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7 私ったら意外と強かったのね

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「ま、待て!アネモネ」

 そんな私を必死で呼び止めるナルク。そうね、いつもなら私がナルクの意向を無視するなんてことはなかったものね。盲目的にあなたを信じるのはもうおしまいにしたのよ?

「何かしら……手短にお願いするわ」

 気怠げで少し演技がかりすぎていたかな、と思ったけれど、ナルクにもダリアにも気づかれなかったようだった。

「だから、ダリアに冷たくするなと言っているんだ」
「冷たくなんてしていません」
「馬車に乗せなかったというじゃないか」
「普通乗せませんよ、兄弟や婚約者でない限り、それぞれの家の馬車を使うのは当たり前でしょう? 」
「親友ではなかったのか!? 」

 強い口調で言われても、もう私は怯まない。

「ですから、たとえ友人だとしても乗せませんと言っております」
「うっ……で、では買い物へ行く約束をしていたというではないか、何故その約束を反故にするんだ」

 約束をしていたかしら……していたかもしれないわね。どんな下らない約束でやぶるのはやっぱり良くないよね?

「ではその買い物は出かける事に致します、それでよろしいですか? 貴族街そばの商業地区で宜しくて? 」
「ダリア、それでいいんだな?」
「ええ、それならいいわ……」

 ナルクに抱き着いて泣いていたはずのダリアはパッと顔を上げる。まあ、見事なウソ泣き。どうしてこんな私なんかより数倍嘘くさい演技に騙されていたのか過去の私は本当によくわからないわ。

「それでは失礼しますわ。気分やが優れませんの」
「あ、ああ。突然来て悪かったな」
「次回からは必ず事前にご連絡くださいませ。いくらまだ婚約者様とはいえ、連絡もなしに来られては困りますから」
「そうだな。済まなかった」

 ナルクは笑顔で帰って行った。本当に非常識な男だ……過去の私はこのナルクを信じ、すべて任せていれば上手く行くと疑っていないかった。どうしてそんな風に思ったか今では不思議でしょうがない。

「私も愚かだった……」

 ナルクを信じていれば幸せになれると思っていた。ナルクも私の事を愛してくれていると思っていた。でもナルクが愛していたのは私じゃなくて私の家柄とお金だけだった……。

 悔しいし悲しい気持ちももちろんある。でも一番は二度とあんな事を繰り返さないと言う強い決意。

「私ったら意外と強かったのかしら?」

 私に背を向けた途端に腕を組んで陽気に歩き出すダリアも、その横で楽しげに歩調を合わせこちらを振り返りもしないナルクも……徹底的に潰してやりたい。


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