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「無礼であろう!殿下に向かって」
「何様のつもりだ!たかが兵士の癖に」

 王太子の連れて来た騎士達はどうも品のいい方ではないらしい。ミニィは軍の中でも大隊長だったから生半可な騎士よりずっと強いんだけどなあ。それに王太子は何故か答えてくれた。

「お前達、イアンを連れて行っただろう!返してもらおう」
「はあ?」

 その場にいた全員が首を傾げたに違いない。イアン・ワイアードは辺境で殺された後、王都へ移送され……凶悪犯として首を晒された。悔しそうにクレヤボンスが教えてくれたから間違いない。

「何を言っているんだ、義父上はアンタに暗殺の冤罪をかけられて殺され、死体は王都へ持って行っただろう!それを連れて行く?意味が分からないしそんなことできるわけがない!」
「いや、お前達が連れて行ったんだ、だからいつまでたってもイアンは私を見てくれない!! 」

 王太子殿下の言っていることが分からない……。

「ねえ……タム。前から少しおかしいかなって思ってたんだけど、殿下おかしくないか?」
「ああ、やばいな。目が変だぞ……ありゃ相当やばいな」

 ミニィの後ろでタムとヒソヒソと話す。私は不本意ながら何かあった時の為に子供の姿でタムに抱っこされている。伺うようにそっと王太子を見れば何か目の色が異常だ……精神状態も良くないみたいで、錯乱しているように見える。前々からたまにおかしなことを口にしていたけれど、割とちゃんとした王太子だったのに、今は何を言っているか全然分からない。

「意味が……意味が分からない!!アンタが義父上を殺したんだろう!アンタが殺したのに、どうして俺達が義父上を連れて行く?!ああ、出来る事なら死ぬ前に義父上を連れて行きたかったさ!!なのに、義父上は残される者のこと、国のことを考えて戦っていたのに、それをアンタが殺しておいていまさら何を言う!」

 確かに私は皆から国に見切りをつけるようにずっと言われ続けて来た。頑張った所でそれに見合う報酬は貰ったことはない。それどころか悪意の言葉ばかり浴びせられ、更に理不尽な戦場へ送られる。それでも私がいなくなったらこの国はどうなるのか、部下達、兵士達のことを考えると私一人逃げ出すことはできなかった……。

 その結果、辺境のあの村で一人、死んでしまう事になった……あっけない幕切れだったと思う。

「だって……あのままだとイアンは私を見てくれない、私だけを見て欲しい……だから、殺したんだ。私だけのものにするために!なのに、やっぱりイアンは私を見ない……いなくなったんだ。イアンがいなくなったらどこへいく?お前達の所だろう?だから、お前達の所にイアンはいるんだ」
「アンタは……そんなできもしないことをやろうとして義父上を殺したのか……」
「できもしない?そんなことはない。死ねばイアンはずっと私の傍にいてくれるだろう? 」

 唇の両端を三日月みたいに釣りあげて、虚空の眼をこちらに向ける王太子に、次代国王としての才覚は一片もみつからなかった。私もミニィもタムも……全員の背筋にぞわりと寒いものが走る。この人は、まともじゃない。


「……大将、王太子とそんな約束してました? 」
「す、するわけないだろう、私だって彼が苦手だもの。なるべく会わないように避けてたよ!それなのに意味が分からない剣術指南とかに呼ばれてさ……剣の指導かと思ったら何してたと思う?お茶飲んでケーキ食ってたんだぞ。そんな暇があるなら一枚でも書類を仕上げたかったのに、王太子だからしょうがなく応じてたけど」
「だよなー。帰って来てぐったりしながら徹夜で書類手伝ったもんなあ」
「怖いよ~タム……早く帰りたい」
「俺ももう帰りたい……」

 ちょっぴり泣いたって良いと思うんだ。

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