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マリナデット・ウィフラート
41 誰でも出来る仕事ですし
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「黒パンは硬いですが、日持ちの事を考えると仕方がありませんわね……!」
「では下町のパン屋に注文を出しておきます」
「頼むわね」
「お任せ下さい」
エレンが今日は街までお使いのようだ。
「兄上。ドワーフ族の話は本当でした。皆北の荒地で食うや食わずの生活をしておりました」
「財政官か……首にして後釜に誰を座らせれば……?」
「……誰もおりません」
二人はため息をつくしかない。彼らの父はかなり愚鈍な王だった。貴族達の言いなりになり、何にでもぽんぽんとハンコを押した。
王宮は腐敗し、街は寂れた。何も小さかったマリナデットのせいだけではなかったのだ。
「どうすれば……」
「テスラ様が兼任されればよいではないですか?」
「マリウス!無理です!やった事がないんですよ!」
またあのきょとんとした顔をされてしまい、メディオは身構える。今度は何を言われるのか!と。
「財政官をやった事がある人の方が少ないと思いますが」
「そうですが!」
「着服して数字を書き換えなきゃ誰でもいいんです。下の人達はそこそこできる人もいるようなのでテスラ様で大丈夫です」
「本当……だな?」
「しつこい殿方は嫌われますよ!」
メディオは現在の財務官長、フェブル伯爵を断罪するために呼び出した。
「これはこれは王太子様、ご機嫌麗しゅう」
揉み手をしながら現れたでっぷり太った伯爵は、金のかかった服を着ている。手にも趣味が悪いと言いたい大きな宝石が付いた指輪をいくつも嵌めている。
メディオはため息をつき、マリウスがまとめた書類を見て用件だけを伝えることにした。
「フェブル伯爵、今日を持ってそなたの財務官長職を罷免とする。なお、王家よりの貸付金は速やかに返済するよう。一日当たり利息がつくので、早めの完済を勧める。それが出来ぬのであれば罪人として家財全て没収とする。逃げようとすれば国家反逆罪で縛につくこととなる。以上だ」
「は?」
脂がのりすぎた顔にたらりと汗を浮かべ、フェブル伯爵は一言しか言えなかった。
「以上だ、帰りたまえ。私はとても忙しい。君が何年にもわたって私腹を肥やしてきた後始末を大急ぎでやっているのだからね。君のほかにもたくさんいてね。忙しいどころの話ではないのだ」
「メディオ様……?私はそのようなことは……」
「フェブル伯爵、利息は常に増えているぞ。君は簡単に計算しただけで国家予算単位で横領している。税の支払い漏れも多い。一日過ぎるごとに莫大な追徴金がついてきている。餞別の資料だ、持っていきたまえ」
一枚手渡された紙にはフェブルが財務官長になってからの大体の不正額がほぼ正しい形で書かれていて、その着服した金額がすべて王家からの借り入れとして計算されている。
「え?いや、しかし……私は……」
身に覚えがない、そうメディオに訴えるつもりであった。しかし、メディオの目は凍土より冷たく、一切の言い訳は通じないと思えた。
「早くしたほうがいいだろう。今、詳細に調べているようだぞ。遅れれば遅れるほど額は増えてゆくだろうな。あと、ドワーフ族を北の荒れ地に追いやり、南の地を我が物顔で使っているようだが、先ほど人をやって押さえさせてもらったのでゆめゆめ忘れるな」
「は?え?それは……どういう……」
「もう行け。逃げ場はすべて潰れている。首を切り落とす事にならねばいいな?」
王太子メディオの執務室から追い出され、フェブル伯爵はまだ何が起こったか分からず、呆然としていた。
「では下町のパン屋に注文を出しておきます」
「頼むわね」
「お任せ下さい」
エレンが今日は街までお使いのようだ。
「兄上。ドワーフ族の話は本当でした。皆北の荒地で食うや食わずの生活をしておりました」
「財政官か……首にして後釜に誰を座らせれば……?」
「……誰もおりません」
二人はため息をつくしかない。彼らの父はかなり愚鈍な王だった。貴族達の言いなりになり、何にでもぽんぽんとハンコを押した。
王宮は腐敗し、街は寂れた。何も小さかったマリナデットのせいだけではなかったのだ。
「どうすれば……」
「テスラ様が兼任されればよいではないですか?」
「マリウス!無理です!やった事がないんですよ!」
またあのきょとんとした顔をされてしまい、メディオは身構える。今度は何を言われるのか!と。
「財政官をやった事がある人の方が少ないと思いますが」
「そうですが!」
「着服して数字を書き換えなきゃ誰でもいいんです。下の人達はそこそこできる人もいるようなのでテスラ様で大丈夫です」
「本当……だな?」
「しつこい殿方は嫌われますよ!」
メディオは現在の財務官長、フェブル伯爵を断罪するために呼び出した。
「これはこれは王太子様、ご機嫌麗しゅう」
揉み手をしながら現れたでっぷり太った伯爵は、金のかかった服を着ている。手にも趣味が悪いと言いたい大きな宝石が付いた指輪をいくつも嵌めている。
メディオはため息をつき、マリウスがまとめた書類を見て用件だけを伝えることにした。
「フェブル伯爵、今日を持ってそなたの財務官長職を罷免とする。なお、王家よりの貸付金は速やかに返済するよう。一日当たり利息がつくので、早めの完済を勧める。それが出来ぬのであれば罪人として家財全て没収とする。逃げようとすれば国家反逆罪で縛につくこととなる。以上だ」
「は?」
脂がのりすぎた顔にたらりと汗を浮かべ、フェブル伯爵は一言しか言えなかった。
「以上だ、帰りたまえ。私はとても忙しい。君が何年にもわたって私腹を肥やしてきた後始末を大急ぎでやっているのだからね。君のほかにもたくさんいてね。忙しいどころの話ではないのだ」
「メディオ様……?私はそのようなことは……」
「フェブル伯爵、利息は常に増えているぞ。君は簡単に計算しただけで国家予算単位で横領している。税の支払い漏れも多い。一日過ぎるごとに莫大な追徴金がついてきている。餞別の資料だ、持っていきたまえ」
一枚手渡された紙にはフェブルが財務官長になってからの大体の不正額がほぼ正しい形で書かれていて、その着服した金額がすべて王家からの借り入れとして計算されている。
「え?いや、しかし……私は……」
身に覚えがない、そうメディオに訴えるつもりであった。しかし、メディオの目は凍土より冷たく、一切の言い訳は通じないと思えた。
「早くしたほうがいいだろう。今、詳細に調べているようだぞ。遅れれば遅れるほど額は増えてゆくだろうな。あと、ドワーフ族を北の荒れ地に追いやり、南の地を我が物顔で使っているようだが、先ほど人をやって押さえさせてもらったのでゆめゆめ忘れるな」
「は?え?それは……どういう……」
「もう行け。逃げ場はすべて潰れている。首を切り落とす事にならねばいいな?」
王太子メディオの執務室から追い出され、フェブル伯爵はまだ何が起こったか分からず、呆然としていた。
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