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213 パムの自信の源
しおりを挟むいつまでもいつまでの客の途切れないパムの屋台を、厨房担当者達はボケッと見ていた。
「あんな流れ者に大した料理が作れるわけがない」
「我々は国から正式に依頼された一流料理人だぞ」
「はっ! なんと粗雑な素材。カエルだと? そんなもん誰が食うというのだ」
最初はそんな反応だった。当然だと思う。しかしパムの屋台にはラセル達がついているのだ。
「パムさん、パムさん! このどう見てもカエルに見えないカエルスープは」
「そうですとも! 坊ちゃん達が捕まえてくれたカエルですとも! あの後泥抜きや匂い消しを施し、酒やハーブに浸しまして。パムの自信作ですよ!」
「わ、わあ! 下さい僕に下さいな!」
「はっはっは! この前手に入れたカエルの絵が可愛い器に入れましょう」
「わあ! ありがとう。パムさん」
「私にも味合わせてくれ」
「もちろんですとも」
子供達は少し大人びてきているけれどまだまだ声は高い。そしてその声はよく通る。特にフィンの声は聴いている者の心を掴むような美しい声だし、レオンも未来の皇帝を感じさせる安心感のある声だ。
その子供達が我先にと手を伸ばすのだから注目しない訳がないのだ。
「美味しい!」
「初めて食べたが美味しいんだな……不思議だ」
「パムさんはやっぱりお料理上手だねぇ」
パムの調理もさることながら、自分達で苦労して捕まえた獲物の味は格別だったんだろう。それはそれは美味しそうに食べるから皆釣られた。
「なんでカエルなんか」
「こっちは高級なブラウンバイソンだぞ!」
この辺りではまだパムの方が劣勢だったに違いない。
「ブラウンバイソンとブラックバイソンの肝串だよ」
「肝って食えるのか?」
「仕留めた後、なるべく早く取り出して下処理をしますよ。血抜きが完璧だと濃厚で美味しいですよー」
「へえ!」
高級食材が顔を出し始めるともうパムの屋台は大盛況だった。
「豚鯉の浮袋の腸詰?!」
「トロトロ河豚は毒だろ? え?食えるの? しかも美味い??」
そして多種多様な調理方法に皆おっかなびっくりしながら口に運び、目を輝かせる。
「ユビキってなんだ?」
「さっとお湯に通して表面だけ固まらせ、臭みや油を落とすんだって。さっぱりするぞー。一緒に野菜をちょっと食べるとまた良い!」
「蒸し物も多彩だなぁーこのまんじゅう、透明な皮で中のエビが食欲を誘う色してる!」
「煮込みも美味い! どうやってこの形を保ったまま煮込んだんだ??」
食べる方も驚いているが、一番驚いているのは料理人だろう。料理を知っているからこそ、そこにどんな手間や工夫が詰まっているかが食べる側より気がついてしまうのだ。
「この小さな野菜すら均一……」
「肉には筋切りがしてある……柔らかい」
「これ、茹でてから焼いているのか? 確かにその方が香ばしいだろうけど」
どれもこれも一瞬で口の中に消えて行く料理達なのに、詰め込まれているのは確かな技術と深い執念とも呼べる愛情。
「イアン様、美味しいですか?」
「うん! パムの料理は最高だね」
私は美辞麗句を並べるのは不得意だが、美味しい時の笑顔は合格だといわれている。美味しいから嬉しい、嬉しいから礼を言い笑顔になる。
「イアン様にそういってもらえるのが、パムの一番の自信になります」
「じゃあもっと褒めてもっと自信をつけて美味しい物を作ってもらわなきゃ」
「ではパムももーっと美味しい物をお出しできるよう精進いたしますね!」
これ以上美味しい物ってなんだろう?! もう見当もつかないけれど、パムがやるっていったらやるんだろうなぁ。
私もパムもパムの料理を食べる大人も子供も皆笑顔。それを見て学園の厨房担当達が俯いていた。
「美味しいといってもらえる」
「褒められるから自信がつく」
「もっと、頑張る……」
多分、彼らの生活からすっぽりと抜け落ちていたであろう言葉達。
いつも通りに料理を作り盛りつければ何も文句は言われず給料が出る仕事。面倒事は避け、労力は削り、誰の口に入っているかも分からないそんな料理人の日々。
それで良いと割り切った自分達。
さて、どうする?
君達は一体何者なんだい?
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