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110 ぼくは可哀想な子じゃない

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「君がラセルか。確かにセレスフィールの面影がある」

 落ち着いた低い声。ちょっと威圧感はあるかなって思ったけれど全然怖くない。怖さで言ったら怒った時のマリアお姉さんが一番怖かったから平気だった。

「ぼくはあなたのことを王様と呼ぶべきなんですか、それとも伯父さんと呼ぶべきなんですか? 」

 なんて話書ければいいのかちょっと考えても分からなかったから、先に聞いてみた。なんかマナーが良くないこととか聞いたけれど、マナーについては誰も詳しく教えてくれなかったからしょうがない。王様は口元を少しだけ上げて……笑ったみたいだった。

「そうだな、この椅子に座ってはいるが……今は伯父で良い。だがラセルの選択次第では国王と呼んでもらわねばならない」
「分かりました、伯父さん」
「うむ。して急な案件が入ったので手短になるがいいか?ラセル、父に聞いたがお前はここで王族として暮らして行くつもりか? 」

 ぼくは首を横に振る。

「ぼくはお母さんの家族がまだ生きているって最近知りました。だからどんな人か会いたかっただけです。会えたので帰ります。ぼくは生まれた村で暮らしたい」
「父と話が違うが」
「お祖父ちゃんはぼくの話を聞いてくれません、お祖父ちゃんはぼくが可哀想な子だと思い込んでいる。ぼくは可哀想でも何でもない」

 僕が言い切ると伯父さんはまた緩く笑った……なんだかその口元がお母さんに似ているからやっぱり兄妹なんだな、って納得してしまった。

「これは……確かにラセルはセレスの子だな。良くセレスが言っていた「私は可哀想な子ではありません」と。はは、口癖が移ったか?まあよい、ラセル。お前はお前が受けて然るべき王族としての扱いが必要ないというのだな」
「偉い人には責任があるんでしょう?ぼくはそんな責任嫌だって思います」
「……これは慧眼。ラセルの爪の垢でも飲ませたい貴族が大勢いるな?宰相殿よ」
「言及を憚らせていただきます」

 伯父さんは椅子の横に立っていた眼鏡のおじさんに笑いながら話しかけ、眼鏡のおじさんは目を伏せてそんな事をいった。ぼくの爪に垢なんてないけど。良く手を洗うようにイアンと約束してるもの!

「ラセル、何故怒っておる?」
「ぼくの手はきれいです!ご飯を食べる時に良く洗うようにイアンと約束してるんだから!」
「……陛下、ラセル様に謝るべきです」
「……それは、悪かった。たとえ話というやつだ」
「分かりました……」

 だってこの場にいる全員がぼくの爪に垢がついてるかもしれないって思ったんだよ?流石に嫌だよ!だってここにはたくさんの衛兵さんもいるんだから……。

「ラセル、何故だ!ここで暮らすのではないのか!?」
「ぼくは村に帰るよ、お祖父ちゃん」

 どこにいたのか分からなかったけど、お祖父ちゃんが大股でぼくに近づいてくる。

「何が不満なのじゃ、ここはセレスが産まれて育った場所。おぬしの体の中には我が王家の血が流れておるのだぞ」
「でもぼくが産まれて育った場所じゃない。それに伯父さんに言ったけれど偉い人には偉い人がしなきゃいけないことがある。ぼくはそんなの出来そうにないし、それにぼくはイアン達と暮らしていたいんだ」
「イアン!?あの狐の事か!あの者どもはお前を置いて戻ったではないか」
「違うよ、イアンはすることがあるから一回離れたんだ。用事が終わったらまた一緒に暮らすんだよ」

 お祖父ちゃんがぼくを信じられないようなものを見る目で見降ろしている。でもその視線からぼくは逃げずにしっかり向き合った、だってぼくのしたいこととお祖父ちゃんのしたいことは一緒じゃなかったんだもの。僕はこれからもイアンと……できればミニィさんやタムさん、ヘイズさん達と一緒に暮らして行きたい。
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