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マリナデット・ウィフラート

57 父上は連れていかれたにゃん

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 王太子メディオと帝国皇妹メロディは婚約式を経て正式に結婚した。その際に第二王子の横に婚約者として立っていたのはマリナデット・ウィフラート侯爵令嬢だった。

「酷い」
「やった、やった! まりにゃん大好きー」

 ギラが軌道に乗った時点でもっと暖かい国へ移動する予定だったのに、メロディに泣かれてしまったのだ。

「ま、まりにゃん?! どこかへ行くなんて嫌ですぅー!そばにいて下さいーー!うわぁーーん!」
「お、落ち着いて下さい!メロディ様」
「あー、諦めろ。メロディはこうなったらもう無理だ」

 ルイーナにも肩を叩かれ、結局マリウスはマリナデットに戻るしかなかったのである。

「本当に失敗でした」
「でもアリアデス閣下はお喜びだっただろ? 」
「……そうですが……」

 メロディの結婚に加え、ルイーナまで子供を授かったのだ。相手は騎士団長で完全にルイーナのお尻の下に引かれたクッションである。しかし、騎士団長は意外とそれが心地良かったらしく順調らしい。結婚をする前に子供ができたのはよろしいとは言い難いが、近々式を上げるだろう。

「ついでにお父様も引き取ってくれたじゃないか」
「そこは本当に感謝しております」

 今、ウィフラート侯爵は帝国で馬車馬のように働いている。マリナがギラで活躍していると聞きつけたウィフラート侯爵は家も領地も投げ捨てて、マリナのところに駆け寄って……来る途中でギラから帰るアリアデスに捕まったのだ。

「ほう? 貴公がマリナの問題がある父親か」
「はて? なんのことかさっぱり。私は流しの商人でござ……」
「まあ、戯言は帝国で聞くとしよう。連れて行く」
「いやぁーーー! まりにゃんに会いたいーー!! 助けて、まりにゃん、まりにゃあああああん!」

 人間的に更生するまでこき使うと手紙がついて流石のマリナも苦笑いをしたようだった。
 父親があんな難題をマリナに押し付けたのはやっぱり無理ですとマリナに言わせたかったからだと知って、返事の手紙にはこう書いた。

「徹底的に使ってやって下さい」

 もちろんだ、という返事も貰いマリナの怒りはアリアデスが晴らしてくれることとなった。母親からは

「ギラは寒いから帝国でのんびりするわ。皇帝陛下はお給料も沢山くれるのよ」

 と、暢気な手紙を貰っている。ウィフラート家の使用人達も残る者、帝国へ行く者、ギラへ住み着く者とそれぞれ分かれたようだった。

「悪いね、まりにゃん。ドレス着るの嫌だったろ? ウチの体面のせいで」
「……いえ、構いませんよ、テスラ様」
「まりにゃんやっさしー!」

 にこにこと上機嫌で笑うテスラをマリナは見る。この男はマリナが男で構わない、むしろ男がいいと言うちょっと変態感が強い野郎だし、頭もあまり良くない。さらに中々猫背が直らないがマリナを真っ直ぐに見つめて好きだと言う。

「ほら、背中が丸まってますよ」
「あ、はい! 」

 そしてマリナの言う事に素直に従って

「ありがとう、まりにゃん」

 感謝の言葉も忘れない。

「いえいえ、どういたしまして。婚約者様」
「えへへ……こんなに美人の隣にいれて私は幸せ者だなぁ」

 自分を偽らなくても良い相手の隣は心地が良いと思ってしまうのだった。

「まあ、ここで良いでしょう」
「ん?」
「何でもありませんわ」

 
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