【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
137 / 229

137 海しかない

しおりを挟む
「け、賢者様の杖も見つかったとは本当か!」
「お爺ちゃん……」

 私もミニィもタムも……多分どこかから気配を消しながら見守っているクレヤボンスも、向こうの茂みからこっちを見ているロイも全員意見がまとまった。
 うん、ラセルを連れてこの国を出よう、海に行こうって。

 もし仮に、祖父である前国王が一番最初にラセルの身を案じたなら、私達は様子を見ようとしたと思う。しかしどうだ? 第一声が杖だと。後はそんな男の息子と、そんな男が王だった国だ。程度が見えてしまった。

「ラセル、この杖は一体どこで手に入れたんだ!! 」
「何回も説明したよ。遺跡の三階で短剣と一緒に見つけたって……それにその杖はイアンにあげたんだ、もうイアンの物だし、短剣は僕のだ。返してよ、お爺ちゃん」

 ラセルの細い肩をギュッと掴み上げて必死な顔で尋ねる男を私達は無表情で見る。なんて事だ、ラセルが痛そうに顔をしかめている。きっと肩に指の跡がつくだろう……良い塗り薬をぬってやらないと。近くの建物の二階の窓から冷たい気配が漂ってくる。ああ、クレヤボンスはあの辺か。クレヤもだいぶ怒ってるなー……ミニィ達は間近にいるから怒りの殺気を綺麗に消しているけど、きっと髪の毛が逆立つくらい怒ってる目の色だ。怖い怖い。
 
「いたっ」

 前国王、いやクソジジィはもう少し強めにラセルの肩に指を食い込ませた。わがままを言う子供を無言の圧力で封じ込める大人の顔だ……私の大っ嫌いな顔。ぶん殴りたい。8歳児パンチで吹っ飛ばせるだろうか?攻撃補助魔法をてんこ盛りすればいけるな? そっとミニィを見れば小さく親指を立ててるし、タムはウィンクしようとして両目をつぶっている……やれる。

「ラセル、あれは国宝だ。お前のおもちゃじゃない」
「お爺ちゃん、でもあれは僕の大事な物ーー」

 私が右膝に力をいれ、ほんの少し前傾姿勢になりかけた所で現国王が偉そうに現れた。ルセラの遠い血筋何だろうが似てない。全然似てない。快活さがない、覇気もない、なんか全体的にどんよりしてて濁ってる。なんか悪いことを続けて神様からそっぽを向かれた感がある……あと臭い。

「ぎゅっ」

 つい、鳴き声が漏れるぐらい臭い。何だろ、これ。動物の香料を焚き込んだのかな?こんなんじゃどこにいても居場所が分かるくらい臭い。これで戦場に出たら良い的だろうなー。あーやだやだ。

「ラセル、ならば入手場所を教えよ。そうでなければこれが真にお前の物だと証明出来ぬ」
「言った通りだってば!!」
「あの遺跡は地下二階までしかない。何年も調べて出ている結果だ」

 あーもー無駄過ぎる。ミニィも時間の無駄だと切り捨てたし、タムも半分は海辺の海藻について想いを巡らせてる。
 
「あそこは資格ある者が近づいた時だけ三階が開くんだけれど? 何年調べても分からなかったか? 床と壁にに魔力判定の魔法陣があるんだけど。あと剣がラセルのかどうか分かる簡単な方法があるけど教えて上げようか?」
「なんだ、この子供は」

 現国王は思いっきり不快に眉を寄せたが、ラセルがパッと振り向いた。

「僕のものだって分かる方法があるの?イアン」

 うん、この好奇心丸出しの輝く顔が良いんだよ、ラセルはね!

「短剣を鞘から抜けるのは持ち主だけだ。多分誰も抜けなかっただろう?」

 私の指摘に大人達は少し怯んだ。それは私の言葉が正しいからだろうな。

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

悪役に好かれていますがどうやって逃げれますか!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
「ネヴィ、どうして私から逃げるのですか?」 冷ややかながらも、熱がこもった瞳で僕を見つめる物語最大の悪役。 それに詰められる子悪党令息の僕。 なんでこんなことになったの!? ーーーーーーーーーーー 前世で読んでいた恋愛小説【貴女の手を取るのは?】に登場していた子悪党令息ネヴィレント・ツェーリアに転生した僕。 子悪党令息なのに断罪は家での軟禁程度から死刑まで幅広い罰を受けるキャラに転生してしまった。 平凡な人生を生きるために奮闘した結果、あり得ない展開になっていき…

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...