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143 だから、ごめんだったんだ

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 きっと後で合流するヘイズ兄弟に文句を言われるだろうと思いつつも肉汁溢れる腸詰をぺろりと間食して、全員で藁の上に寝っ転がる。食べられない白い鳥がまだ上空を気持ちよさそうに飛んでいた……私達もいい気分だ。

「さて、海となるとこのまま西に進路を取って、ハイランド国の隣のシヴァレイ国の海か、南に下って帝国領の海の二択ですね」
「せっかくだから言ったことがないシヴァレイに行ってみようか~?」
「行ったことない国行ってみたい!」

 お? ラセルがそういうなら進路は北でシヴァレイ方面に向かう事にしよう。向こうは少し寒くなってくるから、脂ののった魚が食べられるはず……これは楽しみだ。

「やーすまんのですけど、進路は南になりますわ。帝国領の海に行きますよ」
「へ?どゆこと?クレヤボンス」

 御者を任せているクレヤボンスが我々に聞こえる程度の声で話しかけてきた。思えば荷車は確かに南の方に向かっていた。

「どうかしたの?クレヤボンスさん」
「ラセル~、私もちょっと失敗しちゃってさあ~。ミニィ悪いね、ほい書類」
「ん?」

 無造作に放られた紙……くるくる巻いてあって、よく見ると蜜ろうで封がされてる……。待て、その紋は皇帝陛下の紋じゃない!? それ、超大事な書類だろ!? 何故投げる!!

「ミニィ!」
「ウワッ」

 慌てて手を伸ばして空中で捕まえることができたので無くさずにすんだけれど、一瞬で変な汗がでたぞ!

「ちょっと……帝国皇帝陛下直々の印なんですけどぉ?」
「だから、ごめんって」
「もう受け取っちゃったから、見ないといけないやつだろ。開けてみろよ」

 タムにも促されて、ミニィは渋々蜜ろうを割った。一体どんな面倒事が書かれているんだろう。

「えーと……ミニィ・ワイアード殿、貴君を我が帝国に迎え、南部辺境地を領地として伯爵とすることを認める……げ、私に爵位!? い、要らないっ!」
「だから、ごめんって。この中で平民以上の身分を持っているのはミニィだけでさ。だって大将の正式な養子だから

「うえぇ~めんどくさい……あれ?続きがある……ええと、下記の者を正式な養子と認める……ラセル、10歳。イアン、8歳。なお身分証明書は既に発行済みである……あー……身分証明書ね……」
「ちょーっと帝国でぱぱっと作っちゃおうと思ったら陛下にバレちゃって。こうなっちゃった、ごめんね!」
「あ~~!」
「他の皆はワイアード家所縁の者ってことで証明できるから便利だろって脅されちゃって……」
「あーー……」

 流石に私とタムの口からも諦めのため息が漏れた。クレヤボンスは闇ギルドで非正規の身分証明書を手に入れようとしてくれたんだろう……私達は公にしたくない過去を持っているからね。基本上手くやってのけるクレヤボンスだけど、マリアネットは罠でも張って待っていたのか……まあ、クレヤボンスは捕まってこんな約束をさせられちゃったんだろうな。
 ミニィには悪いけど、これはこれで私達のことを考えた最善の方法でもある。爵位があると何かと便利だし、本物の身分証明書は今の私にはとても助かるものだ。

「えっ! ぼく、ミニィさんの子供になったの? そしてイアンは弟!?」
「書類上そうなってるみたい。もう皇帝陛下の印も押してあるから正式に受理されてる……嫌かい?」

 ラセルは首が二つに見えるくらい大袈裟に横に振って、髪の毛に刺さっていた藁が全部飛んでいくくらいだった。

「ううん! ぼく、ミニィさんのこと好きだし! それにイアンが弟だって認めてくれたんでしょ! 凄く嬉しい!」
「そっか……ならまあ……良いか。面倒事は、皆、一蓮托生ですからね?助けてくださいよ」
「えーミニィなら何でもできるだろ。俺はそうだなあ、図書館でも作って貰って引きこもりたい」
「一人だけ楽しようとしても駄目ですよ、タム。いっぱいこき使ってあげます」
「げっ鬼領主か」

 一笑起こった所でクレヤボンスが更に書類を投げて来た……あ、これは受け取りたくない奴~絶対受け取りたくないやつ~~!それでもミニィは反射的に掴んでしまい、意外と女性にモテる顔がぐにゃんと歪んだ。

「……指令書って書いてあるぅ」
「そりゃやり手のマリアネット皇帝ですから、有力な手駒を遊ばせておかないんですよ……ごめんね!」
「まさか!」

 ミニィが慌てて封を破り中を確認する。拡げられた指令書を皆で覗き込んで……がっかりした。

「クレヤボンスぅ……海の話をマリアネットにしたね……?」
「言わなきゃ拷問されるかと思ってしまって、つい……」
「気楽な旅行が仕事になっちゃったじゃないかー!」
「だから、ごめんって」

 中には帝国領の港町リアハーバーで騒乱の兆しあり、早急になんとかしてこい、と書かれていたのだった。なんて適当な指令!

「穏便に、内密にだって」
「嫌だーー! いきなりそんなの嫌だーー!」

 頭を抱えてミニィは藁の中に潜ってしまったけれど、拒否できないやつだよね、これ。

「だから、ごめんって」
「あーーーーっ聞きたくないききたくなーい!」

 頑張って、ミニィ!



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