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212 ありがとう、どういたしまして

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「ちょっと、本当に幻の食材がポンポン出てくんだけど!」
「しかもタイミングが凄くてさ! こってりしたものの後にサッパリした物とか甘い物挟んだりしょっぱい物あったり」
「ど、どうしよう。腹一杯なのにまだ食える……ような気がする!」
「分かる! ベルトしまんねぇんだけど、食いたい」
「なんか肉だって肉!」
「なんの肉?!」
「金羊……って物語の中で聞いた事ある気がするんだけど食えるの?!」
「食えるの?!」

 人々はパムの調理場に詰め寄る。それでいて奪い合いにはならず、人はどんどん入れ替わる。

「駄目だ、沢山食べると次が食べられない」
「そこのあんた、一口だけ持ってる肉をくれないか? 俺の魚を一口やるから」
「おっ! 頼む。それ食ってみたかったんだー」
「俺もー」

 とにかく分け合わないと次が食べられないから大変だ。

「捨てるなんてとんでもないし……うう、なんで欲張って二皿取ったんだ。次のフルーツ食べたいよう」
「馬鹿だなぁ……って俺も余分に食う腹なんてないぞ。自業自得だ」
「うう……」

 ま、そうなるよね。私も子供のお腹ではすぐに限界が来た。いや、限界を超えて詰め込んだ、もう無理破裂する。

「どうしよう……まだ魔王マグロとか出てきてないけど、もう無理だよ……」
「ま、魔王マグロってなんだ……?! 聞いた事がないぞ」
「えーと、魔マグロの群れを支配する角が生えた真っ黒なマグロなんだけど、その美味さときたら魔王級……」
「そんな生物がいるのか……」

 マリアネットも知らないらしい。確かあれはなんだっけ? 何か酷い命令だった気がするけど、お腹がいっぱいで思い出せない。お腹がいっぱいだと辛い事とか忘れてどうでもよくなっちゃうんだよね。

「尻尾だけちょびっと食べたけど美味しかったなぁ……もうお腹いっぱいだよー」

 食べ物でぽんぽんに膨れたお腹をさすりながらその場に座り込む。えーとラセル達は……お? 動いてお腹を減らそう作戦か。激しく運動しすぎて脇腹が痛くならなきゃ良いけど。
 子供達の様子を眺めていた私の横にマリアネットも腰を下ろした。魔王マグロは諦めたのかな?

「イアン。楽しいなあ」
「美味しいな、の間違いじゃないの?」

マリアネットも走り回るレオンを見ているようだ。ああしていると普通の子供のようだなあ。

「皇帝の私がこんなことをしていて良いのかと罪悪感に駆られている」
「根を詰めすぎると早死にするよ、マリアお姉さん。せめてレオンが皇帝に立てるくらいの歳になるまで頑張らないと」
「そうだな……それまでにゴタゴタや腐敗を少しでも減らしたい。なあ、やはり私の下で働かないか?」

 首を横に振って前足の上に頭を乗せる。いつの間にか子狐の姿に戻っていたけれど、この騒ぎだ。誰もこっちなんて気にしていない。

「私は今、ラセルを育てるのに夢中なんだ。ラセルは立派な国王になるよ、間違いなく。だから帝国のお手伝いはできないの」
「また振られたな」
「仕方がないよ、今の私はマリアお姉さんより年下だからね」

 自分より歳上と結婚したいと嘯いているんだから、しょうがないよね。それでも必要とあらばマリアネットは誰であろうとも婚姻は結ぶだろう、だって皇帝なんだから。

「人間のうちに会いたかった」
「ごめんね」

 私のわきに手を突っ込んでマリアネットは自分の膝の上に私を乗せる。狐になった頃なら女性の膝の上に乗るなんて恥ずかしくて勘弁して貰いたかったが、今は慣れてしまった。

「もふもふしてる」
「癒し効果抜群だよ」
「腹もいっぱいだし、癒されたら眠くなるな」
「食べた後すぐ寝ると……おっとっと」
「ふふ、イアンは配慮ができる賢い狐だなぁ」
「自分でもそう思ってるよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」

 さてはて、何に対しての礼なのか聞くような野暮なことはやめておこう。だって私は可愛い子狐なんだから。
 ラセルに色々教えるのに、ライバルがいた方が捗ることもあるからレオン達も一緒に巻き込んでるだけだしね。

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