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73 これも勉強だろう

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 そんな中でやはり起こった。

「なんで貴様のような平民がレオン様やセドリック様、フィン様と会話をしているのだ!去れ!!」
「え?」

 子供にしては大きな声。大人達は全員気が付かないふりで、聞いている。もちろん私もだ。貴族は物分かりが良い人間の方が少ない。ラセルはありがたいことに「良い貴族」としか顔を合わせたことがなかった。

「頭が高いといっているんだ!跪け!平民が高貴な方々と同じ振る舞いをして良いと思っているのか!」
「……」

 声高に叫ぶその少し年上だろう貴族の少年を、ラセルはぽかんと口を開けてみている。珍獣、初めて見るタイプだろうね。

「黙れ、オスカー!貴様、勝手に私達の後をつけて来たくせに何を言っているんだ!帰れ!」
「いいえ、レオン様。レオン様がこのような平民と会うなどと言語道断です!レオン様こそ王宮へお帰り下さい!」
「帰るのは貴方です、オスカー・セレイブ侯爵令息。許可もなく我々の後をコソコソと、恥を知るのは貴方の方だ!」
「……帰って、オスカーさん。ラセルごめんね、びっくりしたでしょう?あの人のことは気にしないで。いつもああなんだ……理解できないよ」

 秘密の通路から今日もレオンとセドリック、フィンが顔を出してラセルも入れ、4人で今日の勉強内容を組み立てている時に、今日はさらに追加で少し大きめの少年が来た。真っ赤な髪の少年の名前はオスカーというらしい。確かにセレイブ侯爵という貴族がこのファーマ帝国にいることは知っている。そこの子供らしい。
 見る限り、レオン殿下のご友人といった所だろうな。そしてセレイブ侯爵はレオン殿下の派閥ということか。現皇帝のマリアネットと彼女の甥にあたるレオンとの関係は悪くなさそうに見えるが、派閥となるとまた話が違ってくるのだろうな。現皇帝マリアネットが結婚し、子を設けたらその子を次期皇帝にするべきだというマリアネット派とマリアネットの兄の子であるレオンを次期皇帝に推したい派閥と。二人の思惑など派閥には関係ない、ただ対立しているそれだけだ。
 マリアネットではなくレオンに取り入りたいセレイブ侯爵という図が見えてくる。そしてセレイブ侯爵はきっと昔からのしきたりを重んじる人なのだろうな、と思う。

「ええと、あの人は物凄く強いの?」
「そんな事はない。ラセルの方が強い」
「じゃああの人は物凄く偉いの?」
「いや、侯爵家の跡取り息子ではあるが、レオンやマリアお姉さんの方が偉い」
「じゃあなんで僕に命令して来るの? 」
「お前が平民だからだ! 」
「僕はこの国の人間じゃないよ。なのにどうして? 」
「どこにいても平民は平民だ!平民が貴族に反抗する事は許されんことだ!」
「許されん?誰に許されないの?」
「皇帝陛下だ!」

 話は長くなりそうだが、これも教材となるだろう。ラセルだけでなく、レオンやセドリック、そしてフィンにも。虎の威を借りることもできない者がいかに滑稽であるか。

「私はラセルのことを大切な友人であり、弟弟子だと思っているが?」
「は!何を……ひっ!皇帝陛下っ」

 慌てたってもう遅い。マリアネットは最初から子供達の様子を見ていたから、言い逃れは出来ない。

「で?皇帝陛下のお友達は一体誰の許しを得なければならないのだ?オスカー・セレイブ」

 少し圧をかけただけでオスカーは青くなって震えているが、これもオスカーの為だろう。間違った事は早めに正すべきだもの。

「で、では……では、神が」
「ラセルは私達の大切な信者だが?君より信仰心の厚いラセルを私達が叱るはずないんだけど?ねえ、兄上様? 」
「そうですね、ティン。ラセルは我らに新たなる風を送り込む稀有な存在。我らのお気に入りです」

 すっとティエン様とティン様の幻影が見える。すかさずフィンが深々と祈りの姿勢を取るから、レオンとセドリックも真似をしている。

 人ならざる神秘の輝きを纏った二人の神様の姿を見て、オスカーは何を思うのだろう?

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