【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

176 学園のキング？

「そうなんだ。じゃあ今は鎧は献上してないの？」
「た、たまたま隣のアイゼン領に良い職人が入ったからだ！　こ、今年こそは我がダイアン領の鎧が選ばれるんだ！」

　リメル・ダイアンの声が徐々に上がって行く。これだけでもダイアン領とその周辺の力関係が分かってくる……どうやら鉱山を有して鉄鋼業が盛んなダイアン領付近は１０年ほど前から隣接するアイゼン領に負け続けている。しかも鉄の算出は変わらないようなのに職人の差で負け続けている……ダイアン領は職人を大切にしない領、もしくはアイゼン領が職人を優遇している。
　１０年もその状況ということは……ダイアン伯爵はあまり有能ではないということか。いつか勝てるはずいつか勝てるはずと思い続けて放置ということだろうな。気づかれない程度に周りを伺ってみると、皆少し遠巻きに見ている……リメル・ダイアン自身に人望もなさそうだ……まあその辺は子供だから仕方がない所もあるだろうけど、周りの目に自分がどう映っているか考えなくちゃいけないのにね。

「ふうん、じゃあ殿下に話しかけられないのもしょうがないね。何かきっかけを作って自分から話す機会を作ると良いよ」
「なっ、なんだと！？」
「それ以外何があるの？」
「うっ！」

　まっすぐリメル・ダイアンを見て言葉を放つラセルの鋭さは凄い。ぐさぐさとリメルに突き刺さるようだが、ラセルが正論過ぎて何も口を挟むこともない。

「騒がしいぞ、静かに。着席をしなさい」

　リメル・ダイアンが泣き喚く寸前でクラスに教授が入ってきた。いいタイミング過ぎて外で見ていたのかもしれないと思ったが、そういう機転が利くからこそ学園で教授を続けられているのかもしれないなぁ。睨みながらリメルは自分の席に戻り、ラセルはそれを無視して正面を向いた。私もラセルに倣って入ってきた少し神経質そうな壮年の男性教授の方を向く。

「では、本日は授業はないがこれから学園で生活していくうえで守ってもらいたい規則などについて説明しよう」

　こういうのはどこも変わらないらしく、一般的な規則をつらつらと読み上げてゆく。まあ事前に渡されている紙に書かれていることだから、特に問題はないが……ただ、これでいいのかと思う規則が一つあった。

「なお、どうしても双方の意見が対立し、和解が難しい場合、立会人の元で決闘という形を取ることができる。この勝敗は絶対で勝者のいうことを敗者は飲まねばならない。これは帝国が建国された際に初代皇帝陛下が……」

　長ったらしい説明は続いて行くが、決闘ね。これは私やラセルには便利に使える仕組みだな。何せ同学年で私たち程実践を積んできている子供などいないだろうからね。もしかしたらラセルはこの学園の王様になっちゃうかもしれないぞ！？
　それはそれで楽しそうだなと一人でほくそ笑んでしまった。