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マリナデット・ウィフラート
32 氷の女神?ですにゃん
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「マリナデット殿!ご無事か!この辺りに魔女が攻め込んで来たと情報が!」
「お黙りなさいっ!痴れ者がっ!!」
マリナが借りている家に大軍でやって来た王太子のメディオを叱りつけた。
マリナはそれほど大声を出す方でもないし、怒りを露わにする方でもない。しかし、今回は怒っている。とてもとても。
美人が怒るととても怖い。ただ、怒りに震えているだけで、マリナデット自体体力も腕力も人並み以下だ。それなのに、王太子メディオが連れてきた騎士達は怒りで青ざめ、ブルブルと震えるマリナデットを恐ろしいと思った。
「し、しかしマリナデット殿……こちらにあの凶悪な魔女が……」
「お黙りなさいと言ったのが聞こえなくて?メディオ第一王子」
吹き荒ぶ北の大地より冷たい声が、襲いかかる。冷水をぶつけられ、心臓がヒュッと締まる思いだ。
「貴方達、それが女性に対する態度ですか?下らない噂に惑わされ、真実を自らの目で確かめようともしない愚か者の行為。力なき民ならまだしも、武力も権力も備えた国の要たるものがそのような事で良いとお考えですか?!」
「し、しかし……魔女は人を呪います。現にテスラは……」
「どんな呪いでしたか?大勢の騎士が取り囲み、罪人の如く言い募られなければならない呪いですか!?」
「……」
メディオは口を開く事が出来なかった。何せテスラ王子は「呪われた!」としか言わなかったのだ。確かめていない。
魔女は恐ろしいものだ。それはこの辺一体の共通認識だ。歳を取らずに何百年も生きる魔性の女達。時に幼子を生贄に。時に若い男を誘惑すると言われている。
……誰もその事実を見たものは居なかった。
「怠慢です、王子。それが国の豊かさを損なっている。貴方は王にはまだ足りない」
特大の槍が胸に突き刺さったようだった。致命傷なほど大きな大きな槍だったが、そこで倒れる訳にはいかない。
メディオはぐっと唇を噛み締めて、青い顔を上げた。
キラキラと太陽を反射して、氷の女神のようなマリナデットの後ろに、絶世の美女が立っていた。
背の高いマリナデットより、もの凄い踵のヒールのせいで背が高い。胸元と太ももの切れ込みが激しいドレスに金の巻き毛が美しい……魔女だ。
「マリナデット、このうるさいコ達は?」
「あっ!お姉様すみません。今叱りつけて居たところです」
「あらぁ?そうなの?しょうがないわねぇ?まぁマリナデットに免じて許してあげます。とっととお帰り、坊や達」
メディオの鼻先で扉は閉じられる。
「帰ろう、皆の者。私はまだまだという事をよくよく思い知らされた。マリナデット殿にも魔女様にも悪い事をした」
静かにメディオは騎士達に話す。
「しかし!王子!」
「女性の家の前でする話か?」
静かで落ち着いてはいるが、怒りが滲む声でメディオは騎士を制した。
「続きは城で話し合おう。これは大変な事実かも知れない。もし、そうであれば我々は敵ではない者を勝手に恐れ、敵に仕立てようとしていたのかもしれんな」
魔女を悪とする長い歴史がある。さて、その歴史は本当に正しいのか。メディオは吟味しなければならない。
「それにしても魔女様って美人でしたねぇ」
「おっ?魔女様に魂奪われちゃったか?そこは言い伝え通りかぁ?」
魔女は男を誑かす。悪意も害意もなく、男の方から誑かされに行っているなら、やはり魔女は敵ではないのだ。
「お黙りなさいっ!痴れ者がっ!!」
マリナが借りている家に大軍でやって来た王太子のメディオを叱りつけた。
マリナはそれほど大声を出す方でもないし、怒りを露わにする方でもない。しかし、今回は怒っている。とてもとても。
美人が怒るととても怖い。ただ、怒りに震えているだけで、マリナデット自体体力も腕力も人並み以下だ。それなのに、王太子メディオが連れてきた騎士達は怒りで青ざめ、ブルブルと震えるマリナデットを恐ろしいと思った。
「し、しかしマリナデット殿……こちらにあの凶悪な魔女が……」
「お黙りなさいと言ったのが聞こえなくて?メディオ第一王子」
吹き荒ぶ北の大地より冷たい声が、襲いかかる。冷水をぶつけられ、心臓がヒュッと締まる思いだ。
「貴方達、それが女性に対する態度ですか?下らない噂に惑わされ、真実を自らの目で確かめようともしない愚か者の行為。力なき民ならまだしも、武力も権力も備えた国の要たるものがそのような事で良いとお考えですか?!」
「し、しかし……魔女は人を呪います。現にテスラは……」
「どんな呪いでしたか?大勢の騎士が取り囲み、罪人の如く言い募られなければならない呪いですか!?」
「……」
メディオは口を開く事が出来なかった。何せテスラ王子は「呪われた!」としか言わなかったのだ。確かめていない。
魔女は恐ろしいものだ。それはこの辺一体の共通認識だ。歳を取らずに何百年も生きる魔性の女達。時に幼子を生贄に。時に若い男を誘惑すると言われている。
……誰もその事実を見たものは居なかった。
「怠慢です、王子。それが国の豊かさを損なっている。貴方は王にはまだ足りない」
特大の槍が胸に突き刺さったようだった。致命傷なほど大きな大きな槍だったが、そこで倒れる訳にはいかない。
メディオはぐっと唇を噛み締めて、青い顔を上げた。
キラキラと太陽を反射して、氷の女神のようなマリナデットの後ろに、絶世の美女が立っていた。
背の高いマリナデットより、もの凄い踵のヒールのせいで背が高い。胸元と太ももの切れ込みが激しいドレスに金の巻き毛が美しい……魔女だ。
「マリナデット、このうるさいコ達は?」
「あっ!お姉様すみません。今叱りつけて居たところです」
「あらぁ?そうなの?しょうがないわねぇ?まぁマリナデットに免じて許してあげます。とっととお帰り、坊や達」
メディオの鼻先で扉は閉じられる。
「帰ろう、皆の者。私はまだまだという事をよくよく思い知らされた。マリナデット殿にも魔女様にも悪い事をした」
静かにメディオは騎士達に話す。
「しかし!王子!」
「女性の家の前でする話か?」
静かで落ち着いてはいるが、怒りが滲む声でメディオは騎士を制した。
「続きは城で話し合おう。これは大変な事実かも知れない。もし、そうであれば我々は敵ではない者を勝手に恐れ、敵に仕立てようとしていたのかもしれんな」
魔女を悪とする長い歴史がある。さて、その歴史は本当に正しいのか。メディオは吟味しなければならない。
「それにしても魔女様って美人でしたねぇ」
「おっ?魔女様に魂奪われちゃったか?そこは言い伝え通りかぁ?」
魔女は男を誑かす。悪意も害意もなく、男の方から誑かされに行っているなら、やはり魔女は敵ではないのだ。
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