上 下
228 / 229

228 ずっといていい?

しおりを挟む
「イアンが見つかったんですか!義父上!」
「ええ、マシュー子爵の地下室に隠されていました。隠されてなきゃもっと早く見つけられたんですけどね」
「?」

 また違う人だ。今度の人も笑いながら駆け寄ってくる……初めて見たのに好きな人だ。おかしいなあ?

「イ、イアンだーー! イアン、私のこと覚えてるかい?! ラセルだよ!」
「?」

 知らない、でも君のこと大好きだよ。

「はは、ラセル。思い出さないでいてもらった方が良いぞ。思い出したら横に並ぶのは難しいぞ」
「うっ! そういえばそうかもしれません。私、魔法は全然駄目で……」
「全然じゃないぞ、ラセル。ミニィが求めるレベルが高すぎるだけだ」
「そういうタムさんだってラセル達に厳しすぎるって学園から苦情がきてたじゃないですか。どうして時空斬りから教えようとするかなあ?」
「あれはラセル達が習ってるレベルを知りたいっていうから、ちょっと見せただけの話で」

 やっぱりよく分からないけれど、皆笑ってるから良いことがあったんだろうな。

「そうそう、なんと言葉もまともに教えてもらってないんですよ、イアン様ってば」
「えっ!そこから教えて良いのか?! たぎるぅ~!」
「じゃあ全然喋らないのは話せないからなのか、うひょー!新鮮」
「こりゃ楽しくなりそうだなぁ!おい」

 やっぱり皆笑ってる。ここは皆楽しそうな所なんだ。だから真似してみたくなった。口をくにゃっと歪めたらおんなじ風になるのかな?

「笑った! イアンが笑った! 可愛いね」
「おう! やっぱりうちの大将は笑っててくんないとな」
「無理矢理作った笑顔じゃなくて、心からな」
「そうだそうだ」

 私がほんの少しだけ真似をしたら皆また喜んでくれた、褒めてくれた。何だろうとても楽しくて嬉しい気がする。

「積もる話もあるでしょうが、きっと疲れてますよ。今日はもう眠らせてあげましょうね。明日からずっと一緒なんですから」
「そうだな、初めて風呂に入ったらしいから、疲れただろうしこんなに人に会ったことなかっただろうしな」
「そうだな、この屋敷自慢の義父上のお部屋だな?」
「あのふかふかベッドに寝せてやれ」

 私は連れて行かれ、ふかふかに寝転がらされると眠ってしまったらしい。その部屋は薄暗いけど真っ暗じゃなかった。あの私のいた冷たい暗闇とは違ってとても暖かい場所だった。

「今度はごゆっくりですよ、イアン」

 目を開けなくても見える人の大きい方がそういった。

「マジでミニィ達、きれいに問題片付けてしまうんだもんな。ありゃ執念だわ」

 小さい人の方が困ってるのか喜んでるのか分からないことをいう。でも嬉しそうだから喜んでいるんだろうな。

 ミニィ? ミニィってあそこにいたおじさんの一人だよね?きっと凄い人なんだろうな。そんなことを考えていたら気がついたら朝になっていて、知らない人が起こしてくれる。

「イアン様、朝ですよ」

 朝は明るい、この人は怖くない。

「お腹が空いたでしょう? 顔を拭きましょうね、それから朝ごはんです。パム様が本日も腕によりをかけてお食事を作ってくださいましたよ」

 ご飯は食べれるもののこと。いつも目を開けなくても見える人が置いて行ってくれたものを口に入れてたけど、今日から決まった時間にしか出てこないらしい。

「義父上~ご飯食べに行きましょー」
「ミニィ義父上、イアンは私が連れていきます」
「いやいや、俺が俺が」
「私、私!」
「早くパムのご飯食べに来てくださいーっ! 卵が固まっちゃいますっ」

 一番最初に来た人を押しのけて、たくさんの人がやってくる。よくわからないけれど、みんな笑ってる。だから真似をしたら皆もっと笑ってる。

「んあぁ~~、これから義父上に一から十まで教えていくことができるなんて……感動する」
「ははっ! しばらくだけだろうなあ、親の顔できんのは! 俺も楽しみ!」
「きっと思い出したらぶっ倒れるだろうなあ! 大将!」
「思い出さなくてもいいよ! だってイアンはイアンだもん」
「それもそうだな!」

 なにかよくわからないけれど、この人達はいい人だってそれだけは分かる。

「無意識に山を動かしたり、地脈を変えたりしなけりゃそれで……」
「やりかねんぞ……! ま、元に戻すくらいできるだろ。大丈夫だ」
「まずはこの騒がしさに慣れて貰おうかな。皆、君の傍に居たいからね」

 ミニィ、と呼ばれた人に抱き上げられた。横にはラセルと呼ばれた人がくっ付いてきて、私の手を握った。

 私は私に何が起こっているか、何も分からない。でもここにいる人達は全員私のことを大好きみたいだ。どうしてかは分からないけれど、きっとそのうち教えてくれるんだと思う。分からないが全部分かるまで私はここにいていいみたいだ。

「やや、今度はお爺ちゃんになるまでいてくださいよ」
「?」

 やっぱり良く分からないけれど、ここにはずっといていいみたいだ。

「前と違ってしっかり地盤を固めましたからね。根無し草みたいなのはもう終わっちゃいましたよ、帝国にワイアードの影なきところなしっていわれるくらいにはね!」
「クレヤボンスさんがやり過ぎたんですよ、この人ほんと怖い」
「んふ~大将に褒めてもらうにゃこれくらいしないとな~やっぱ ぼんじゃイマイチよ」
「はぁ……30過ぎても坊主呼ばわりかあ~クレヤボンスさんには敵わないな」
「んふふふっ! さあて、イアンちゃんには大きなぬいぐるみをあげようね~~6年間改良を加え続けたでっかい狐のぬいぐるみだよ~」
「そんなことより、皆! 早くパムの朝ごはんを食べて~~!! オムレツが固まっちゃうってば!チーズも固くなるんだからね」

 その時食べた見た目も黄色くて甘くてちょっとしょっぱくてふわふわしたものは嬉しい味がした。ふわふわの黄色は大好きな物になった。



 



しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...