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220 時代

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 もうバレているのでもふもふと尻尾を振りながら廊下を歩く。女子生徒がキャー可愛いなんていっているのが聞こえるけれど、特に害意もないのでいいと思う。

「お、大将お散歩ですか?」
「あれ? タムだ。どうしたの? 研究室か温室以外で見るなんて珍しいね」
「パムに弁当貰いに行った帰りです。俺、最近三食弁当なんですよ、いや~パムの弁当は冷めても美味いし、三食食っても飽きない!」

 よく見るとタムはお弁当を6つも持っている。えっと、明日の分もあるの?

「ちっさい保管庫作ったんですよ。ティン様の護符を分けて貰って貼っておくとそこそこ、日持ちするんです。色々便利ですよ」
「へえ、遊びに行っていい?」
「もちろんです。温室へ行きましょうか」

 私は後ろからタムの背中にぴょんっと飛びついて、肩までよじ登った。

「器用ですね、大将」
「大人の歩幅に合わせて歩くのは結構大変なんだよ、この手足短いからねえ」
「あははっ人間だった頃はスタイルが良くって皆に羨ましがられたのに」
「おじさんが太らないように頑張っていただけだよ、羨ましがられることなんて一つもなかったさ」
「……そうですかねえ? あの当時の皆に聞かれたらきっとくすぐり殺されますよ」

 くすぐり殺すか……平和的拷問だな。そんなの私は耐えられない気がする。どうする?ミニィに助けを求めるか……クレヤボンスは絶対助けてくれない気がするし、タムも笑ってくすぐる側に参加しそうだな。

「この裏切者め」
「え?なんですか、大将」
「……なんでもない」

 そういうタムだって足は長い。現にその大きな歩幅で歩けばかなりの速度だし、何人もの生徒がタムに話しかけたそうにしていたけれど、あまりに早くて話しかけられずにいる。一応ここの先生として勤めてるはずなのに、生徒の話を聞いてあげないんだろうか?

「ちょっと明日の弁当おいてくるので、先に温室にいてください」
「うん」

 透明な幕に覆われた温室の扉を開けてくれたので、そのままするりと入り込む。中は蒸し暑くて、南国っぽい植物が至る所に植えられている。色とりどりの強い色の花がこれまた特殊な芳香を放っているが、鼻がおかしくなるほどではない。

「でっかい葉っぱ。艶々してる……こっちはギザギザだ」

 名前も知らない大きな植物。タムに聞けばながーい解釈付きで教えてくれるんだろうけど、今は聞きたい気分じゃないな。ちょうど置いてある石のベンチの上に乗って丸くなった。暖かいし、ちょっと湿度は高いけれど日の光も当たる心地のいい場所だ。

「大将、お疲れですね」
「そんなことないよ。昔に比べたら全然だ」
「そうですね、昔の俺達は頑張り過ぎてた……そして疲れたなんて言える立場じゃなかった。俺達がしっかりしないと、俺達より若い奴らがバタバタ死んでいくんだもん」
「……そうだね」

 工夫して、上官を騙して……もちろん敵も騙して、時には味方も騙して。そうやって何度も何度も命を繋げてきた……そんな時代は終わったんだ。それなのに私はまだあの時代にいるみたいなんだ。

「すぐにゃ無理でしょうよ、俺達はそんな暮らしが長すぎた。俺もパムもクレヤボンスもこうやって別のことに熱中しているのは熱中していなきゃ昔のことを思い出しちまうからですよ。俺らは楽ですよ、俺らの向かい合ってる相手はなあんにも文句はいわないし」

 タムは立ち上がってさっきの大きくて艶々している葉っぱを愛おしそうに撫でている。

「でも俺らがこうしていられるのは全部大将のお陰です。大将が自分の命を削って俺らを生かしてくれた、忘れたことはありません」
「気持ち悪いこといわないで、タム。そんな時代は終わったんでしょう?」
「ははっ! 弁当でも食べます?」
「食べる~!」

 パム特製の大きなお弁当箱を開いて、おかずの一つ二つをつまみ食いした。そのままベンチの上でうとうとしてしまい私は眠ってしまっていて、タムが呟いた言葉なんて聞こえなかった。

「大将はまだあの時代に残されたままだ。ラセルに構うことで少し忘れていたけど……どうしたもんかな」



 
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