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74 誰に優しくあるのか、誰に厳しくあるのか
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「それでオスカー君はどうしてぼくにそんなこと言うの? 」
「そ、それはレオン様の事を思って」
「レオンははっきり迷惑だって言ってるのに? 」
「え、あ……」
ラセルとオスカーの間でレオンはラセルの言葉に大きく頷いている。ついでに言えばマリアネットも頷いているので、どうやったってオスカーに逃げ道はない。
「ねえ、君はどうしてぼくを怒鳴りつけるの?何もしてないのに叱るなんて村の皆だってしない。君は一体何なの? 」
「わ、私は、私は、貴族だ! 」
「貴族は何も悪いことをしていない人を怒鳴りつけるのが趣味なの?仕事なの? 」
「貴族は、え、えらいんだ!偉いから、偉くない奴を叱っても良いんだ! 」
「変なの」
圧倒的にラセルの勝ちだ。こんな貴族はごまんといるけれど、我々程大人になってしまうと一々相手にするのは面倒で適当に追い払うが、子供ならばとことんやり合うと良いかも知れない。
私は離れて見守ろう、子供達の考えを。ひいてはこの帝国の未来、なのかもしれない。
「では、私はオスカー、君を叱って良い訳だな」
「ならば私も叱って良いのですね」
「私もぉ。確か神殿は相当な権威があるんですもんね?叱っていいんですよね?」
「え」
ラセルの横にレオンとセドリック、フィンが並ぶ。
「私は現皇帝の甥だから、オスカーがいう所の偉い人だろう?なあ、オスカー」
「あ、あの」
「私は公爵家の跡取りだ。爵位が君より上なら私の方が偉いんだろ?オスカー」
「え、あ……」
「そういうことです、オスカー。私、説法はまだ得意でないんですけど、偉そうにいっぱい叱ってあげますね」
「う……」
そう来たか。子供達はよく見ている。人を見る目というものはとても大切で、よく磨かれ台座に飾られた石より、土と岩に挟まれ、ただの塊の中の宝石を見出す力。
「どうだ?イアン。私の甥は素晴らしいだろう? 」
「見所があるきゅん……でもラセルの方が良いな、やっぱり」
「慈悲将軍の身内贔屓は相変わらず現在か! 」
「身内を可愛いと思わぬ長がいないわけが無いきゅん!マリアだってそのはずだきゅん」
「そうかな」
子供達の姿を見ながらも瞳の見つめる先は遠い。過去にあった事を思い出しているのうに見えた。
「優しく出来ないような奴がいるなら、そいつは身内じゃなかったんだきゅん」
「へ?」
「血が繋がっていようがいまいがそいつは身内ではなかった、そういうことだときゅん。分かったかきゅん」
マリアはびっくりした顔をしてから、私をそっと抱き上げた。そして背中辺りに顔を埋める。もふっと音がしそうだなぁ。
「そうか、そうだったのか。血が繋がっていてもアレは身内ではなかったんだな。大叔母は、敵だったか」
「身の内から苛むのは身内じゃなくて寄生虫だきゅん。知らないのかなぁ?ファーマ皇帝はまだまだだきゅん」
子狐に諭されるとは、大丈夫かなぁ?
「……くそっ日向の匂いしかしないな。お前なら加齢臭の一つや二つくらいすると思ったのに」
ぎゃん?!な、なんて事を!!おじさんの繊細な心に酷いっ!
