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140 我が軍の撤退速度をもってすれば

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 ハイランド城の正面門を抜け、外に出てすぐに始めたのはちょっと早まったかもしれない。でもやっておかないといけない作業だったから、早めがいいかなって思ったんだ。

「私もなんだけど……あの剣と杖の所有者をやめないといけないんだ」
「う~ん、僕達の物じゃなくなるって事だね」
「そう。だから所有を放棄する手続きをしよう」

 もしかしたら短剣の鑑定を行ったという鑑定人が大声を上げたかもしれない。古い物に詳しい奴がいたら走り寄ってきたかもしれない。でも、その時妨害はなかったんだ。

「ルセラ・ハイランド……いや、ただのラセル。君はあの短剣の所持者たることを今ここで放棄しますか?」
「はい、します」

 うん、ルセラの物だった短剣はラセルの言葉にもきちんと反応をして契約解除の手続きを踏むことができるようだ。

「では私も。杖の所持者たることを放棄します……はい、承認っと……長い間ありがとうね」
「僕達の昔の記憶を運んできてくれてありがとう」

 契約が完了し、解除の光がふわりと舞った。ついでに私とラセルの足も地面から離れ、凄い勢いで動き出した。

「こんなとこで何やってんですか!! 将軍ッ!」
「ウワアアアアッラセル、我慢してーーーっ」
「へ?」
「う?」

 私がタムの小脇に、ラセルがミニィの小脇に挟まれ、城から全速力で遠ざかる。

「走れぇえええロイーーッずらかるぞーーっ」
「し、師匠!?隠密行動はもう良いんですか?」
「んなこと言ってる場合じゃねえっ逃げろーーッ」
「へ?」

 そして、魔法による契約が解除され、所有者を失い、長い年月を過ごした短剣と杖は、パキン、パキンと高くて澄んだ音を響かせて、最後に王様の手のひらの上でパアン!と弾けて粉々に砕け散った。

「は……?」
「ま、まさか……経年劣化を魔法で抑えていたのに、解除したから……こ、壊れた?」

 キラキラと光の粒に弾けた短剣と杖は、原型どころか存在自体が儚く夢のように消えてなくなってしまった。呆然と自分の手のひらを見つめる国王。今の今まで手にしていたのに、これから国を鼓舞するための最高の材料が跡形もなく消えて行ったのだ、目の前で。

「こんな、なにも……なくなる、なんて」
「わ、我々は何か夢でも見ているのでしょうか……」
「け、剣が……初代様の剣が……杖も、賢者様の杖が……ない、ない……なぜ」

 がっくりと膝をつく国王が遠目に見えた。でもそういうものでしょう? 自分の手から離れたら壊れるようにしておくものだよね?

「だよねえ? タム」
「だからって今しなくていいだろ! この考えなしッ! 追手をかけられたどうすんだよっ馬鹿大将ッ」
「えーまさか、そんなことしないでしょ」
「するかもしんねえだろ! ああいうのはもっともーっと離れてからやるもんだ!わかったかっ」
「ご、ごめん~……ぎゅ」

 そういえばそうか……壊れてなくなったら偽物をもう一度作れって言われる可能性とかもあったか……うーん失敗したなあ。まあでも我が軍の一番凄い所は撤退の早さだったからね。敵から逃げる速度はこの大陸で一番だって自負してるよ。そんな軍の隊長だったタムとミニィに任せておけばきっと大丈夫だよね~。

「早く逃げよう、タムー」
「今全速力で走ってるじゃねーか! この馬鹿大将ッ!」
「やだ、タム。口が悪い~ラセルに移ったらどうするのさ」
「だったらあんな場所で契約解除するじゃねーよ!!」

 も、もっともです。
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