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194 美味しいは強い

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「疲れた……」
「どうして!?」

 休日が明けて、朝学校へ向かう馬車の中でぐんにゃりしてしまうのは仕方がないことだろう。

「やや、イアン様。今日の朝ごはんは美味しくなかったですか?」
「いや、美味しかった、最高だったよ。パム……特に目玉焼きが良い焼き加減で二つもあったし」
「下に隠れてたハム、美味しかった~!」
「ふっふー。そう言っていただけると嬉しいですね」

 目玉焼きは美味しかった……パムは卵を二つ落としてくれる。おじさんだったときは三つくれた。黄身はとろとろ、白身はぷるぷるでさっと振った塩も利いていて美味しかったんだけど……。

「ミニィの張り切り様はどうしようかなって……」
「なんか元気だったね! ミニィさん」
「ワイアードの名前を帝国に刻み込んでやるーでしたっけ? まあミニィ坊は目標に向かって突き進んでるくらいが良いんですよ。暇になると駄目になる子ですから」
「……分かってるね、パム」

 暇になると駄目になる、ウチの軍にはそういうのばっかりだった気がする。まあ刹那刹那で命のやり取り、これで最後がすぐ目の前にあるような生活が長かったからできる時に全力を出さなくてはならなかった……。

「休暇は休めばいいのに」
「その言葉そっくりイアン様にお返ししますよ」
「……ぎゅ」

 私を仕事中毒みたいに言わないで欲しいな……ちゃんと最近はぐだぐだと昼寝をすることも覚えたんだけど?しかし、いつも忙しくしていたから休めと言われると中々難しいものを感じる……あれもやってこれもやってと色々考えてしまうんだ。

「中々、長年染みついた習慣は変えられませんね。そういう私もつい色々仕込みをしてましたし、市場へ買い物へ出かけようと思ったりしていましたよ」
「ははっ、タムなんて休みでも学園に泊まり込んで温室に入り浸っているしね」
「毎朝いつもの時間にいつもの所までお弁当を取りに来る以外、ずっと温室にいるみたいですよ」
「植物学の教授の助手じゃなかったの??」
「教授ももうあきらめたらしいですよ。でも色々珍しい植物の生育に成功しているのでやめさせることもできないとか」
「結果を出しちゃう所がタムなんだよな~」

 タムが好きなものにのめり込むと本当に強い。あまり乗り気でない軍の事でも色々相談に乗ってくれたりして心強かったっけな。

「タムはちゃんと食べてさえいれば動けますからね」
「はは、ほんとパムはよくわかってるなあ」

 ガタゴトとあまりきれいじゃない道を馬車で学園へ向かう私達。パムのお弁当はギリギリまで保管庫に入れてある。道が悪いから出しておくと中のおかずが踊り狂ってお昼に開けたときに面白いことになってしまうからね。

「私が率いていた隊が皆元気だったのは本当にパムのお陰だよ~」
「皆さんが色んな食材を持って来てくれたからですよ」
「えっ、どんなのがあったの?教えて~~」
「勿論ですよ、ラセル。まず、でっかい鳥の卵の話をしましょうか? まだその殻は実は私持ってましてね」
「でっかい卵!」

 おっ、定番のアレだな。あれで超巨大な目玉焼きを作ったっけなあ。特注ででかい鉄板も作って……でも卵自体はそんなに美味しくなかったんだよなぁ~食べたけど。
 料理の話になると途端の饒舌になるパムと自分が知らない物語に目を輝かせるラセル。そうだな、学園が長期休みに入ったらまたあのでっかい卵を取りに行くのもいいかもしれない。なんだっけ、ラージロックバードだっけ?ドラゴンモドキだっけ?きっとラセルも喜ぶし、最近腕が鈍り気味だと言ってたヘイズ達も喜ぶだろうし、でっかい鳥は大体秘境に生えてるからタムも喜ぶ草も生えてるだろうしね。

「素材捕獲旅行とか楽しそうだと思わない?」
「わっ! 凄い凄い。絶対楽しい!」
「良いですねー。帝国領にも美味しい物がいっぱいありそうですもんね」

 美味しい料理の話は弾みすぎて、お昼までまだまだ遠いのに私とラセルはもう何か食べたくて仕方がなくなってしまった!


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