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170 特産品になれますね

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「かーっ、なっちゃいねぇ! ちぃーとジジィに貸してみろ!」
「お、お願いします、親方……」

 今度は「親方」と呼んでいるお爺ちゃんが来て、草で作る鎧について教えてくれている。

「良いか?こうやって、ラセル坊の腕に巻いて型を取る。でもってこっから編んでく。んで、その辺の木の汁で作ったこいつを塗りこんで乾かす。それを何度か繰り返すと軽くて固い鎧の完成だ」
「は……?」
「金ピカに塗っときゃ金属にみえるからな、見分けなんてつかんよ、ガハハ!」
「は……?」

 親方から渡された草で作ったはずの鎧の腕の装甲を見せてもらったら、予想以上に素晴らしいものだった。物凄く硬くて、きっと普通の刃は通らない。

「かる~い!」
「ふむ……」

 なるほど、材料は川でも鉱物でもないからとても軽い。そして親方がいう「そこら辺の木の汁」がまた凄い。木をちょっとだけ傷つけて出てくる樹液を集めて作るのだが、これを塗るとなんと水も弾くし、熱にも強くなる。なにこの夢の素材……。

「ミニィ、世界は広いなあ……これで鎧作ったら強いぞ……」
「ウソみたいですね。しかもこれ、金属じゃないので雷系の魔法は表面を滑ります。火炎系でも熱による火傷の程度は低くなりますよ……酷い、酷いです……強すぎです」
「どうして我々は今になって知るんだろうね。昔ほしかったなあ」
「でも強すぎですよ、コレ。卸先は考え物ですね」

 なんか我が領のお金儲けは何とかなりそうだ。

「そんでな?この草を干した後細かく切って、この木の汁と混ぜて、型を抜くと、色んな形を簡単に作れるっちゅーわけだ」
「わぁ! 可愛い置物いっぱい作れるね」
「わぁ! まるで繊細な金属職人が精魂込めて作った微細な彫刻が簡単にマネできますね! なんという贋作技術」
「ク、クレヤボンス……?」
「お任せください! 大将! 闇業界を席巻してやりますよハハハハハ!!」
「クレヤ、クレヤボンスーー!?」

 私達は教えてはいけない人物に教えてはいけない技術を教えてしまったのではないだろうか……?

「親方ぁ! この不肖クレヤボンスに親方の技術のすべてを教えてくださいー!」
「ワシの修業は厳しいぞ、ついてまいれ~!」
「がんばりまっす!」

 クレヤボンス本人が珍しく影から出て来て親方の後ろについていった……クレヤボンスあんな顔だったっけ??いつも変装してるから本人の顔を忘れ気味だ。

「ぼく、クレヤボンスさんって初めて見たかも」
「私も久しぶりに見たきゅん」
「金髪の緑目、結構かっこいい方ですよね。確か30そこそこでしたよね」

 私とラセル、ミニィ頬がくっ付くくらい近寄ってクレヤボンスの後ろ姿を見送りながらヒソヒソ話す。

「クレヤはモテ過ぎたんだよね。それでいろんなことが嫌になっちゃった」

 見た目も良く目立つ容姿、何をやらせても水準以上。若くて、確か何処かの商団の跡取り息子だったとか言ってたかな、お金もいっぱいあった。でもそれはクレヤボンスにとって良いことではなかったということだ。

「まあ、詳しいことは本人がいない場所で話すべきじゃないけど、あいつはいい奴だきゅん。絶対に信じてもいい、そんな奴」
「うん、ぼくもクレヤボンスさん好きだよ。良くびっくりさせられるけど」
「まあ、彼がいなきゃ我々もこうして日々健やかに暮らせない所もありますしね。感謝しています」

 どこで闇に手を突っ込んだのか本人が語りたがないから、私達も聞かないでおこう。そのうち何か知ることもあるかもしれない。その時で良いと思う。

「わっ!? 誰です? あのかっこいい人は! 浮気ですか、ミニィさんっ」
「いや、違うし……何言ってるの? アイザック。めんどくさい男は嫌われるぞ」
「ひっ!? 嫌わないで下さいっ」

 親方の後ろを興奮気味について行ったクレヤボンスとすれ違ったリゼレン君が青い顔をしてやってくる。ミニィとリゼレン君もなんだかんだで楽しそうにしているしきっとこの組み合わせは成功だろうな。
 ちょっと頑張りすぎるミニィをほどほどの所で冗談めかして止めてくれる。ミニィはいつも頑張りすぎるけれど、私が言っても聞いてくれないんだよな。恩があるとか義父上にはまだまだ追いつけませんとか。私なんて結構適当なのになぁ~。

「でも凄いね! ぼくにも鎧作って貰えるかな?」
「自分で作るのはどうかな? 私も子供用のを作りたいよ」
「わっそれ良いね! 親方とクレヤボンスさんを追いかけよっ」
「うん!」

 職人か……それも良いかもしれない。皆、ラセルは王様になるっていうけれど、王様が鎧職人でもいいよね?なんだってできる、何にだってなれる。その可能性の中から、自分で選び取って欲しい。
 自分で選択できるってとても素晴らしいことなのだから。

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