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マリナデット・ウィフラート
8 ギルドにゃん
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その日の朝から冒険者ギルドは物々しい雰囲気に包まれていた。
「殿下……よろしいので?」
「殿下ではない!ジャックと呼べ!」
「侯爵さんよぉ?マジでか?」
「私とお前は親友の冒険者だ!設定を間違えるな!ダレル!」
「伯爵殿!あれはS級です!分がわるいですぞ!」
「しかし、一縷の望みでも捨ててはならん!頼むぞ!皆んな!」
どう見ても高貴さを隠しきれない面々が、どう見ても護衛を伴って、ギルドに溢れていた。
「ど、どういうことなの……」
ギルド職員は目を白黒させ、マスターは達観した顔だ。ギルドの外から中から天井裏からには各家の忍びや影のものが
「あ、すいません、通してください」
「狭い狭い!詰めてー」
と、すし詰め状態。少し離れた場所からは
「あーこちら異常なーし。目標まだ見えずー」
遠見の魔術師たちが目を光らせていた。
「目標!大通りより、こちらに曲がりました!来ます!!」
ざわり……!全員に緊張が走った。
「は、初めて冒険者ギルドというものを訪れますわ、緊張します…!」
「マリ……マリウス様、女性口調になってますよ」
「あっ!えーと、緊張するぜ!なんだわよ?」
「惜しい!」
ギルドの入り口で漫才のようなやり取りを1つしてから、マリナことマリウスとエレンとエレナが扉を潜る。
「?」
中はたくさんの人で溢れ返っていたが、マリウスは受付カウンターまで真っ直ぐ来ることが出来た。
「あっ!あの!新規登録したいのでしゅが!」
噛んだ!
ざわり!一瞬空気が揺れたが、すぐに優しい空気が流れた。
「こちらに記入をお願いいたします、可愛いお嬢さん」
「あらっ!私は男ですよ」
女性のギルド職員はえっ!と驚いた。
「まあ!随分おキレイな方でしたので、つい女性かと!失礼しました」
「ふふ、大丈夫です、ありがとう」
マリウスはにっこり笑うと周囲に大輪の白百合が咲き誇るようであった。
けぶるような、咲き誇る花の香りを嗅いだような気がして職員はうっとりしたが、
「幻覚……?幻臭……?」
謎の現象に首を傾げた。
「これでよろしいでしょうか?」
美しい文字が並ぶ登録用紙を受け取って、確認する。
「はい、問題ないですね。ではマリウス様、こちらが冒険者カードになります。最初なのでFランクの依頼……そうですね、薬草摘みから始められたら良いかと思われますよ」
「まあ!ご親切にありがとうございます。やってみますね!」
にっこり。マリウスが笑うと本当に花が咲くようだ。職員も嬉しくなって笑顔を返す。
「さて……あったわ。薬草摘み、これね。最初はここから!頑張るのよ、マリナ!」
「どうしたんだい?こんな所で?」
マリナ……マリウスが振り返るとそこには見知った人物が立っていた。
「え?お兄様?ヴィクトルお兄様?」
「そうだよ、マリナ。エレンにエレナも。冒険者になったの?勇敢だね?」
にっこりと笑うヴィクトルは優しく話す。
「あっ!ヴィクトル様……」
「あのですね、ヴィクトル様、マリナ……いえ、マリウスさん、と….」
「ふむ?」
困ったように眉毛を寄せるマリナを見て、ヴィクトルは何かを察したらしい。
「マリウス、なのだね?」
「え、あ!はい!」
ぱっと顔を上げるマリナを優しい顔でみている。
まりにゃん!超可愛い!!念写魔法!!お宝写真ゲットぉおお!などと心の中で悶絶していることなど、ありんこ一匹程も漏れてこない。
「マリウスはどの依頼を?なんなら一緒に……」
「お兄様は何ランクなのですか??」
マリウスの声にヴィクトルの質問は消されたが、キラキラした笑顔で見つめ返されては、お宝写真が増えるだけだった。
「わ、私は一応Sランクで……」
「お兄様……!凄いですわ!」
マリナにそう言ってもらいたくて、休日のたびに頑張ったなどとは口が裂けても言わない。
「だから、マリウス。一緒に郊外にデート……」
「なら、このSランク依頼の赤竜討伐とかも出来ちゃうのでしょうか!!?」
「マッマリウス?!」
期待と尊敬の眼差しで見つめられる。ああ、ああああーーーっ!
