに関する全ての費用を請求する物なり」

 これに対してヘイルズ王宮は抗議の声に包まれた。

「何を!冗談にしても度が過ぎる!」

「シーランの海竜の顎門のせいで我々の海も荒れておると言うのに!」

「賠償金を支払うべきはむしろシーランであろう!」

 大半はシーランの非常識をなじる物だったが、

「……っ」

 国王と宰相だけは無言で顔を真っ青にした。

「お、王よ。書状には続きがあります。なお、貴国より、誠意が見えぬ場合引き上げた魔王の封印箱はそちらへお返しする物と致します。更に緩んだ封印もそのままお返しするので、貴国での処理をすると良いでしょう……と」

「ま、まさか!シーランは我が国にそのようなものを押し付ける気か?!」

 しかし、押し黙る王と、宰相に会議は水を打ったような静けさに包まれる。

「……あの、封印の箱には。わ、我が国の印が入っておる……一目で我が国の物と……知れよう」

「……300年前より、王家のみに伝わる秘匿されし……魔王を倒しきれなかった勇者の嘆きの書が……」

「シーランに……知られたか……何故、どうやって……海竜の顎門は、何人も手の届かぬ深き場所……引き上げる事など、人の技で叶うわけもない」

 結局、ヘイルズ国の出した答えは。



「知らぬ、存ぜぬ、ですか。愚かな」

「証拠の品を目の前に出されなけば、罪を無かった事にしようと言うのですね」

 返事を受け取ったナイトレイとアルカンジェルは大きなため息をつくしか無かった。

「ヘイルズ王宮に魔王の箱を送りつけ、封印が解かれた場合。ヘイルズはこの世界から消えますが、よろしいのでしょうか?」

 レラが首を傾げながら、アルカンジェルとナイトレイにお茶を差し出す。

「とは言え、ヘイルズになんの責任もなく此方で処分する訳にはいかない。勿論このまま海竜の顎門へ咥えさせて置くわけにもいかない」

「どうしましょうか……レラ、どうしたら良いでしょう?」

「そうですねぇ、ちょこっとだけ開けてヘイルズの隅っこに置いて来たら良いんじゃないんですか?ちょっと開けただけでも300年も閉じ込められた魔王は凄く怒ってると思いますし」

「あら、良い考えね。そうしましょう、ナイトレイ様」

 ナイトレイは、差し出されたお茶をぐいっと飲み干す。お茶以外の色々な思いと言葉も全部一緒に。

「とても良い考えだと思う。そうして貰えるかな?」

「レラ、大丈夫?」

「ええ、お任せください。海軍の調教が済んだら、引き上げちゃいますね」

 ありがとう、心配がひとつ減ったわ!とアルカンジェルはにこにこと笑い、その笑顔を見てレラもとても嬉しそうだ。
 ナイトレイもいい笑顔で、お守り代わりの月と薔薇が一緒に刺繍された見事なハンカチを握りしめた。



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