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マリナデット・ウィフラート

15 ざまぁ4 ニコラ

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 その日、バーベリー公爵夫妻は第一王子主催のパーティに参加していた。

 そしてそのつまらない三文芝居を見てしまった。しかも自分の息子がそのくだらない見世物の登場人物になっていたのを、その目でしっかり見てしまったのだ。

「セレウスは1つ下であったな?まさかセレウスにまで阿呆が移ってはおらんな?」

 傀儡にと思い、ダレン王子に近づくように嫡男のニコラを送り込んだ。しかし、ニコラは線引きを誤り第二王子と同じ考えになってしまった。
 そして

「あの王子の阿呆は伝染するようだ。ニコラは廃嫡するより他あるまい」

 バーベリー公爵の顔色は悪い。ニコラにどれほど教育という名の資金をかけたと思っているんだ。第二王子にどれほど貢いだと思っているんだ。
 その両方の駒が、もう駒として役にたたぬゴミになるとは予想外だった。

 優秀な頼れる息子だと思っていたのに、巨大な落とし穴だった。

 第一王子に非礼を詫び、パーティ会場を後にする。途中で馬鹿息子を衛兵から引き取った。

「父上!私は」

「黙れ、痴れ者が!お前にマリナデット様の10分の1の知恵でもあれば良かったのに。ああ、ウィフラート家からどんな請求が来るか恐ろしい」

「ルイーフ様と旦那様は旧知の仲だとお聞きしましたが、なんとかなりませんか?」

 妻が青い顔でうかがってくるがどうしようもない。

「私の代であやつをギャフンと言わせるつもりだったのに、しばらくは無理だな。……鉱山は取られると思え。あと保養地もだろう。その辺で済めば奴の温情と言うしかない」

 はあ、ため息しかでない。我が家の収入の半分は押さえられる。それでもまだまだ足りないだろうな。
 王宮での発言権もルイーフが上になってしまう。ああ、本当になんという事だ。

「ちちう……」

「お前の処分も決めねばな」

「処分とはどういう事ですか!父上?!」

「確か、高名な魔女の誰かが若い男を欲しがっておったな。その辺りに売りつけようか」

「父上!何を仰るのですか?!は、母上、父上は一体どうなさったのですか!」

 妻はずっと悲しい目をしていたが、貴族の妻らしく、背筋を伸ばしている。

「ニコラ、あなたは貴族の子息でした。貴族として自分の行いにはきちんもと責任を負わねばなりません。」

「それは分かりますが!私は悪い事をしておりません!」

「貴方は、公爵家の御令嬢を複数人で取り囲み、暴言を吐いた。これは悪いことではありませんか?」

「ですが、母上!あの女はリリアナを虐めた!」

「公爵令嬢をあの女呼ばわり。それは礼節に叶っていると思っているのですか?」

「それは……」

 淡々と語る妻は、もう何もかも諦めた顔をしている。私達は子育てを間違った。その代償がこれだ。受け止めなければならない。

「ニコラ、正義の味方ごっこは楽しかったか?」

「?!」

 屋敷までの馬車はそれ以上誰も何も喋らなかった。


 すぐにウィフラート家から書面が届き、学園での詳細、事の成り立ちが余すところなく記録されていた。
 あまりの抜け目のなさに笑うしかなかった。

「ニコラ、間違いないね?」

 書面をみたニコラはブルブルと震えていた。
 自分で学用品を池に投げ入れるリリアナ。自分でバケツの水をかぶるリリアナ。マリナデットに体当たりをしようとして、ケイトニーにぶつかるリリアナ。
 教師と、騎士と、衛兵と口づけを交わすリリアナ。

「う、嘘だ……リリアナは、私だけを愛していると……」

「その頭のおかしい女は有名ですよ、父上。私達のクラスでもその女に怒鳴られたり、難癖をつけられたものがたくさんいますから」

 呆れたようにニコラの弟のセレウスがため息をついた。

「何かあれば アタシの殿下が黙ってないんだからね!殿下に言いつけてやる! ですからね」

「なんだと……リリアナがそんな事言うわけないだろう!」

「アタシには公爵家もついてるんだ!って言うのもあってね?どこの馬鹿公爵かと思ったら、兄上で驚いたものです」

 確かにセレウスからはニコラが馬鹿な女に入れあげていると報告が来ていたな。その時殴ってでも連れ帰れば良かった。

「そのリリアナは学園始まって以来の恥晒しと有名人ですしね?廊下一つまともに歩けないのは、どうかと思います」
 
 常に威張り散らし、人にぶつかり怒鳴りつける。それがセレウスのしるリリアナで、報告書にもしっかり書かれている。

「嘘だ……嘘だ……」

 ニコラは頭を抱えてうずくまるが、自分で犯した事の責任を取らねばならない。

「セレウス、今日からお前がバーベリー家の跡継ぎだ。ニコラは部屋で謹慎後、隣国、ナレス家に婿入りだ」

「隣国の50過ぎの女公爵ですか。山の中の魔女よりマシですかね?兄さん」

「嘘だ……嘘だ……」

 それしか言わなくなったニコラを、執事が連れて行った。セレウスも退出し、執務室には私しかいなくなる。

「本当に……本当に……なんて事を……」

 私にも人の親としての感情があったようだ。全ての輝かしい未来を失った息子を思って涙がこぼれた。


 

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