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23 なぜ君がここに!

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 混乱する私の耳に聞こえてはいけない声が聞こえて来た。

「イアンーー!イアン、どこーっ?!」
「ラセル?!」

 子供特有の良く通る声は辺りに響く。別の名前ならまだ良かったんだろうけれど、その名はこの場にいる皆の注目を集めるだろう。

「何でラセルが!」
「後ろからアムフェルが追いかけて来てます、子狐がいない事に気がついて探しに来たのか?! 」

 裏山に避難させていたラセルが山から駆け降りて来るのが見える。なんて事!危ない転ぶ!

「ラセルっ!! 」

 タムの腕から飛び降りてラセルの元へ走っていく。ラセル!ラセル!ラセルは持っていた絵本を放り投げて両手を広げてくれた。

「イアン!イアン!心配したよ、どこにもいないんだもん、皆で避難訓練したのに、イアンの姿が見えなくて、僕とても不安で。隠れてなきゃダメって言われたけど、イアンがいないなんて」
「ごめん、ラセルごめんね、タムさんと避難する途中だったんだよ」

 しまった、いくら戦況を見るためとはいえ、ここに残るのは良い事じゃなかった。ラセルは私がいなくてとても不安に思ったことだろう、ごめんねラセル。ラセルを不安にさせるなんて私はなんて馬鹿なことをしてしまったんだろう!
 ぎゅっと抱きしめてくれるラセルは少し震えていた。怖かったんだね、ごめんよ、ラセル。

「イアン、イアン!どこにもいかないで!ずっと僕と一緒にいて」
「一緒にいるよ、どこにもいかないきゅん!一緒だきゅん!」

 爪を立てないようにラセルにしがみつく。ごめんね、ラセル。

「シャベッタ」
「ひぃ」

 気がつくとラセルの横に真っ黒な人が立っていたんだよね、やってしまった。

「うわぁああ!」「うおおあおーー!」「ぎゃーー!」「ひいいい!」

 元我が部隊が誇る隊長達が魔力の放出を始めるが、バレたと思う。人には魔力がある、生きるものには大なり小なりあるんだけれど、魔力には色がある。
 私はとても綺麗な赤だ。少し深みのある真紅。タムは蒼雷の名に相応しい蒼。ミニィは赤だが、私よりパッと目を引く明るい赤で、クレヤボンスは黒に近い紺色といった感じ。だから魔力の色で誰なのか判別することが出来るんだ。
 だから遠くからでもこの漆黒の魔力で黒曜将軍だって分かったんだけれども。

「赤い……」
「ひっ!」

 黒曜将軍がラセルを見ている。いや、正確にはラセルに抱っこされた子狐の私だ。

「似ている……だが、少し違う。無理矢理、黄色……金色?を溶いたような。異素材を無理矢理混ぜ込んだ、色をして?狐、か」
「わーわーわー!」

 ミニィが決死の表情で将軍とラセルの間に飛び込んだ。

「わーわーわー!」
「そこを退け、百頭」
「ひぎゃぁ!」

 怖いよね!怖いよね!!黒曜将軍からこんだけ至近距離で睨まれたら怖いよね!
 ラセルもびっくりしてカチコチに固まっている。

「うわぁーーー!」

 タムも死を覚悟した顔で飛び込んだ。

「ラセル!こっちだ!」

 物陰からあまり出たがらないクレヤボンスが飛び出て、ラセルの体を捕まえて走り出す。

「アムっ!」
「クレヤさん、こっち!」

 クレヤのおかげで黒曜将軍から少し距離が空いた。

「逃すかっ!」
「やらせっか!」

 追い縋ろうとした将軍の前に立ちはだかるのはヘイズ。剣はまだ抜いていないが、火花が飛び散りそうだ。

「どけっ!六剣!俺は確かめなければ……アレは俺の嫁ではないか!?」
「ぜってーちがうから安心しろッ!行け!アム、クレヤボンス!」
「死なないで、ヘイズさん。もげたら繋いであげますから!」
「お前の死は無駄にはしないぞ、ヘイズっ!」

 アムフェルとクレヤボンスのいうことは少々物騒だが、相手が黒曜将軍では仕方がない。本当なら私が加勢して、撤退したいところだが、子狐では力不足もいい所だ。……爪まで柔らか筍とか言われちゃったし……ひ、ひっかき傷くらいつけられるはずなのに!筍じゃないもん!

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