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マリナデット・ウィフラート

29 風邪が流行っているですにゃん?

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「い、一時、話し合いましょう!」

 ガタガタ震えるマリナデット。その前に立ち塞がる戦闘メイドの双子。部屋は全壊で、風が吹き渡る。
 テスラ王子も満身創痍で、彼の気絶した護衛が何十人も転がっている。

「あ、ああ!は、話し合おう!メイド殿!こう寒くては、マリナデット嬢も風邪を引いてしまう」

「は、はくちょん!流石北の公国ですわ」

 メイド達は武器を下ろした。


「で、マリナデット嬢は男性なのだな?結婚しよう、いますぐに。王位などいらん、君が欲しい」

「落ち着いてください」

 信頼のおけるエレンとエレナが側にいるので、マリナデットは落ち着いたが、テスラ王子がおかしくなった。

「もうなんでも良い、結婚してください。ああ!もう!下僕でもいい!踏んで!踏んで!まりにゃん!お願い!」

「王子ぃーー!」

 護衛に羽交締めされる。このままではマリナデットの足元に四肢を投げ出さんばかりの勢いだ。

「あんなに!あんなに美人で可愛いのに男なんて!理想!理想的過ぎる!あーもーどうにかなっちゃいそー!ひー!神様ありがとうございます!まりにゃんと言う奇跡をこの世に遣わせて頂き感謝いたしますぅーーー!」

 引いた、マリナもエレンもエレナもドン引きだ。この手のおかしい人はヴィクトルでだいぶ耐性がついたと思ったら、テスラはそれのちょっと上を行った、むしろ逝った。

「私が女性が苦手だったのは全てまりにゃんに出会うためだったのですね!苦手な茶会や、婚約者候補に愛想笑い!ああ!あの日々はこの為の試練か!耐えて良かった!良くやった、私!偉いぞ!私」

「エレン、エレナ。テスラ様は少しお風邪でも召したのかしら?何か様子がおかしいわ、やはり早めに戻りましょう。ここは寒すぎるわ」

「そうですね」「そうしましょう」

「行かないでぇえええええ!!」

 

「マリナ様やってください!」

「行きますわよ……っ!それっ!えーと、この豚ちゃん!」

 スカッ!

「……」

「もう一度です!」

「分かりましたわ!この!豚ちゃん!えいっ!」

 ぺち

「あーー!まりにゃん様ーー!ありがとうございますー!」

「う、うるさいですわ!頭が高いのですわ!這いつくばるのですわー!」

ぺちん!

「はーー!尊いーー!踏んで!踏んでくださいー!」

「えっ!痛いですよ?」

「マリナ様、素に戻らない!はい!踏む!」

「あ、はい!失礼しますね、ふみっ」

「あーーーーっ!」


「……何をしておるのか聞いても良いかな?我が弟よ」

「あ!兄上!私は真実の愛に満たされている所でございますぅー!」

 テスラの兄、メディオは聡明で頼りになる弟が、冒険者風の女性に足蹴にされ、鞭で打たれて喜んでいるのを目の当たりにして、頭を抱えた。

「あっ!失礼致しました!私はこれで!」

「だめー!まりにゃん!行かないでーー!もっとぉー!」

 その女性のブーツを、しっかり掴んで離さない弟は一体どうしてしまったのか。大惨事の部屋より何より、どうして良いか分からなかった。


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