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おまけ小話

その後のアネモネ達

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「ディルフィル・ウィンフィールドでございます! 国王へいか、王妃でんか」
「まあ、まあまあ!!」

 私とラナン様の結婚は少しだけ婚約期間を設けたけれど、すぐに行われた。流石に結婚式の前に非公式に国王陛下と王妃殿下にお目にかかる機会を設けてもらったのだ。

「これは、流石に……ラナンの小さな頃に、いやはや」

 事前に何度か練習した成果もあり、ディルフィルは元気に挨拶ができた。そして前の人生でも数度しかお会いしたことがない国王陛下ご夫妻に挨拶をする機会を。

「アネモネ嬢、そう固くならずに。すべてラナンから聞いておる」
「は、はい」

 しかし、固くならずにいることは難しい。私の肩書きはまだ阿婆擦れだ。どこの誰とも知らぬ男に体を許し、子供まで作ったとんでもない女。
 そんな人間がこの国で一番高貴な人達の前に出るなんておこがましい!

「だが最初に一度だけいうておくぞ? いくらなんでも危険なことをしてはいけない。たまたまラナンだったから良かったものの、どこぞのならず者であったならウィンフィールド公爵は悔やんでも悔やみきれなかったのだからな」
「そ……それは、反省しております」
「うむ、ならば良し。にしても本当に良く似ておるのう……どうなのじゃ?ディルフィルは木登りも得意か?」
「はいっ! お父様に教えていただいてお庭の木なら全部登れます!」
「あらあら! 気をつけるのよ、ディルフィル。ラナンなんてあそこの大木から落ちて今でも太ももに傷跡が残ってるのよ」
「お父様でも落ちるのですか?」
「落ちるわよぉ! もうあの時は心臓が止まるかと思ったわぁ。あとお庭の池に飛び込むし、落とし穴は掘るし……」
「えー!」

 陛下に叱られたのはこれが最初で最後で、この後は何もいわれなかった。後はラナン様の不名誉な昔話をたくさん聞かせていただいた……お二人ともディルフィルのことをとても可愛がってくれて、我が家のお父様と同レベル。孫は可愛いっていうけれど、そうなのかもしれないとつくづく思う。

「ディルフィル、少しお二人とおやつを食べていてくれないか? アネモネ、ついてきて」
「分かりました」
「お父様、お母様行ってらっしゃいませー」

 少し仕事のことで、と前置きをされてから私はラナン様について行く。

「このままいると父上と母上に私の過去の悪行を全部バラされそうだ」
「随分、やんちゃをされたようですね?」
「ディルフィルを見れば然り、だろう?」
「あら……では酒場で女性に声を掛けられたら注意しなくてはですね」

 そういうと、ラナン様は少しだけ驚いてから目を細める。

「ふふ、そうだね。アネモネのそういう強さ、私は好きだよ」
「?!」

 こ、この方突然何を言い出すかしら?!いやだわ、何だか照れてしまう。

「兄上!」
「スレイン、良いところに。紹介しておきたくて、こちらが」
「知ってますよ! 兄上の大好きなアネモネ嬢でしょっ!いいから、早く執務室へ。兄上の仕事が多岐に及び過ぎていてもう大変なことになっているんですか!アネモネ嬢も来て下さい!」
「え?」
「アネモネ、これが、私の弟のスレインで」
「いいから、早くー!」

 私とラナン様はラナン様と同じ髪質の方……スレイン王太子殿下に背中を押されて王太子の執務室へ押し込まれてしまった。

「まったく、兄上は王太子を辞退する必要なんてなかったんですよ、それなのに」
「ちょうどよいと思って」
「あーっもう!」

 執務室は確かにたくさんの文官が忙しなく動いていたが、仕事が滞っている程ではなかった。前の人生に比べたら、だけれど。

「仕事の引き継ぎはちゃんとしたろう?」
「でも細かいところはやっぱり分かりませんし!」

 そういいながら二人で書類をみている。ラナン様は療養中も仕事をしていたらしいから、かなり頼られていたみたいだ。

「アネモネ、この計画をみてくれないか?」
「ええと……あら? 少し予算が多くないですか?」
「うん。ファシル領の森林伐採にしてはちょっとな……スレイン、これは精査すべきだ」

 差し戻された書類をスレイン王太子殿下は見ておらず私を見ている……ど、どうして?

「ア、アネモネ嬢は……分かるのですか?」
「え? 近隣の領の伐採費用に比べたら桁が一つ違いますし、うちで予算を組む時もこんなに高くなりませんし」
「アネモネ嬢は仕事もされるのですか?!」
「え、ええ……」

 前の人生ではどれだけ頑張っても好転しなかったけれど、今はお父様の仕事を手伝ってもなんでも上手くいくから楽しいし……。
 スレイン王太子殿下は私の言葉を聞いて大きくため息をつかれた。

「そりゃただ気位が高いだけの妃なんて色褪せて見えるよなぁ」
「ど、どうかなさいましたか? スレイン様」
「なんでもないよ、アネモネ嬢! できればこれからも兄上と一緒に王宮の仕事を手伝ってくれないかな? もしかしてダランナ語も話せる?」

 ダランナは前の人生でも取引があった国だから、大丈夫。

「ええ、特に問題なく」
「あーっ! もうっ! だから兄上は絶対にアネモネ嬢を捕まえようと必死だったんですね!」
「何のことかな?」
「またそうやって涼しい顔をして! 聞いてください、アネモネ嬢っ兄上は……」
「スレイン?」
「ひっ! 何でもございませんっ」

 私が分かったことはラナン様とスレイン殿下はとても仲の良いご兄弟であることと、ウィンフィールド家は安泰だろうということだ。
 それと王宮の仕事の手伝いは他国についても学べるしとても楽しい物だった。


「あれ?あれれ……」
「ご懐妊でございますね」
「あれぇ……??」

 ラナン様と結婚して3年後、私は新しい命を授かった。

「どうやら、ここ三年の規則正しく、きちんとした生活のお陰で回復したらしい」
「まあ!」

 死に絶えたと思ってたのに、ラナン様は健康な体に戻っていたということだった。

「わあ! 私に兄弟ができるんですね、嬉しいなあ」

 6歳になったディルフィルも凄く喜んでくれた。今、ディルフィルには毎日たくさんの釣書が届いていて、婚約者選びに頭を悩ませている。

「孫が増えるーっ‼︎」

 お父様も益々元気で毎日飛び跳ねんばかり。

「今度は内緒にしなくていいのですねっ」
「ふふ、そうね。ルシー」

 メイドのルシーも涙を拭きながら祝福してくれる。

 前の人生と決別できて本当に良かった!

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