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マリナデット・ウィフラート

10 薬草摘みにゃん

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「えーと、これでしょうか?」

 膝を大地について、草に手を伸ばす。優しい手付きで丁寧に根元付近からぽきりと折った。

「エレン、合っていますか?」

「違います。マリウス様」

「えっ……またですか……?」

 折ってしまった草をそっと地面に戻した。

「無為に折ってしまってごめんなさいね?」

 それでもマリウスは諦めずに薬草を探す。目の前で小さな花が揺れていた。

「良い天気ね」

 空を見上げると、雨もひとつない快晴だ。風がそよぎ、駆け抜ける。なかなかのピクニック日和とも言えよう。

「薬草摘みかーい、せいが出るねえ」

「うふふ、頑張りますねー」

 名も知らぬ人と挨拶をして、マリウスは手を止める。ああ!素敵な気持ち。王宮や家にいるのとは開放感が違うわ!

「コルセットがないって素敵だわぁ!」

 ドレスを着る全令嬢の苦悩を語った。

「マリウス様ーお昼にしましょう」

「はーい!」

 草の上に敷物を広げてエレナが持ってきたバスケットを開ける。きれいに並んだサンドイッチが入っていた。

「まあ!美味しそう!……手掴みで食べるのよね?」

「そうですよ、大丈夫でしょうか……?」

「で、出来ますわよ……っえい!」

 パクッ!

「美味しいですわ~!」

「よく出来ました!」

 エレンとエレナの拍手に、マリナデットはにっこりした。超絶箱入り娘?のマリナデットには日々全てが新しい。

「たくさん食べて頑張りますわ!わたくしったらまだ1本も薬草を見つけていないんですもの!これでは強い冒険者にはなれませんわ!」

「そうですね、マリウス様」

 ギルドに納品する数は、エレンとエレナが集め終わっているのだが、それはマリナには内緒にしておく。

「美味しいお昼ご飯でした。2人ともありがとうございます。さあ!探しますわー!」

「はい、頑張って!マリウス様」

 マリナは侍女である2人にもきちんとお礼を言う。高位貴族にはあるまじき事なのかも知れないが、エレンもエレナも嬉しいと思う。

「これかしらー?」

「マリウス様ー違いますー」

「おかしいわねぇ?ごめんなさいね?また折ってしまったわ」

 少々草の見分けは出来ないようだった。



「まりにゃん!薬草見分けられず!」

「斥候!まりにゃんが間違っておったかやつを回収せよ!」

「はっ!!」

 旋風のように盗賊・忍者系の名うての者たちが音も影もなく、草原を疾駆する。

「坊!これでござる!」

「よくやった!ボーナスじゃ!」

 じゃらじゃら……。


「旦那ぁ?これになりやすぜぇ?」

「振り込みで良いな?」

「まいどぉ」
 

「はあはあ!まりにゃんの手が触れた草っ!パクッッ!」

「セイ様!それは毒草ですぞーーー!」



「ったくスライムすら完全除去ってどうなってんだ?」

「なんでも世間知らずのお嬢様が来てるんだってよぉ?」

「あれかな?」

「「……かっわいーー!」」



「これかしらー?」

「あ!それでーす!」

マリナは夕暮れギリギリに、やっと薬草の見分けがつくようになった。

「ここが二股になっていたのですね!明日からたくさん集めますわ!」

「そうですね!頑張りましょう」

 にこにことマリナは上機嫌で街へ帰り、

「警備、ご苦労様です。いつもありがとうございます」

「あ!はいっ!」

 衛兵にも挨拶をして、家路に着いた。

「な、なんですか!あのめちゃくちゃ可愛いお嬢さんは!」

「あの方が噂のマリナデットお嬢様が男性の格好をして、市井の様子を学んでいる姿らしいですよ!」

「なんと!民思いの方だ!しかし、あれで男性だと言い張るのか?」

「察して上げるのが私達市民の心意気ですよ!」

 マリナの計画はだいぶ間違って街に浸透していっていた。

 
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