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王都に

28 女神神殿では

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 今日の半魔神様の神殿がすごいらしい!

 女神神殿の司祭達が小耳にはさんできたことを、王都の女神神殿の聖女たちは聞き逃さなかった。

「神気にあふれていて、まるで神が降臨したかのようだ」

「すがすがしい気持ちになって、何故か胸焼けが治った」

「一昨日から止まらなかった腹痛が治った」

「便秘が解消した」

 までは良かった。

「半魔神様の聖女が現れて、人々に施しをしている」

「食事の提供があったが、終わってしまったようだ」

「子供たちにクッキーを配っている」「めちゃ美味い」

「大人にはもらえない……」


 とにかくものすごく人を集めているというのだ。

「慈愛の神といえば女神様!中途半端な半魔神様などに後れを取ってはなりませぬ!」

「最近のくだらない論調である、女神様の元となられた聖女は回復スキルなど大して使えず、回復は半魔の少年が行っていた、などというものはただの学者の机上の空論ということを証明せねばなりません!」

 対抗した。……のかどうかはわからぬが?女神神殿での施しが始まった。

「さあ、民よ!女神様の慈愛を受け取りなさい!」

「飢えるものよ、女神様からの施しであるぞ!!!」

 女神神殿は立地が上流階級が住む高台が近い場所にある。対して半魔神神殿は貧民街に近い平民が多く暮らす場所に立っている。もともとは女神神殿も平民が多い地域にあったのだが、女神様にふさわしくないと10年ほど前に引っ越してきていた。

「……」

 もちろん 女神神殿へのお参りをする人々がいないわけではない。しかしいくら神殿前で食べ物を配っても誰も欲しがらない。なぜならこの神殿の近くに住む人々は飢えてはいないからだ。
 
「……なんか偉そうよね」

 聞こえないようにぽつりぽつりとつぶやく声。

「不味いんだよな、女神神殿の食い物って」

「あのパン。硬くて硬くて。ウチの犬でも食べないわ」



「そういえば下町の半魔神神殿のそばからいい匂いがしてきたんですって」

「お使いに行った下男がにこにことクッキーをもらってきたって喜んでましたわ」

「半魔神様のところのお料理はおいしいですからね」

「あらやだ!奥様、下町のお料理をお食べに?」

「うふふ、冒険をちょっとしてみたの。半魔神様の神殿なら安全でしょう?」

「あの……お腹の話本当ですの?」

「お恥ずかしながら本当でしたわよ……ホホホ。今から冒険しても楽しいかもしれませんわよ」

「あら!やだわ」

「半魔神パンってなんだろうね!」「子供にはサービスしてくれるらしいから行ってみようぜ」

 ささやきあうご婦人方、足を延ばす子供。楽しかったと喜ぶ使用人を微笑んで見つめる家人。

「人がたくさんいるらしいから、散歩がてら歩いてみようかのう」

「あらあら、おじいさん。ご一緒しますわ」

 仲良く腕を組んで歩く品のいい老夫婦。


 すべて女神神殿の前を素通りしてゆく。

「あ、あれ?おかしいぞ???」

 女神神殿の施しは、大失敗に終わった。

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