223 / 229
223 時空を切り割いてでも(ミニィ
しおりを挟む「だから狐であってもまた義父上に会えた時の私達の喜びはいかばかりかと」
「そんでまたあん時みたいな違和感を感じるんだ。北へ逃げるって言い切った時の大将から感じた違和感を」
武器は自分の知る最強の物を、防具は身につけない、義父上の慈悲の心に縋って、その切先を歪めるために。
「ヘイズさんは」
「クレヤボンスの部下に当たらせてるけど、油断し過ぎた、連絡が取れねぇ。パムは現地に向かわせてる」
「ラセルに振られた時から準備すべきでした」
私達はここで一旦会話を止める。時空を割る準備を始めなくてはならない。やってはいけない禁術の一つになっているけれども、禁術だから何だというんだ。
「いきます」
「ああ」
術を発動させるのは私とタムさん。だから後で贄を捧げるのは私達、アイザックは巻き込むだけ。
「ティエン様! およびたていたします!」
私とタムさんの魔力を集めて神であるティエン様を降ろす。これだけでも実はとんでもないことなのだが私達は躊躇なくそれを行う。割れてはならない場所に歪みが起き、美しい長身の神が姿を見せる。初見ならば気を失いかねぬほどの美しい神の姿。
「……ミニィとタムか、イアンの子供達よ。正式な手続きで私を呼ぶとは……時空を割く気か」
「御意」
「……やるがいい、取り立ては後でしよう」
「感謝致します」
私は湾曲した刀をスラリと抜き放つ。人の血を吸い、妖刀の名を冠してしまった愛刀をティエン様に向け、上から下へ斬り下ろす。
「ミニィ?! な、何を!か、神を斬るなんて!!」
「黙って、アイザック! タムさん!」
「ああ! 失礼します、ティエン様」
「行くが、良い」
頭から腰の辺りまで切り裂かれたティエン様は苦痛に顔を歪めながらも、送り出してくれる。ティエン様を切り裂いた傷口、そこにタムさんは飛び込み、アイザックを後に続かせる。
「ミニィ! どうなってるんだ!」
「いいから、ついていって! 私も飛んだらティエン様の傷は塞がる。時空が開いている間は苦痛を伴うんだ。ティエン様のことを思うなら早く!」
「わ、わかった」
アイザックは戸惑いながらもタムさんの靴跡を追って飛び込む。
「また後で!」
「ああ……そう、だな」
歯切れの悪いティエン様を気にしている場合ではない。私もアイザックの後を追う。時空を切って行きたい場所に飛ぶこの禁術は文字通り、時空を、時空神様を斬って飛ぶ技だ。
神を切りつけるという罰当たりな技なだけに禁術なんだが、後でたーっぷりティエン様に叱られ、文句を言われ機嫌を直して貰うまで貢ぎ物や奉仕などをしなければならない。人によっては一生労働させられることもあるようだが、その辺りはティエン様次第になる。
それでも良い、今すぐに義父上の元に行かなくては。
切れた糸を奇跡的に手繰り寄せたのに、また切れてしまうなんて、絶対に嫌だった。
76
お気に入りに追加
1,883
あなたにおすすめの小説
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる