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202 さあ、勉強の時間だ

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「じゃ、じゃあ食べておいしい、煮込んでポーション。素敵な薬草狩りで」
「ぶーぶー!」
「イアン、そうじゃなくて」

 分かってるけどその辺にしておきたいじゃないか! 次の日曜日、貴族街でも外れも外れの位置にあるワイアード邸の前に立派な馬車が3台止まった。

「楽しみだなあ」
「獲物は何になるんでしょうか?」
「うさぎとか……? ぼく、ちゃんと仕留められるのかな?」

 レオン、セドリック、フィンそしてそのお付きの護衛達が3.4人づつぞろぞろと降りてくる……滅茶苦茶目立って凄く嫌だ。

「はは、イアン様。小隊くらいありますね」
「もー……だから嫌なんだよう」
「と、言いつつちゃんと準備してあるじゃないですか」
「まあ……しっかり断らなかったし。これも必要なことかもしれないし」
「そうですね」

 準備をミニィに手伝ってもらったから、私が何をしたいのか分かっている。やるしかないなあ……。

「イアン! レオン達来たよ!」
「うん。玄関まで迎えに行こう」

 2階の部屋の窓からレオン達の到着を今か今かと待ち構えていたラセルが階段を降りてくる。現在このワイアード邸は改築中の上に執事がいないし、使用人もいない。だからお客様がきたら家人の誰かが迎えにいかなければならない。

「いらっしゃい、レオン、セドリック、フィン」
「うお!? ラセルが出迎えなのか?」
「今ね、まだ執事さんがいないんだよ」
「そ、そうだったか……」

 通常と違った対応にレオンは面食らっていたが、そういうこともあるのだと知って欲しい所だ。

「さて、何を狩るんだ!?」
「さあ?」

 意気揚々とワイアード邸へ踏み込んだレオンに私はそっけなく応える。

「だ、だって狩りに行くのだろう? ウサギか? 鹿か??」
「さあ?」
「イアン! どういうことだ」

 そんなこと言われてもねえ? 今この場にいるのは子供達、大人はミニィとリゼレン君、そして子供達の護衛なのだが、やはりレオンはおぜん立てされた狩りしか知らないんだな、仕方がないけれど。

「君は一体、今日ここに何をしに来たの?」

 さあ、子供達、お勉強の時間だよ。

「今日はパムが使う食材を狩りに来たんだろう?」
「食材って何?」
「えっと……ウサギとかですかね。私達が狩れる動物なんてそんなに多くない」
「ウサギはどこにいるの?」
「えっ……の、野原に?」

 レオン、セドリック、フィンの順番で答えが返ってくる。

「どこの野原?」
「えっ……それは誰かが調べて」
「誰かって誰?」
「……」

 セドリックが口を噤んだ。私が何を言いたいか理解したようだ……うん、良いね。思考することを面倒がらずにいる、きっとレオンを補佐していく良い友人に成長するだろうね。

「イアンが調べてくれたんじゃないの?」

 フィンの質問に肩を竦めて答える。

「どうして私が? 私は皆と大して変わらない年だ。さらにいうならこの辺りに引っ越してきたのはつい最近。この辺のことに詳しい訳がない。私より君達の方が詳しいんじゃないかな? フィン、どこでウサギ狩りをしたらいいんだい?」
「えっ……ぼく、分からないよ? えーと、ルイゼさん分かる?」

 ルイゼさんはフィンの付き人で神殿からやって来た神官さんだ。ルイゼさんはふるふると首を横に振る。

「私には分かりかねます」

 そりゃいつも神殿で祈りを捧げている神官さんはウサギがどこにいるか分かる訳がない、当たり前だ。さあ、子供達考えて? 私が出した課題の意味を。
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