5 / 60
マリナデット・ウィフラート
5 パパにゃん
しおりを挟む
はぁ……
歳は40を超え、渋みを含んで来たがまだまだ衰えぬ美貌のルイーフ・ウィフラート公爵は溜息をついた。頭が痛いのはウィフラート家の長女、マリナデットの事だ。なんと第二王子から婚約破棄をされて戻ってきたのだ。
しかも完全なる冤罪でだ。
「はぁ……」
もう一度、重苦しく溜息をつき、書斎の壁の自画像の前に立つ。若かりし頃の自分の絵がある。
ルイーフより、今ではマリナデットの方が似ている。自画像を少しずらすとレバーが現れ、下に下げると
ガコ……音がして書斎の一部から下へ降りる石階段が現れた。ルイーフは手慣れた手付きてランタンに火を入れると、手に持ち、現れた階段を下る。
こつ、こつ、こつ。
ルイーフの足音だけがこだまして、一つの扉に行き当たる。徐にポケットから小さな鍵を取り出すとガチャリ、扉をあけた。
「あーーーーーー!まりにゃんちょううう可愛いいいいいあいいいーー!!」
がばぁ!部屋の中に置いてあった等身大ともいえる可愛い女の子のぬいぐるみ人形に抱きついた。
「まりにゃんが!とうとう!婚約破棄だよ!まりにゃん!超ー頑張った!!パパにゃんも超ー嬉しい!!!」
女の子の人形にぐりぐりぐりと頬擦りする。女の子のぬいぐるみは髪の毛が所々に空色を溶かした銀の髪に、薄紫のぱっちりした瞳。気持ち悪く頬擦りする40オヤジと同じ色味であった。
「まりにゃん!まりにゃん!私の娘!いや?私の息子か!!あーもー日に日に私そっくりになってパパにゃんはいつも不安でしょうがないよお!!!まりにゃーーん!」
ぐりぐりぐりぐり!パパにゃん\(^o^)/の愛情表現は独特だった。
「今まで悪い虫が付かないように頑張ったのに、あのクソ王子め!公衆の面前でまりにゃんを罵倒するとは!生きている事を後悔させてやるにゃん……!」
ギリィ、悔しさのあまり、噛み締めた奥歯が不穏な音を立てた。
「この婚約だってあの無能王が私に振られたから、私そっくりのまりにゃんを手に入れるために無理やり仕組んだ婚約……!当然、然るべき時に破棄する予定であったが、あのような場で……あのような場で……!」
ばぎゃっ!奥歯の1本が砕け散った。
「鉱山など生温いっ!あの尻軽クソ女と一緒に馬小屋で毎日馬の糞集めをさせてやるっ!!それからそれから……っあーー!考えただけでもイライラするーーー!」
きえええええ!雪花の美貌はどこへトンズラしたのか、よく手入れされた髪を掻き毟って、ダンダンと床を殴った!
「まりにゃん……辛かったよね?抱きしめてやれないパパにゃんを許しておくれ。パパにゃんはまりにゃんの事が可愛くて可愛くてしょうがないけれど、パパにゃんがまりにゃんを可愛がるとまりにゃんの身に危険が及ぶんだ……ああ!辛い!」
ルイーフの脳裏には、暗殺の憂き目にあった小さい頃のマリナデットの姿をありありと思い出していた。
「毒の紅茶を飲まされて、3日目を覚さなかった。階段から押されて腕に怪我をして包帯が1ヶ月取れなかった……庭で遊んでいて毒蛇に追いかけられた……犬が入ってきて……まりにゃんに懐いてそれから飼ったっけ……」
あの大型犬は良くマリナデットを守ってくれたっけ……。垣根に隠れてマリナをみていた私の尻にも果敢に噛み付いてきた良き兵士であったわ。
「確かこの辺に……あったあったまりにゃん7歳、ベベルと一緒。ふふ、可愛いなぁ」
こっそり画家を呼びつけて描かせた絵はなかなかの仕上がりであったが、現実のマリナデットの方が1000倍は可愛いとルイーフは思っている。
壁を見回すと、マリナデットの絵でいっぱいだった。どの方角をみてもマリナマリナマリナマリナ……。
完全にマリナ部屋だ。
「まりにゃん。このパパにゃんが次は無害そうな婚約者を選んで上げるからね!2回も婚約破棄されればまりにゃんがずっとうちに居ても大丈夫だよ!そうしてパパにゃんはさっさと引退するから、一緒に領地の屋敷に帰ってずっといっしょに暮らそう。それがいい、それが一番だよ、私のまりにゃん!」
ぎゅっと等身大まりにゃん人形を抱きしめる。まりにゃん人形が苦悶の表情に歪み切っている。
「何を勝手なことを仰っているのです?父上。まりにゃんは私の妻になるのですよ?」
パパにゃんの憩いの秘密部屋に招かれざる侵入者が現れた。
歳は40を超え、渋みを含んで来たがまだまだ衰えぬ美貌のルイーフ・ウィフラート公爵は溜息をついた。頭が痛いのはウィフラート家の長女、マリナデットの事だ。なんと第二王子から婚約破棄をされて戻ってきたのだ。
しかも完全なる冤罪でだ。
「はぁ……」
