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マリナデット・ウィフラート

38 例え……くても

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 北の公国ギラの第一王子に新しい補佐官がついた話はその筋に素早く拡散された。

「マリウス・ラントでございます。以後よろしくお見知り置きくださいませ」

「あーーん!まりにゃーん!」

「……全てを台無しにするな、テスラ。良いか?私の新たなる側近はマリウス・ラント子爵だ。男性だ!分かったな!」

「マリウス!私の婚約者に!」

「メディオ様、聞いていないようですが?」

「違う、テスラは分かっていてもやっているんだ。数日でギラの第二王子は美しいが男に婚約者になれと迫る危ない奴と噂が回るだろう!迷惑だからやめてくれ!テスラ!」

「嫌です!兄上!まりにゃんと結婚できるなら!私は何も要らない!人としての尊厳さえ捨ててやる!」

「引きますね」

 とにかく、マリナはマリウスとしてギラの王宮で働く事になったのだが、問題点は多かった。

「メディオ様、テスラ様の件は何とかしていただけるんですよね?」

「引っ叩いてでも」

「よろしくお願いします。さあ、エレン、エレナ。働きますわよー」

 やる気を見せるマリナ改めマリウスに双子は笑顔を見せた。

「マリウス様、言葉遣いが女性に戻ってます」

「男性の服装もお素敵ですけどね」

 あらやだ!……あっ、またやってしまった。などと笑いながら資料室へ向かう。

「テスラ。あまり馬鹿な姿ばかり見せると本当にマリウス殿に嫌われてしまうぞ」

「そ、それは困ります!兄上!」

 優秀なメディオは優秀な使える弟を失いたくない。

「テスラ。マリウス殿をゆっくりじっくり攻略するんだ。私もあの人材は逃したくない。弟が男の嫁を貰うのもやぶさかではない!しかし!マリウス殿を逃がす事だけはしてくれるな!……例え勃たなくとも!」

「分かりました!私は必ずマリウスを婚約者にしてみせますとも!例え勃たなくとも!」

「早く治ると良いな」

「魔女様の機嫌をとってくれる騎士の活躍に期待しております!」

 テスラはマリウスの尻を追いながら、少し使える男になった。


「メディオ様、良く今までこんな杜撰な計画で国が維持できましたね」

「……言い返す言葉もない」

 マリウスはため息をついてエレナを呼んだ。

「エレナ、ここの冒険者ギルドに行って討伐依頼を出してきてください。獲物はホワイトサーベルタイガー3頭」

「マリウス殿!それはS級の魔物ではないですか!」

 にこり、とマリウスは笑う。

「マントにするので毛皮をきれいに取れるよう、傷が少ない物でお願いします、と書いてくださいね」

「分かりました。依頼を出して来ます、報酬はいくらくらいにしますか?」

 うーん、とマリウスは天井を見てから

「1000ギルで」

 と、あり得ないほど安い金額を提示した。

「マリウス殿、それはあまりにも!」

「エレンは市場に言ってお芋をいっぱい買ってきてください。一冬越えられるくらいです」

「分かりました」

 とにかくマリウスが双子のメイドに頼んだ事はメディオには意味が分からず、呆然とするだけだった。

「メディオ様?ともかく税金を着服している貴族が多いようですが、財務官様を叱責していただけませんか?そうでなければもう少し嘘をつかない方に変えていただきたいのですが」

「ま、マリウス殿……一体……」

「財務官様のお手を通ると数字が書き換わっている書類がたくさん見受けられまして。しかも現在の財務官、フェブル伯爵になってから増えておりますよ?あと騎士団の予算もおかしいものが散在しますね。全ての予算が訓練費なのもどうかと思います」

「ま、まりにゃん「マリウスです」まりうすにゃん「マリウスです」マリウス、一体それをどこで知ったんだい?」

 テスラに言われ、マリウスは首を傾げる。

「どこでも何も、帳簿を見たらすぐわかるでしょう?だって書いてあるんですから」

「えっと……見たの?覚えてるの?」

「ええ、まだここ5年分くらいですが」


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