上 下
213 / 229

213 パムの自信の源

しおりを挟む

 いつまでもいつまでの客の途切れないパムの屋台を、厨房担当者達はボケッと見ていた。

「あんな流れ者に大した料理が作れるわけがない」
「我々は国から正式に依頼された一流料理人だぞ」
「はっ! なんと粗雑な素材。カエルだと? そんなもん誰が食うというのだ」

 最初はそんな反応だった。当然だと思う。しかしパムの屋台にはラセル達がついているのだ。

「パムさん、パムさん! このどう見てもカエルに見えないカエルスープは」
「そうですとも! 坊ちゃん達が捕まえてくれたカエルですとも! あの後泥抜きや匂い消しを施し、酒やハーブに浸しまして。パムの自信作ですよ!」
「わ、わあ! 下さい僕に下さいな!」
「はっはっは! この前手に入れたカエルの絵が可愛い器に入れましょう」
「わあ! ありがとう。パムさん」
「私にも味合わせてくれ」
「もちろんですとも」

 子供達は少し大人びてきているけれどまだまだ声は高い。そしてその声はよく通る。特にフィンの声は聴いている者の心を掴むような美しい声だし、レオンも未来の皇帝を感じさせる安心感のある声だ。
 その子供達が我先にと手を伸ばすのだから注目しない訳がないのだ。

「美味しい!」
「初めて食べたが美味しいんだな……不思議だ」
「パムさんはやっぱりお料理上手だねぇ」

 パムの調理もさることながら、自分達で苦労して捕まえた獲物の味は格別だったんだろう。それはそれは美味しそうに食べるから皆釣られた。

「なんでカエルなんか」
「こっちは高級なブラウンバイソンだぞ!」

 この辺りではまだパムの方が劣勢だったに違いない。

「ブラウンバイソンとブラックバイソンの肝串だよ」
「肝って食えるのか?」
「仕留めた後、なるべく早く取り出して下処理をしますよ。血抜きが完璧だと濃厚で美味しいですよー」
「へえ!」

 高級食材が顔を出し始めるともうパムの屋台は大盛況だった。

「豚鯉の浮袋の腸詰?!」
「トロトロ河豚は毒だろ? え?食えるの? しかも美味い??」

 そして多種多様な調理方法に皆おっかなびっくりしながら口に運び、目を輝かせる。

「ユビキってなんだ?」
「さっとお湯に通して表面だけ固まらせ、臭みや油を落とすんだって。さっぱりするぞー。一緒に野菜をちょっと食べるとまた良い!」
「蒸し物も多彩だなぁーこのまんじゅう、透明な皮で中のエビが食欲を誘う色してる!」
「煮込みも美味い! どうやってこの形を保ったまま煮込んだんだ??」

 食べる方も驚いているが、一番驚いているのは料理人だろう。料理を知っているからこそ、そこにどんな手間や工夫が詰まっているかが食べる側より気がついてしまうのだ。

「この小さな野菜すら均一……」
「肉には筋切りがしてある……柔らかい」
「これ、茹でてから焼いているのか? 確かにその方が香ばしいだろうけど」

 どれもこれも一瞬で口の中に消えて行く料理達なのに、詰め込まれているのは確かな技術と深い執念とも呼べる愛情。

「イアン様、美味しいですか?」
「うん! パムの料理は最高だね」

 私は美辞麗句を並べるのは不得意だが、美味しい時の笑顔は合格だといわれている。美味しいから嬉しい、嬉しいから礼を言い笑顔になる。

「イアン様にそういってもらえるのが、パムの一番の自信になります」
「じゃあもっと褒めてもっと自信をつけて美味しい物を作ってもらわなきゃ」
「ではパムももーっと美味しい物をお出しできるよう精進いたしますね!」

 これ以上美味しい物ってなんだろう?! もう見当もつかないけれど、パムがやるっていったらやるんだろうなぁ。
 
 私もパムもパムの料理を食べる大人も子供も皆笑顔。それを見て学園の厨房担当達が俯いていた。

「美味しいといってもらえる」
「褒められるから自信がつく」
「もっと、頑張る……」

 多分、彼らの生活からすっぽりと抜け落ちていたであろう言葉達。
 いつも通りに料理を作り盛りつければ何も文句は言われず給料が出る仕事。面倒事は避け、労力は削り、誰の口に入っているかも分からないそんな料理人の日々。

 それで良いと割り切った自分達。

 さて、どうする?

 君達は一体何者なんだい?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

処理中です...