【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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86 目立ってはいけません

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 私の手元にイアンが届いた時にはもう冷たくなっていた。

「……」

 目はもう二度と開かなかったが、悲しくはなかった。抵抗少なく、心臓を貫かれたというイアンの体は損傷が少なく、あまり死を感じさせなかったからだと思う。
 だが、私は非常に焦った。

「王太子殿下を暗殺しようとした裏切者ですぞ!晒すべきです!」

 無能共がそう言ってイアンを連れ去ってしまったのだ。おかしい、おかしい……ずっと私の傍にいるはずだったのに、なぜ、死してなお私と共にいてくれないのか!

 だからイアンの部下達が辺境の村に集まっていると知って気が付いたのだ。イアンはそこにいると。なんとか手に入れたイアンは私のイアンではなかった、私は私のものを取り返しに行かなければならないーー。



「へ、きゅんっ! 」
「イアンのくしゃみ面白い!」
「うー……誰かがなんか変な噂してそ~」

 ずっと幌の上に乗っていたかったけれど、クレヤボンスに下ろされてしまった。

「イアン様ぁ~駄目ですよ。すれ違う馬車皆に挨拶しちゃあ。俺達一応お忍びで逃げてるんですよ」
「え、だってラセルが」
「だから目立つんですよ、何やってんスか」
「だってラセルが楽しそうだから」
「もうあちこちで話題になってますよ、男の子と子狐が楽しそうに旅をしてるって、どーすんスか」
「え、ホント? 」
「きっとマリアおねーさんも頭抱えてますよ……」

 や、やってしまった~~。ついラセルとの旅を満喫していた、そうだった私達逃げてるんだった。

「ごめん、今度から目立たないようにする」
「頼みますよ~もう」


「すれ違った馬車の人達から幌の上で男の子と子狐が気持ちよさそうに寝ているが、落ちそうで心配だって噂が」
「ああああついーー天気が良いもんで!」

 上に乗るのが禁止になってしまった……残念だ。それでも私達は順調へハイランド王国へ向かっていた。ハイランド王国への国境に明日にはつくだろうという日の夜、皆に集まって貰ってラセルへハイランドへ行く理由を話す事になった。我々がガルエン王国から逃げていることは伏せておいたけれど。

「ラセル、君は……君のお母さんは今から行くハイランド王国の出身じゃないかと思っているんだ」
「え?そうなの?ミニィさん」

 この中で一番説得力がありそうなミニィが語り役になる。クレヤボンス辺りじゃ嘘にしか聞こえないからね。

「うん、前にさ、ラセルの家にちょっと入ったことあるだろ?そん時に壁掛けを見たんだ。それにハイランド王家の家紋があったんだ」
「お、王家?!」

 王家の家紋は嘘である。そんな分かりやすいものを壁にかけて置く訳がない。ミニィは息を吐くように嘘をつく。一体誰の教育だ、全く……私か。
 実際は「ハイランド織」というハイランド地方でよく作られている織り方の壁掛けだったんだけどね。そこからラセルがいない時にちょこっと家探しをさせて貰ったら床下から色々出て来た訳だ。

「うん、だから親戚がいないか確かめに行ってみたくてね。もしかしたら、おじいちゃんとかおばあちゃんがいるかもそれない」
「ぼ、僕の家族がイアン以外にも生きてるかもしれないってことだね」
「うん。もしかしたらラセルのお父さんとかお母さんを探しているかもしれないだろう?いるなら会ってみて損はないはず」
「わかった」

 ラセルはしっかり頷いた。流石ミニィ、説得は最高に上手い。これでハイランドに行く理由は理解してもらえただろう。
 後は元我が国、ガルエン王国からの追手が諦めてくれれば良いんだけど。

 

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