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12 お父様の不審な死について

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「お、お父様……? お父様!?いやああああああっ」

 過去、冷たい雨の降る中、お父様は変わり果てた姿で帰ってきた。

「野党の仕業と思われます……」
「どうしてお父様が!?我が家の護衛は……」
「ウィンフィールド公爵と共に2名倒れておりましたが、残りは見当たりませんでした」
「もっといたはずなのに、どうして……」

 私が結婚して少し落ち着いた頃、お父様が死んだ……そこからナルクはタガが外れたように勝手をし始めた。夜遅くに出歩き始め、私との夕食に徐々に遅れるようになり、ついに来なくなった。朝も顔を合わせることがなくなっていき、屋敷に帰る時はお金を取りに来るときだけ……。

「ナルク、どこへ行っているの?」
「うるさいな! 私にだって付き合いはあるんだ、君が口を出す事じゃない!」
「そ、そう……よね」

 私はそこまでされてもナルクを信じていた。お父様が選んだ人ということもあったが、盲目的にナルクを信じていた……それはダリアの口添えもあったからだ。

「ナルクはいい人だし頭も良いわ。彼に任せておけば大丈夫ね?」
「え、ええ……そうね、そうよね」
「そうよ、絶対よ!」

 ダリアの事も信じていた。何故ならナルクがこういったからだ。

「ダリアはいい子だ、信用できる。アネモネの友達に相応しい」
「そう……ね」

 どうしてこの矛盾に気づけなかったか、その事に今は驚いている。二人ともグルだったということを疑った事もなかった過去の私……そして、ダリアがトッドリア侯爵家の末に名を連ねるマリエル子爵家の娘だったことに。


 連日、ナルクとナルクの父親のデニス侯爵がこの婚約話を元に戻そうと押しかけてきて、門前払いされている。1.2度お父様は会ったらしいけれど、話にならなかったようだ。

「若いうちの過ち」「アネモネ嬢は許していた」「これ以降は絶対にない」「全部別れる」同じ言葉の繰り返し繰り返し。お父様は亡くなったお母様のことをそれはそれは愛していた。二人は高位貴族にも関わらず、小さい頃からの婚約者だったが、お互いに心を通じ合い好き合っていた。

「お父様がお母様に一目惚れしたのよね?」
「そうよ、アネモネ。お母様も一途に見つめてくださるお父様のことを好きになっちゃったの。うふふ」

 真心を持って尽くせばいつか心が通じ合う、そんなお話を体現した二人だった。だから余計にお父様はナルクのことが許せなかった。もちろん私も絶対に許さない。

「我が娘が浮気を許すわけがない! とにかく婚約は解消、貸していた金はすべて返してもらう!!」
「し、しかし……この年で婚約者がいないのは些か不都合ではありますまいか? このままではどこの馬の骨ともわからん男しか寄ってこないのでは」
「浮気男より馬の骨の方がよっぽど増しだ!! 消えてくれ!」
「ま、また来ます」

 こんな調子で婚約解消の書類に印を押さないデニス侯爵家。本当に時間の無駄だわ。

 私にもう侯爵家の婚約者は要らない……思い返せば、我がウィンフィールド家は大きくなり過ぎた。お父様の政策が的中し、お金がどんどん入ってくる。そして落ちぶれたとはいえ、侯爵の位があるデニス家との縁を結べばもっと我が家の発言権が増す……それを危惧した貴族がいる、間違いなくトッドリア侯爵家だ。
 トッドリア侯爵家は現王の側妃、第二王子の母であるレレンシィ様のご実家。それゆえに貴族界では最有力に近い発言権を持つ家。正妃であり、王太子の母君であるセリーヌ様は伯爵家の出で家の発言権は低い……。そのトッドリア家に対抗できる家が私のウィンフィールド公爵家なのだが……このままでは我が家が頭一つ抜きん出てしまうのである。

「過去のあの事故は……故意に起こされた物の可能性が高い……」

 このまま行けばまたお父様が消されてしまう。それは避けたかった。
 

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