「ぎゅおおっ……!」
「はは、冗談だ。イアン、私はすぐに決定しなければならない事案が見つかったから執務室へ戻る。子供達を見守ってくれ」
「良いけど、あのオスカー君とやらの迎えをくるように手配しといてよ。あの子がいると子供達の勉強が始まらないきゅん」
「分かった、適任を送っておく」
くるりと踵を返して靴音叩く歩き出す様はマリアお姉さんから皇帝マリアネットに変わっていた。豪奢で優美でいて……血塗れの真っ赤な権威の天鵞絨のマントが見えるようだ。
その血塗られた道を歩いて行く力強さ。例え私が彼女の腹心であったとしても後に続けはしないだろう。
マリアネットの道はマリアネットが築いた道なのだから。彼女自身が流した血と涙で平らに踏み固められた道なのだから。
「そ、それはレオン様の事を思って」
「レオンははっきり迷惑だって言ってるのに? 」
「え、あ……」
ラセルとオスカーの間でレオンはラセルの言葉に大きく頷いている。ついでに言えばマリアネットも頷いているので、どうやったってオスカーに逃げ道はない。
「ねえ、君はどうしてぼくを怒鳴りつけるの?何もしてないのに叱るなんて村の皆だってしない。君は一体何なの? 」
「わ、私は、私は、貴族だ! 」
「貴族は何も悪いことをしていない人を怒鳴りつけるのが趣味なの?仕事なの? 」
「貴族は、え、えらいんだ!偉いから、偉くない奴を叱っても良いんだ! 」
「変なの」
圧倒的にラセルの勝ちだ。こんな貴族はごまんといるけれど、我々程大人になってしまうと一々相手にするのは面倒で適当に追い払うが、子供ならばとことんやり合うと良いかも知れない。
私は離れて見守ろう、子供達の考えを。ひいてはこの帝国の未来、なのかもしれない。
「では、私はオスカー、君を叱って良い訳だな」
「ならば私も叱って良いのですね」
「私もぉ。確か神殿は相当な権威があるんですもんね?叱っていいんですよね?」
「え」
ラセルの横にレオンとセドリック、フィンが並ぶ。
「私は現皇帝の甥だから、オスカーがいう所の偉い人だろう?なあ、オスカー」
「あ、あの」
「私は公爵家の跡取りだ。爵位が君より上なら私の方が偉いんだろ?オスカー」
「え、あ……」
「そういうことです、オスカー。私、説法はまだ得意でないんですけど、偉そうにいっぱい叱ってあげますね」
「う……」
そう来たか。子供達はよく見ている。人を見る目というものはとても大切で、よく磨かれ台座に飾られた石より、土と岩に挟まれ、ただの塊の中の宝石を見出す力。
「どうだ?イアン。私の甥は素晴らしいだろう? 」
「見所があるきゅん……でもラセルの方が良いな、やっぱり」
「慈悲将軍の身内贔屓は相変わらず現在か! 」
「身内を可愛いと思わぬ長がいないわけが無いきゅん!マリアだってそのはずだきゅん」
「そうかな」
子供達の姿を見ながらも瞳の見つめる先は遠い。過去にあった事を思い出しているのうに見えた。
「優しく出来ないような奴がいるなら、そいつは身内じゃなかったんだきゅん」
「へ?」
「血が繋がっていようがいまいがそいつは身内ではなかった、そういうことだときゅん。分かったかきゅん」
マリアはびっくりした顔をしてから、私をそっと抱き上げた。そして背中辺りに顔を埋める。もふっと音がしそうだなぁ。
「そうか、そうだったのか。血が繋がっていてもアレは身内ではなかったんだな。大叔母は、敵だったか」
「身の内から苛むのは身内じゃなくて寄生虫だきゅん。知らないのかなぁ?ファーマ皇帝はまだまだだきゅん」
子狐に諭されるとは、大丈夫かなぁ?
「……くそっ日向の匂いしかしないな。お前なら加齢臭の一つや二つくらいすると思ったのに」
ぎゃん?!な、なんて事を!!おじさんの繊細な心に酷いっ!
「ぎゅおおっ……!」
「はは、冗談だ。イアン、私はすぐに決定しなければならない事案が見つかったから執務室へ戻る。子供達を見守ってくれ」
「良いけど、あのオスカー君とやらの迎えをくるように手配しといてよ。あの子がいると子供達の勉強が始まらないきゅん」
「分かった、適任を送っておく」
くるりと踵を返して靴音叩く歩き出す様はマリアお姉さんから皇帝マリアネットに変わっていた。豪奢で優美でいて……血塗れの真っ赤な権威の天鵞絨のマントが見えるようだ。
その血塗られた道を歩いて行く力強さ。例え私が彼女の腹心であったとしても後に続けはしないだろう。
マリアネットの道はマリアネットが築いた道なのだから。彼女自身が流した血と涙で平らに踏み固められた道なのだから。
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