【完結】半魔神の聖女は今日も反省する

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
24 / 61
半魔神の残念聖女

24 スープの塩

しおりを挟む
「あ、あの、あの、よろしくお願いします……」

「こちらこそよろしくお願いします!半魔神の聖女さま!」

 ううう……なぜ私が公爵様のお屋敷の台所にいるのでしょうか?

「皆さんの職場を乱して本当にすいません」

 料理人は気難しいひとが多いのに、私のような素人が来て良い所じゃないのに!ケビン君がどうしても!って言うから……。

「あの夜に食べた肉団子のスープが忘れられないんです。お塩味なのに、凄く美味しかった!」

 そりゃ外で食べたし、あの時はお腹がすいていたでしょ!そのせいで美味しかったの!

「お願いします!アリアお姉さん」

 そう言われたら断れなかった……!もう!そして台所に来た訳なんです。

「えーと……くず肉ってあります?あとお野菜、適当なものと、キノコを……」

 はっきり言って、どこにでもある食材。くず肉はもう一度包丁で叩いて柔らかく。だってケビン君が食べたいって言うんだもの。子供の口当たりが良いように。お湯に入れて丁寧に灰汁をとる。

「美味しくなーれ、美味しくなーれ」

 くるくるっとかき混ぜていつものお祈り?野菜も食べやすく、でも煮溶けないくらいの大きさに。
 キノコもとんとん。美味しくなーれ。

「お塩だけは私の手持ちを使いますね」

 お塩で味を整えておしまい。え?簡単?そりゃそうですよ!野外料理ですもん!

「これだけなんですが……」

 あっという間に出来上がる。コツなんて何もない、味も至って簡単。

「少し、味見をしても良いですか?」

「どうぞ」

 興味深そうな顔見ていたこのお屋敷の料理人がお皿を持っていたので、盛り付けます。

「お口に合うか分かりませんが」

 どう見ても貴族様の食べ物じゃないよね?それでも料理人はそっと口をつけてくれた。

「……美味い」

「ありがとうございます!」

 お世辞でも褒められると嬉しいものです!


 器によそって持っていくと、ケビン君がワクワクした顔で覗き込んできた。

「わー!これです!いただきます」

「はい、どうぞ」

 思わず、返事をしてしまった。

「僕、本当は人参が嫌いなんだけど、たべられるようになったんだ。旅をして、その日のご飯も食べられなくて、お風呂も入れなくて……弟は泣くし、大変だった」

 ケビン君は学んだんだ。

「食べられる事の喜びと、美味しさ。おいしくなーれの魔法。ありがとうアリアお姉さん」

「はい、どう致しまして」

 この子を無事に届けることができてが良かった。ケビン君は絶対いい領主様になると思う。
 民と一緒に泣き笑う。そんな素敵な領主様に。

「ふむ、美味いな。肉も滑らかで硬さがなく、臭みもない。塩は良い物を使っておるな?どこの物か聞いてもよいか?」

 あれっ?!ミラージ様まで食べてるの?!これ、貴族様の食べ物じゃないよ!!

「塩ですか?2つ山を超えた先の洞窟で取れる岩塩ですよ?」

 がたり!ミラージ様は椅子を鳴らして立ち上がった。

「なっ?!岩塩だと?!塩が取れるのか!!」

「え?あ、はい。見つけたのは偶然ですが、塩の洞窟があります」

「誰か!!地図!」

 執事さんが慌てて持ってくる。ばっと広げるとちっちゃくノノス村も載っている。

「アリアさん、どっちだ?」

「ここの山の……この辺に洞窟があります」

 指で辿った先に丸をつけた。

「良し!!我が領内だ!素晴らしい!でかしたぞ!ありがとうアリアさん!やはり半魔神の聖女様は最高だな!!」

「すぐさま調査隊を!口の硬い者で編成してくれ!しかし必ずあると分かって更にいい塩が取れると分かっているなんて……最高だ!!」

 ミラージ様はウキウキワクワクが止まらない!と言った顔。スキップでもし始めそうだ。
 
「おじさまがこんなにはしゃぐの初めて見ました」

 ケビン君も驚いている。

「ケビン!塩とはとても大切な物なのだぞ?しかも美味いなんて最高じゃないか!楽しみだー」

「あの、ミラージ様」

「おお!もちろんアリアさんは今まで通りつかってくだされ。むしろ掘り出したのをお持ちしましょう!して、発見者のアリア殿の取り分も用意しますからのう」

 あらあら?スープから塩を採掘する話になってしまいました……。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...