もう一度、重苦しく溜息をつき、書斎の壁の自画像の前に立つ。若かりし頃の自分の絵がある。
ルイーフより、今ではマリナデットの方が似ている。自画像を少しずらすとレバーが現れ、下に下げると
ガコ……音がして書斎の一部から下へ降りる石階段が現れた。ルイーフは手慣れた手付きてランタンに火を入れると、手に持ち、現れた階段を下る。
こつ、こつ、こつ。
ルイーフの足音だけがこだまして、一つの扉に行き当たる。徐にポケットから小さな鍵を取り出すとガチャリ、扉をあけた。
「あーーーーーー!まりにゃんちょううう可愛いいいいいあいいいーー!!」
がばぁ!部屋の中に置いてあった等身大ともいえる可愛い女の子のぬいぐるみ人形に抱きついた。
「まりにゃんが!とうとう!婚約破棄だよ!まりにゃん!超ー頑張った!!パパにゃんも超ー嬉しい!!!」
女の子の人形にぐりぐりぐりと頬擦りする。女の子のぬいぐるみは髪の毛が所々に空色を溶かした銀の髪に、薄紫のぱっちりした瞳。気持ち悪く頬擦りする40オヤジと同じ色味であった。
「まりにゃん!まりにゃん!私の娘!いや?私の息子か!!あーもー日に日に私そっくりになってパパにゃんはいつも不安でしょうがないよお!!!まりにゃーーん!」
ぐりぐりぐりぐり!パパにゃん\(^o^)/の愛情表現は独特だった。
「今まで悪い虫が付かないように頑張ったのに、あのクソ王子め!公衆の面前でまりにゃんを罵倒するとは!生きている事を後悔させてやるにゃん……!」
ギリィ、悔しさのあまり、噛み締めた奥歯が不穏な音を立てた。
「この婚約だってあの無能王が私に振られたから、私そっくりのまりにゃんを手に入れるために無理やり仕組んだ婚約……!当然、然るべき時に破棄する予定であったが、あのような場で……あのような場で……!」
ばぎゃっ!奥歯の1本が砕け散った。
「鉱山など生温いっ!あの尻軽クソ女と一緒に馬小屋で毎日馬の糞集めをさせてやるっ!!それからそれから……っあーー!考えただけでもイライラするーーー!」
きえええええ!雪花の美貌はどこへトンズラしたのか、よく手入れされた髪を掻き毟って、ダンダンと床を殴った!
「まりにゃん……辛かったよね?抱きしめてやれないパパにゃんを許しておくれ。パパにゃんはまりにゃんの事が可愛くて可愛くてしょうがないけれど、パパにゃんがまりにゃんを可愛がるとまりにゃんの身に危険が及ぶんだ……ああ!辛い!」
ルイーフの脳裏には、暗殺の憂き目にあった小さい頃のマリナデットの姿をありありと思い出していた。
「毒の紅茶を飲まされて、3日目を覚さなかった。階段から押されて腕に怪我をして包帯が1ヶ月取れなかった……庭で遊んでいて毒蛇に追いかけられた……犬が入ってきて……まりにゃんに懐いてそれから飼ったっけ……」
あの大型犬は良くマリナデットを守ってくれたっけ……。垣根に隠れてマリナをみていた私の尻にも果敢に噛み付いてきた良き兵士であったわ。
「確かこの辺に……あったあったまりにゃん7歳、ベベルと一緒。ふふ、可愛いなぁ」
こっそり画家を呼びつけて描かせた絵はなかなかの仕上がりであったが、現実のマリナデットの方が1000倍は可愛いとルイーフは思っている。
壁を見回すと、マリナデットの絵でいっぱいだった。どの方角をみてもマリナマリナマリナマリナ……。
完全にマリナ部屋だ。
「まりにゃん。このパパにゃんが次は無害そうな婚約者を選んで上げるからね!2回も婚約破棄されればまりにゃんがずっとうちに居ても大丈夫だよ!そうしてパパにゃんはさっさと引退するから、一緒に領地の屋敷に帰ってずっといっしょに暮らそう。それがいい、それが一番だよ、私のまりにゃん!」
ぎゅっと等身大まりにゃん人形を抱きしめる。まりにゃん人形が苦悶の表情に歪み切っている。
「何を勝手なことを仰っているのです?父上。まりにゃんは私の妻になるのですよ?」
パパにゃんの憩いの秘密部屋に招かれざる侵入者が現れた。
127
お気に入りに追加
1,031
あなたにおすすめの小説
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
牢獄の王族
夜瑠
BL
革命軍の隊長×囚われの王子
歪んだ人生を歩んできた2人の人生が交差する。王家を憎む青年。王家ではあるものの奴隷のような扱いを受けていた少年。
これは同情か、愛情か、それとも憎悪なのか。
*完結しました!今まで読んでいただきありがとうございます。番外編など思いついたら上げていきます。
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる