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マリナデット・ウィフラート

26 傷心だにゃん

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「……」
 
 マリナが働かせてもらおうと思っていた喫茶店は主人が変わっていたり、店の雰囲気が変わっていたり。挙句の果てには

「……お兄様、何をしていらっしゃるんですか……?」

「さ、最近私の仲間の間で、喫茶店のオーナーになるのが流行っていてな??」

 兄がいたときはびっくりした。

「酷いです……お兄様がわたくしの働き先をとってしまうなんて!き、嫌いです!」

 ヴィクトルは死んだ。
さらばヴィクトル、安らかに眠れ!


「エレン!エレナ!聞いてください!わ、わたくし!この国を出ますっ!もう耐えきれませんっ」

「「ええーーー!」」


 国が揺れた。

「号外ー!号外ーーー!まりにゃん国を捨てるってよー!?」

「な、なんだってーーー!」

「どこへ!どこへ行こうと言うのだね?!」

「我が国?!ねぇ!我が国なんてどうかなっ?!」

「発端はヴィクトルがやらかしたよー!あいつは今簀巻きで街はずれでぶら下げられてるから、殴るならいまだよー!」

「あの阿呆!!」



 小さな旅行鞄を一つ持ってマリナは辻馬車乗り場に居た。

「辻馬車の乗り方が分かりませんでした……」

 マリナの知っている馬車は家の前まで来てくれる物だけだ。エレンもエレナも苦笑するしかない。

「どちらへ向かうご予定ですか?」

 一応、エレンは尋ねる。本当に国を出るなら、大変な事になるのだが、南や西であれば問題は大きくならないだろう。あちらは交流もあり、同盟国だ。

「勿論、傷心で向かうのは北です!」

 最悪の決断に双子は頭痛が増した。

「おや、お兄さん?北へ行くのかい?俺っちも北へ帰るからついでに乗せてってやろうか?」

 荷馬車いっぱいに藁を積み込んだ、人の良さそうな農夫が道端で、北を指指してふんぞり返るマリナに声をかけた。

「本当ですか!ありがとうございます」

 人の良さそうな農夫の笑顔にマリナも笑顔で返す。

「藁の上に座ってもらう事になるけど、良いかな?すぐ出るから、乗った乗った!」

「素敵ですね。乗せて貰いましょう?エレン、エレナ」

 待って、マリウス様。そう声をかける前にマリナは荷馬車の上にちょこんと座ってしまう。

「藁の上ってふかふかしていて座り心地が良いのですね?ん?」

「!せぇいっ!!」

 農夫はマリナが乗ると同時に馬に素早く鞭を入れた。突然の号令に馬は大きくいななくと、土を蹴り上げて走り出す。

「ま!マリナ様っ?!」 

「マリナ様!」

 あまりのタイミングにエレンとエレナも反応が遅れる。

「きゃっ!」

 いきなり走り出す馬にマリナも転がり落ちそうになるが、藁の中から出てきた手に捕まれた。

「あ、ありがとうございます?」

「どういたしまして?」

がさ!がささっ!と藁山は崩れ中から甲冑の兵士や、魔導士達が姿を現す。

 魔導士達はもう呪文を唱え始めており、兵士は飛んで来る短剣や矢、魔法も含めて撃ち落としている。

「あの」

「転移します、捕まって!」

「え?あ、はい」

 走り続ける馬車ごと全て、その場から掻き消えた。

「ま!マリナ様!!」

「追うわよ!エレン!」

 エレナは魔法の残滓を捕まえる。

「青殿!ご助力を!」

「捉えました!」

 急がねば!エレナはエレンの手を握る。



「あいわかった!」

 キィン、澄んだ音がしてエレンとエレナに防護の魔法がかかる。礼を述べている暇はない。
 相手の魔導士も恐ろしい使い手。もはや魔法の残滓も消えかかっている。

 エレナは薄くなる痕跡を辿って飛んだ。双子の感覚共有を使ってやっと追えるほどに消されている、マリナが連れ去られた転移の跡。

「ちっ!」

 舌打ちをするしかない、もう先は霧散しているし、魔導トラップも多い。いつから用意された転移魔法か!

「マリナ様……!」

 油断したつもりはなかった。だが、マリナは連れ去られてしまった。

「北……っ!」

 1番面倒で1番厄介な国に、間違いなくマリナはいるだろう。
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