「も、もちろんだと、も……」
「流石お兄様ですわ!」
ボードに貼ってある依頼書をばりっと剥がした。
「では、私は「マリウスに!」頼まれた依頼をこなしてくる。マリウスは薬草つみか?意外と危険が!」
ヴィクトルは言葉を切って辺りをギロリ!と見渡す。威圧による牽制だが、効果があったかどうかは謎だ。
この場にいる者は、色々な意味で百戦錬磨の猛者どもだ。
「危険が!ある!のでっ!気をつけるように!エレン!エレナ!くれぐれも!くれぐれも頼むよっ!!」
「はい、ヴィクトル様」「頑張ります、ヴィクトル様」
エレンとエレナの目は生暖かい。なんであんたこんな所にいるんだ、そう言っている。早くどっか行け、とも言っている。
「うっ!赤竜など……赤竜など……!一瞬で畳んできてやるぅ!!!」
「お兄様、かっこいいですわー!」
マリウスに応援されてヴィクトルは飛び出して行った。
「お兄様も張り切っていらっしゃいます。私達も頑張りましょう!」
「「はい、マリウス様」」
とことこと、3人はギルドから出て行く。
「はぁあ!まりにゃん超可愛い!」
「ヴィクトルめ!ざまぁ!」
「追跡班!応答せよ!」
「どうだ?まりにゃんの筆跡は確認できたか?偽造は可能か?!足りぬだと!根性いれろ!」
「写真はどうだ?あの花が咲いたやつ撮れたか !?」
「殿下!追いますよ!」
「まりにゃぁん……」
「腑抜けてやがるッ早すぎたか!」
「その日、我々は思い出した。まりにゃんが郊外へ行ってしまった事を!」
「追え!」
「な、なんですか……」
冒険者ギルドは今日から1か月は非常事態だ。
「殿下……よろしいので?」
「殿下ではない!ジャックと呼べ!」
「侯爵さんよぉ?マジでか?」
「私とお前は親友の冒険者だ!設定を間違えるな!ダレル!」
「伯爵殿!あれはS級です!分がわるいですぞ!」
「しかし、一縷の望みでも捨ててはならん!頼むぞ!皆んな!」
どう見ても高貴さを隠しきれない面々が、どう見ても護衛を伴って、ギルドに溢れていた。
「ど、どういうことなの……」
ギルド職員は目を白黒させ、マスターは達観した顔だ。ギルドの外から中から天井裏からには各家の忍びや影のものが
「あ、すいません、通してください」
「狭い狭い!詰めてー」
と、すし詰め状態。少し離れた場所からは
「あーこちら異常なーし。目標まだ見えずー」
遠見の魔術師たちが目を光らせていた。
「目標!大通りより、こちらに曲がりました!来ます!!」
ざわり……!全員に緊張が走った。
「は、初めて冒険者ギルドというものを訪れますわ、緊張します…!」
「マリ……マリウス様、女性口調になってますよ」
「あっ!えーと、緊張するぜ!なんだわよ?」
「惜しい!」
ギルドの入り口で漫才のようなやり取りを1つしてから、マリナことマリウスとエレンとエレナが扉を潜る。
「?」
中はたくさんの人で溢れ返っていたが、マリウスは受付カウンターまで真っ直ぐ来ることが出来た。
「あっ!あの!新規登録したいのでしゅが!」
噛んだ!
ざわり!一瞬空気が揺れたが、すぐに優しい空気が流れた。
「こちらに記入をお願いいたします、可愛いお嬢さん」
「あらっ!私は男ですよ」
女性のギルド職員はえっ!と驚いた。
「まあ!随分おキレイな方でしたので、つい女性かと!失礼しました」
「ふふ、大丈夫です、ありがとう」
マリウスはにっこり笑うと周囲に大輪の白百合が咲き誇るようであった。
けぶるような、咲き誇る花の香りを嗅いだような気がして職員はうっとりしたが、
「幻覚……?幻臭……?」
謎の現象に首を傾げた。
「これでよろしいでしょうか?」
美しい文字が並ぶ登録用紙を受け取って、確認する。
「はい、問題ないですね。ではマリウス様、こちらが冒険者カードになります。最初なのでFランクの依頼……そうですね、薬草摘みから始められたら良いかと思われますよ」
「まあ!ご親切にありがとうございます。やってみますね!」
にっこり。マリウスが笑うと本当に花が咲くようだ。職員も嬉しくなって笑顔を返す。
「さて……あったわ。薬草摘み、これね。最初はここから!頑張るのよ、マリナ!」
「どうしたんだい?こんな所で?」
マリナ……マリウスが振り返るとそこには見知った人物が立っていた。
「え?お兄様?ヴィクトルお兄様?」
「そうだよ、マリナ。エレンにエレナも。冒険者になったの?勇敢だね?」
にっこりと笑うヴィクトルは優しく話す。
「あっ!ヴィクトル様……」
「あのですね、ヴィクトル様、マリナ……いえ、マリウスさん、と….」
「ふむ?」
困ったように眉毛を寄せるマリナを見て、ヴィクトルは何かを察したらしい。
「マリウス、なのだね?」
「え、あ!はい!」
ぱっと顔を上げるマリナを優しい顔でみている。
まりにゃん!超可愛い!!念写魔法!!お宝写真ゲットぉおお!などと心の中で悶絶していることなど、ありんこ一匹程も漏れてこない。
「マリウスはどの依頼を?なんなら一緒に……」
「お兄様は何ランクなのですか??」
マリウスの声にヴィクトルの質問は消されたが、キラキラした笑顔で見つめ返されては、お宝写真が増えるだけだった。
「わ、私は一応Sランクで……」
「お兄様……!凄いですわ!」
マリナにそう言ってもらいたくて、休日のたびに頑張ったなどとは口が裂けても言わない。
「だから、マリウス。一緒に郊外にデート……」
「なら、このSランク依頼の赤竜討伐とかも出来ちゃうのでしょうか!!?」
「マッマリウス?!」
期待と尊敬の眼差しで見つめられる。ああ、ああああーーーっ!
「も、もちろんだと、も……」
「流石お兄様ですわ!」
ボードに貼ってある依頼書をばりっと剥がした。
「では、私は「マリウスに!」頼まれた依頼をこなしてくる。マリウスは薬草つみか?意外と危険が!」
ヴィクトルは言葉を切って辺りをギロリ!と見渡す。威圧による牽制だが、効果があったかどうかは謎だ。
この場にいる者は、色々な意味で百戦錬磨の猛者どもだ。
「危険が!ある!のでっ!気をつけるように!エレン!エレナ!くれぐれも!くれぐれも頼むよっ!!」
「はい、ヴィクトル様」「頑張ります、ヴィクトル様」
エレンとエレナの目は生暖かい。なんであんたこんな所にいるんだ、そう言っている。早くどっか行け、とも言っている。
「うっ!赤竜など……赤竜など……!一瞬で畳んできてやるぅ!!!」
「お兄様、かっこいいですわー!」
マリウスに応援されてヴィクトルは飛び出して行った。
「お兄様も張り切っていらっしゃいます。私達も頑張りましょう!」
「「はい、マリウス様」」
とことこと、3人はギルドから出て行く。
「はぁあ!まりにゃん超可愛い!」
「ヴィクトルめ!ざまぁ!」
「追跡班!応答せよ!」
「どうだ?まりにゃんの筆跡は確認できたか?偽造は可能か?!足りぬだと!根性いれろ!」
「写真はどうだ?あの花が咲いたやつ撮れたか !?」
「殿下!追いますよ!」
「まりにゃぁん……」
「腑抜けてやがるッ早すぎたか!」
「その日、我々は思い出した。まりにゃんが郊外へ行ってしまった事を!」
「追え!」
「な、なんですか……」
冒険者ギルドは今日から1か月は非常事態だ。
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